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コツをつかんで、技術力のアップを目指す内視鏡外科手術のトレーニング講習会


 内視鏡外科手術は、患者の体への負担が少ないなどの理由で急速に普及している。だが、開腹手術とは異なる特殊な技術を要求されるため、医師への教育機会の必要性も叫ばれている。そんな中、日本内視鏡外科学会(理事長:北島政樹氏・慶応義塾大学医学部教授、会員約6千人)は、ベテランの医師による実技トレーニングの講習会を企画し、医師のレベルアップを図ろうとしている。その取り組みを取材した。



受講者に好評なプロによる実技指導

 7月下旬の日曜日。東京都内で「内視鏡下結紮(けっさつ:血管などを絞め、閉塞させること)・縫合手技講習会」が行われた。参加した医師は約30人。会議室にずらりと並んだ内視鏡外科手術用のトレーニングボックス(練習装置)を前に、各自がモニターを見ながら、両手に持った長い器具(持針器)を操る。トレーナーの医師3人が見守る中、参加者は内視鏡外科手術で行われる糸結びの練習に励む。

 同講習会は、日本内視鏡外科学会が主催。今年3月から、全国7カ所で実施中だ。各回の定員は20人〜30人。熟練した内視鏡外科医から直接手ほどきを受けられると好評で、毎回、定員を上回る応募があるという。急遽、追加で講習会が企画されるほどの人気ぶりだ。

 内視鏡外科手術は、患者の腹部などに小さな穴を開け、そこから内視鏡や持針器などを入れて行う手術。医師はモニターに映し出された体内の画像を見ながら、持針器などを動かして手術を進める。開腹手術よりも傷が小さくて済み、術後の回復が早いなどのメリットがある。

 国内では1990年に胆のうの摘出に導入されたのが始まりで、機器の改良とともに、さまざまな領域に広がっている。日本内視鏡外科学会によると、2003年の実施数は約6万件に上るという。

 だが、その一方で医師の未熟な技術による医療事故も発生しており、技術力の向上と指導者の育成が課題となっている。平面的なモニター画像を見ながら手術をする内視鏡外科手術は、従来の開腹手術とは異なる特殊で高度な技能を要求されるからだ。

 「学会では、これまで講義形式のセミナーを実施してきた。だが、結紮や縫合の手技の習得には、手と眼の動きを協調させることの出来るトレーニングボックスを用いた練習が効果的であることが実証され始めている。学会が推奨する手技を学んで、技術力の向上に努めてもらいたい」と、日本内視鏡外科学会教育委員会委員長の黒川良望さん(東北大学先進医工学研究機構教授)は講習会を企画した狙いをこう話す。

 トレーニングボックスは人体に見立てた箱で、8個の穴が開いている。その中から適当な穴を選び、先端に開閉出来る鉗子の付いた持針器を挿入。医師は眼前にあるモニター画像に映し出されたボックス内部の様子を見ながら、持針器を操作する。


技術力の向上は毎日のトレーニングから

 講習会は、まず基本となる平結びの練習から始まった。持針器で針の付いた糸を挟み、トレーニングボックスの穴に入れる。臓器をイメージしたゴム製の膜に針を通して、両手に持った持針器をスイッチさせながら糸結びを行う。

 指導役の金平永二さん(四谷メディカルキューブ・きずの小さな手術センターのセンター長、内視鏡外科医)によるデモンストレーションが終わると、参加者は各自練習に取り組む。だが、要領がつかめず、とまどう様子も見受けられた。

 記者も持針器を操作してみたが、やはり思うように動かない。2次元で示されるモニター画像はとにかく遠近感がつかみにくい。細かい操作に集中力が要求され、肩に力も入る。慣れるには、相当な時間がかかりそうだ。
 
 「まずは2次元の感覚をつかむことが大事。それと両手を意識しながら操作すると、左右の協調性が育まれる」と、金平さんはアドバイスする。

 参加者は、平結びに必要とされるループ(輪)の作り方や持針器の操作の仕方などを金平さんらに教わりながら、ひたすら練習を繰り返す。

 平結びの練習を終えると、次はその応用編であるスリップノットの練習だ。あらかじめ結び目を作ってから、ずらして締め上げる方法だ。胃に見立てたスポンジを使って、逆流性食道炎の治療法である噴門形成術を学ぶ。この頃には、参加者も持針器の操作に慣れた様子だ。どうやらコツを学んだようである。

 参加者の1人である消化器外科を専門とする医師は、「左右の手の力を借りて針を用いたり、糸のひねり方などのコツが学べた。教科書を読んだり、セミナーに参加するだけではこうしたコツはわからなかった」と、プロから直接教えてもらえる講習会は貴重な機会だと話す。

 金平さんは、「基本を知らないまま、自己流で行き詰まる医師が多い。講習会で欠点を見抜き、ちょっとしたアドバイスをすると、納得してくれる。その後の上達は早い」と、指摘する。

 その上達度合いは、講習会の開始前と終了後に行った平結びのタイムトライアル(時間計測)にも如実に表れている。開始前には平均で153秒かかっていたが、終了後には57秒に短縮された。

 「講習会に出席したからといって、すぐに技術力が高まる訳ではない。ただ、これをきっかけに、毎日10分間でよいので、練習に取り組んでもらえればよい。また、学んだことを、若手の先生方にも伝授していって欲しい」と、金平さんは参加者に訴える。

 同講習会では、希望者に結紮と縫合手技のビデオ録画も行っている。これは学会の技術認定制度の審査資料として提出することが出来るという。

 技術認定制度は、一定のレベルに達している医師の技術力を評価するもので、03年に導入された。消化器・一般外科、産科婦人科、泌尿器科などの分野で、2年以上の修練、一定の手術件数、学会が主催するセミナーへの参加などが申請の条件となっている。申請者は、術者として最近行った内視鏡下外科手術の未編集ビデオなどを提出して審査を受ける。その際、結紮・縫合手技は必須の要件。ただし、最近の手術時にそれら操作がない場合は、講習会でのビデオ録画を提出してもよいことになっている。

 ちなみに今春初めて技術認定制度の審査が行われたが、申請者422人のうち合格者は212人。合格率は53%と、厳しい結果となった。縫合技術の未熟さが目立ったため、講習会が企画されたという背景もあるようだ。

 「内視鏡外科手術は低侵襲であるため、患者へのメリットも大きい。ただ、それは高度な技術があってこその話し。講習会で基本的な手技を学び、常にトレーニングに励んでもらいたい」と、黒川さんは期待を込める。将来的には、講習会を月1回のペースで開催したいと考えている。




トレーニングボックスで平結びなどの練習に励む医師。
モニター画像を見ながら、持針器を動かして操作する。




内視鏡外科手術で使われる持針器。



講習会で参加者の医師に指導する金平永二さん(左から2番目)。
四谷メディカルキューブ・きずの小さな手術センターのセンター長。
内視鏡外科手術のプロだが、今でも毎日の練習は欠かせないという。




講習会を企画した、日本内視鏡外科学会教育委員会委員長の黒川良望さん。