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専任リスクマネジャーの活動の実態と自己評価の必要性


 専任リスクマネジャーが日頃どんな活動をしているのか、その実態を調査した結果が明らかになった。試行錯誤しながら仕事をしている現状が浮き彫りになる一方、医療安全管理活動を発展させていくために必要な対策もわかってきた。


分析能力が課題

 調査を行ったのは、東北ジェネラルリスクマネジャー(GRM)研究会(会長:木下美佐子さん・国立病院機構宮城病院専任リスクマネジャー)。東北地域にある国立病院機構の専任リスクマネジャーら15人がメンバーとなっている任意団体だ。発足は2002年10月。毎月定期的に集まり、医療安全に関する情報交換や勉強会を実施したり、互いの活動の悩みを持ち寄り、解決策を検討している。

 今回の調査は、2004年4月から国立高度専門医療センター、国立ハンセン療養所、独立行政法人国立病院機構の200床以上の病院に配置された専任リスクマネジャー(看護師長)の活動の実態把握を目的に行われた(医療安全管理活動の評価に関する研究)。
 対象は、各病院に配置されている専任リスクマネジャー164人。2005年1月〜2月にかけて郵送で調査票を送付し、115人から有効回答(回収率70%)を得た。

 調査票は、以下の9つのカテゴリーと31のサブカテゴリー、93の小項目から成る(表1参照)。「独立行政法人国立病院機構におけるリスクマネージメントマニュアル作成指針」や医療安全管理活動に関する文献などをもとに、専任リスクマネジャーが行うべきだと思われる活動を網羅。東北GRM研究会のメンバーが半年間、話し合いを重ねながら作成した。

 ○調査票の9つのカテゴリー
  1.病院の運営と医療安全に関する活動
  2.医療安全管理体制確立に向けての活動
  3.医療安全における教育活動
  4.インシデント・アクシデントに関する活動
  5.現状分析に関する活動
  6.情報提供に向けての活動
  7.標準化に向けての活動
  8.医療安全管理に関する対外的活動
  9.専任リスクマネジャーの能力向上に関する活動

 回答者の専任リスクマネジャーとしての平均経験年数は、1年8カ月。看護師長として5年以上の経験のある人が約80%を占めた。平均年齢は49.6歳だった。

 各項目について、「充分行っている」「行っているが不充分」「場面がなく行っていない」「必要と思うが行っていない」の4段階で評価してもらった結果、項目全体の6割以上が実施されていた(「充分行っている」あるいは「行っているが不充分」)。

 カテゴリー別で実施されている割合が高かったのは、「医療安全管理体制確立に向けての活動」「情報提供に向けての活動」「インシデント・アクシデントに関する活動」だった。

 項目別で「充分行っている」と答えた割合が高かったのは、「医療安全管理規程を各部署に配布している」「個人・組織のデータが拡散しないように管理している」「研修内容は全職員がわかるように明示し、出席状況を把握している」「医療安全に関する情報が漏洩しないように保護している」「インシデント・アクシデント事例の報告制度に基づいた、報告を受けている」などだった。

 回答者全員が実施している項目もあった。「医療安全活動上の必要な部門・部署と折衝し、改善の方向へ結びつけている」「インシデント・アクシデント事例の報告制度を整えている」「インシデント・アクシデント事例の報告制度に基づいた、報告を受けている」「インシデント・アクシデント報告から原因分析を行っている」の4つだった。

 「行っているが不充分」と答えた割合が高かった項目は、「インシデント・アクシデント分析する際には専門的知識を活用している」「客観的データに基づいた議論を行う努力をしている」「インシデント・アクシデント報告の背景要因についての効果的な分析が現場で行えるように指導している」「問題解決能力を向上させるための学習をしている」など。

 インシデントやアクシデント事例の報告はなされているものの、それらを分析する能力に不安を感じている専任リスクマネジャーが多いことがうかがえる。


研究活動、後継者の人材育成が不足

 一方、「必要と思うが行っていない」と答えた割合が高かった項目は、「教育活動を一層充実させていくために、自ら研究を行っている」「後継者の人材育成のため、意図的な教育的関わりをしている」「医療安全管理活動に関する自己評価を行っている」「医療安全に挑戦する意欲を維持する」「実態調査(アンケート)から現状分析を行っている」などだった。

 また、「場面がなく行っていない」と答えた割合が高かった項目は、「訴訟問題について、事実を把握するための行動をしている」「問題が発生した場合は、各部署が統一した対応ができるように内外の調整をしている」「薬剤による副作用・アナフィラキシーショックや医療機器の誤作動によるもの等が発生した事例は医薬品・医療用具安全性情報報告制度へ報告している(または報告がされているかを確認している)」などだった。

 これら調査結果について、「全体的にもっと実施されていると思っていたが、実際はそうではないことがわかった」と、東北GRM研究会の木下さんは率直な感想を述べる。中でも、医療現場の実態を調査して、現状分析する活動を行っていない専任リスクマネジャーが多いことを意外に感じたという。というのも、実態調査からの現状分析は、専任リスクマネジャーに期待された重要な活動だと考えるからだ。

