HOME >> コンテンツ一覧 >> 医療安全をとりまく動向ここに注目! >> 転倒・転落を防ぐために必要な用具と環境整備

転倒・転落を防ぐために必要な用具と環境整備


 医療施設に入院している患者の療養環境について研究している「療養環境研究会」(代表:三宅祥三さん・武蔵野赤十字病院院長)は、2005年4月23日に第2回目の会合を開き、患者の転倒・転落を防止するために必要な物的対策を導き出すためのチェックシートと対策表を発表した。インシデントや事故を防ぐ方策として、療養環境面にも目を向けるきっかけになると期待される。


転倒・転落インシデントの傾向と求められる対策

 会合の冒頭、京都大学医学部附属病院看護部長の嶋森好子さんから、転倒・転落のインシデントの実態とその対策についての課題が報告された。嶋森さんは04年度まで、医療機関から厚生労働省に提出されたヒヤリハット事例等の記述情報事例を分析した経験がある。

 「転倒・転落は、インシデントの中でも常に上位から2〜3番目に位置するほど多い。かつては移動や移乗など、看護師の介入に絡んだ転倒・転落のインシデントが多かったが、最近はそれらが減り、代わりに患者の自力行動によって発生する例が増えている」と、説明。患者の転倒・転落のリスクを事前にアセスメントシートを用いて評価する医療機関が増えているが、アセスメント内容を患者と共有し、転倒・転落のリスクを患者にも認識してもらうことが必要であると指摘した。

 「特に高齢者の場合は、身体機能や認知機能の衰えを認めたくないばかりに、自力で行動しようとする傾向が高い。患者自身が心身の機能低下に気づき、移動や移乗時の援助を看護師に気軽に委ねられるような関係を築きながら、支援していくことが大切である」と、嶋森さんは述べた。

 また、転倒・転落が発生する頻度の高い場所として、トイレを挙げた。トイレまでの動線が複雑であったり、不明確であるために事故が発生する例や、手すりがなかったり、段差でつまずくなど、トイレの構造上の不備が事故につながっている例が紹介された。


転倒・転落を防止するためのチェックシートと対策表

 続いて、国立保健医療科学院施設科学部の須田眞史さんから、転倒・転落の具体的な対策に関する厚生労働科学研究(医療施設における療養環境の安全性に関する研究、主任研究者:三宅祥三さん)の結果が報告された。

 同研究は03年度〜04年度にかけて行われたもの。東京都内5カ所の急性期病院、計14病棟において転倒・転落した患者の事例(118件)を収集し、患者の属性や動作能力、転倒・転落に至った経緯、周辺環境の様子などを調査。その結果に基づいて、転倒・転落が予想される患者への物的対策を導き出すためのチェックシートと対策表を作成した。それらは実際に都内2カ所の急性期病院で使ってもらい、物的対策の有効性を検証した上で、内容の見直しがなされたものである。

 チェックシートと対策表は、「ベッドからの転落」「ベッドまわりでの転倒」「トイレでの転倒」「廊下歩行中の転倒」の4種類。

 「ベッドまわりでの転倒」のチェックシートでは、患者の認知・理解力に問題がないかどうかを調べた上で、臥位→端座位→立位→歩行→端座位という一連の動きをチェックする。「臥位から端座位になる」「端座位から立ち上がる」など8つの項目について、「自立」「見守り・部分介助・全介助」「不能」のいずれであるかを評価して、患者を5つのタイプに分類。その分類に従って対策表を見ると、患者像や環境設定の目標、転倒を予防するための具体的な物的対策がわかるようになっている。

 例えば、認知・理解力に問題があり、チェックシートで臥位→端座位→立位→歩行→端座位という一連の動きのいずれかが、「見守り・部分介助・全介助」または「不能」と評価された場合、患者は「タイプB-供廚乏催する。

 対策表で「タイプB-供廚鮓ると、患者像は「移動動作要介助」で、環境設定の目標は「患者がベッド上から起き上がる時に看護師が察知する環境を設定する」となっている。転倒を予防する方法としては、ベッドの配置をナースステーションの近くにするなど検討した上で、離床センサーや座面センサー、立ち上がりなどを支援するための手すりをベッドサイドに設置するなどの対策が導き出されるという具合だ。

 ただし、これらタイプ別の対策を実施するにあたっては、患者の状態に適したベッドの配置、床材、照明、履物について適切な対応をとることが前提となっている。

 また、転倒・転落が発生しやすいトイレの設備についても、患者のタイプ別分類に応じて、「一般トイレ」と「車いす兼介助トイレ」を組み合わせて設置する必要があるとし、どこに、どれだけの数を設置すればよいかのモデルが示された。

 さらに、今回の研究対象となった医療機関の看護師の、転倒・転落対策への意識の変化も明らかにされた。ベッドまわりでの転倒・転落に対して、看護師が考える対策を調査した結果、03年度は患者へのナースコールの指導や、看護師による頻回訪室、見守り強化を挙げる例が49.4%、物的対策を挙げる例が58.2%だったが、04年度は、前者が25.0%、後者が75.0%となり、物的対策を重視する傾向が高まっている旨が報告された。

 「看護師による頻回訪室や見守り強化などの人的努力から、物的対策へと意識が広がった表れ」と、須田さんは分析。転倒・転落対策を人的努力だけに求めるのではなく、療養環境面にも目を向ける必要性があると指摘した。


物的対策を実施する上での課題

 当日は、研究に参加した急性期病院の担当者から、物的対策を進める上での課題などが発表された。武蔵野赤十字病院の専任リスクマネジャーである杉山良子さんは、「看護計画に物的対策を組み込むことで、転倒・転落の事故件数に低減傾向がみられるが、看護師が患者の状態と転倒・転落防止用具の使用を合致させて使用できるようになるまでには、ある程度の時間がかかる」と話し、用具の適切な使用方法や上手くいった事例を伝える中核的なスタッフが必要であると訴えた。また、用具が増えるに従って、それらの保管や保守・点検をどの部署が担当するかという課題も浮上していると述べられた。

 NTT東日本関東病院看護部の看護長である濱田より子さんは、離床センサーを使った結果、「感度が患者によって異なる」「部品がバラバラになりやすい」「設置に時間がかかる」「高額である」などの問題点を指摘。メーカー側には、使いやすさや感度を向上させた上で、出来るだけ安価な製品を提供して欲しいと話した。

 療養環境研究会の世話人である国立保健医療科学院施設科学部長の筧淳夫さんは、「転倒転落を防止するには、マンパワーによる対策と物的対策を組み合わせて実施する必要がある。今後は導入した用具をどうやってマネジメントしていくかが課題となる。作業環境や維持管理をどう確立させていくかも療養環境研究会で引き続き検討していきたい」と、結んだ。

 チェックシートと対策表の詳細についての問い合わせは、武蔵野赤十字病院へ。


 





療養環境研究会には、医療・福祉施設のスタッフや
建築・設備の専門家、医療機器・用具メーカーなどが参加し、
療養環境面から転倒・転落などを防止するための方策を検討している。