「ただ、それには医療安全に関する専門的な知識と感性が要求されます。しかも、多くの部門の職員を動かして調査を行うなど、管理能力を生かした行動も必要になります。組織横断的な取り組みをしたくても、思うに任せない状況や、現場への調査がなかなか実施できていない実態がわかりました」と、木下さんは話す。

 また、専任リスクマネジャー自らの研究活動や研究への支援、後継者の人材育成への関わりなどが行われていないことにも着目する。

「これは現段階における専任リスクマネジャーの活動が、医療安全体制を組織内へ広めていくことに力が注がれ、活動を評価して、次のステップへアップさせるための行動をとるまでに至っていないことが要因だと考えられます」(木下さん)


目標管理や業務の引継ぎにも使える自己評価票

 とはいえ、経験年数を経るにつれ、専任リスクマネジャーの活動が充実することもわかった。専任リスクマネジャーの経験年数と医療安全管理活動の関連について調査した結果、ほぼ全てのカテゴリーで、経験年数を経るにつれ、実施の割合が高くなっていた。特に、「医療安全管理体制確立に向けての活動」「医療安全における教育活動」「現状分析に関する活動」「情報提供に向けての活動」「専任リスクマネジャーの能力向上に関する活動」に明確な相関関係がみられた。

「専任リスクマネジャーになって1年目は試行錯誤しながら、まずはインシデント事例への対応を中心に活動することが多い。ただ、2〜3年もすれば活動が軌道にのり、次第に行うべきことがわかるようになってくる」と、木下さんは自らの経験も踏まえてこう語る。

 さらに、日頃から自らの活動を評価する必要性も訴える。

 実を言うと、この調査票は、そもそも専任リスクマネジャーが医療安全管理活動を自己評価するために作られたものなのだ。

「わが国の専任リスクマネジャーの歴史は浅く、各自が戸惑いながら活動しているのが現状です。この自己評価票によって活動の全体像が明らかになることで、各自の活動を客観的に捉え、不足点や改善点が明確となり、次の活動がみえるようになります。『来年はこれを行う』といった目標管理も可能になります」(木下さん)

 実際、今回の調査で自己評価票として使えるかどうかも聞いたが、回答者の97%が「自己評価票が活動の指標になり、不足点や改善点の確認ために必要」と、答えた。また、自己評価票を使用したいかどうかを尋ねたら、回答者の84%が「自己の目標管理や活動の評価として使用したい」と、答えた。中には「これから進むべき道がわかった」という声もあったという。

「専任リスクマネジャーは各施設に1人しか配置されておらず、看護師長の経験があったとしても、医療安全に関することを専門に扱うことは未熟です。また、専門的な知識や、組織の状態に応じた工夫が必要など、常に専門性を高めることが要求されます。こうした背景から、自己評価を必要とする意見が多かったと考えています」と、木下さんは分析する。
  
 自己評価票を業務の引き継ぎ書にも役立てて欲しいという。

「専任リスクマネジャーが培ったノウハウや仕事を、次の世代に引き継いでいくことは大切です。自己評価票を使えば、出来ている点とそうでない点が明らかになるので、業務の引き継ぎもしやすくなると思いますよ」と、話す。

 東北GRM研究会では、この調査結果を踏まえ、今年度中(05年度中)に新たな調査をする予定だ。専任リスクマネジャーの医療安全管理活動を、施設の職員がどう捉えているのかを把握するという。

「自己評価と職員による他者評価を比べて、専任リスクマネジャーの活動をより客観的に捉えられるようになれば、質の高い活動につながることが期待できます。医療安全管理活動が職員の安全意識にどう影響しているのか、活動と職員の意識向上の関係も明らかにしたいと考えています」

 自己評価票に対する意見や感想、また、自己評価票を使用したい場合には、国立病院機構宮城病院専任リスクマネジャーの木下美佐子さん(anzenkanri@mnh.go.jp または電話0223-37-1131)まで連絡してもらいたい。


表1 東北GRM研究会が作成した「医療安全管理活動に関する自己評価票」
専任リスクマネジャーの実態調査票としても使われた









出典:平成16年度 独立行政法人国立病院機構共同研究(評価手法)、
「医療安全管理活動の評価に関する研究」、
主任研究者:木下美佐子(国立病院機構宮城病院)、
共同研究者:網谷実千枝(国立病院機構弘前病院)、高橋冨姉子(国立病院機構青森病院)、角川弘子(国立病院機構あきた病院)、千葉明子(国立病院機構盛岡病院)、大橋昌子(国立病院機構岩手病院)、酒井ゆり子(国立病院機構花巻病院)、大川禎子(国立病院機構仙台医療センター)、渋谷久美子(国立病院機構西多賀病院)、三條綾子(国立病院機構山形病院)、木村優子(国立病院機構米沢病院)、赤間紀子(国立病院機構福島病院)、小田桐由紀子(国立療養所松丘保養園)、近田京子(国立療養所東北新生園)、安川仁子(宮城大学看護学部教授)


東北ジェネラルリスクマネジャー(GRM)研究会会長の木下美佐子さん。
国立病院機構宮城病院の専任リスクマネジャー(看護師長)でもある。