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医療安全を追求するユビキタス医療情報システム(医療行為の発生時点管理システム)


  国立国際医療センター(東京都新宿区、925床)は、2002年からバーコードで患者の取り違えや投薬ミスを防ぐ病院情報システムを導入している。投与直前にオーダーの変更があっても瞬時に反映される、使い勝手の良さが特徴だ。同システムは、医療行為の1つひとつをリアルタイムに記録できる機能も備えており、それらデータを分析した結果、与薬のミスを誘発しやすい要因も明らかになっている。



オーダーの変更にも即座に対応

「バーコードで患者や薬剤の取り違えを防ぐシステムは他にもあるが、オーダーの変更が上手く反映されないため、運用に悩んでいる医療機関は多いと聞く。その点、当院が開発した病院情報システム『エクスカリバー』は、オーダーの変更がわずか2秒で伝わるので、医療安全を担保できる」

 こう語るのは、エクスカリバーの生みの親である元国立国際医療センター医療情報システム開発部部長の秋山昌範(医師)さんだ。

 国立国際医療センターには600台の小型携帯端末が備えられ、患者のリストバンドや薬剤に張り付けられたバーコードを医師や看護師がチェックし、取り違えミスを防いでいる。もし薬剤を投与する直前にオーダーの変更があっても、その情報がバーコードを通じて瞬時に伝わるため、オーダーの変更に気づかないまま投与するミスも防げる。実際、同院ではオーダーの約4割に変更が生じているが、システムを導入してから与薬の事故は発生していないという。

 従来のシステムは、医師がオーダリングの画面を閉じた時点で初めて患者のデータベースに書き込まれ、その間の入力はシステムに反映されなかった。そのため電子カルテや看護支援システム、薬剤管理システムなどに接続されている場合、それぞれのシステム間でデータのまとめ送りをするため、分単位あるいは時間単位のタイムラグが生じていた。

 ところが、エクスカリバーはサーバー(患者の医療実績記録データ)と、電子カルテやオーダリングシステム、看護支援システム、物流システム、医事会計システムのそれぞれが院内LANで結ばれているため、高速アクセスが可能となっている。医師がオーダーを変更しても、わずか2秒で患者のデータベースに書き込まれると同時に、接続されるさまざまなシステムにも変更情報が通知される仕組みとなっている。

 携帯端末は幅8cm、長さ15cmの手のひらサイズ。落下や水濡れにも強いほか、エタノールでの拭き取り消毒も可能になってている。その使い方は次のとおりだ。看護師はあらかじめ自分の名札のID(バーコード)を携帯端末で読み取り、次に患者の腕に付けたリストバンドのバーコードと点滴ボトルなどに張られたバーコードを読み取る。もし患者や薬剤の取り違え、投与時間、薬剤の投与順序などに間違いがあれば、アラームが鳴り、携帯端末にメッセージが表示される。仮に混注すべき薬剤を未混注のまま投与しようとすると、アラームが鳴ると同時に、携帯端末に「未実施」と表示される。

 投薬が終了すると、看護師は携帯端末の終了ボタンと投与量を入力。これら情報は院内LANで即座に送信され、患者のデータベースに自動的に記録される。院内にあるコンピュータで「電子温度板」という画面を呼び出すと、各患者の与薬の進捗状況がひと目でわかる仕組みとなっている。


あらゆる医療・看護行為を自動的に記録

 携帯端末は、患者や薬剤の照合だけでなく、看護業務の効率化にも役立っている。各患者のバーコードを読み取ると、必要な処置が表示されるので、看護師は携帯端末を確認しながら業務を遂行できる。また、患者の体温や血圧などのバイタルサインを入力したり、実施した看護業務も自動的に「電子温度板」に記録されるため、手間のかかる記録作業が軽減できるという訳だ。

 入力する看護業務は、タイムスタディで148項目に分類。看護師はオムツ交換など何らかの業務を行う都度、一覧表から該当する項目のバーコードと、自らの名札のID、患者のリストバンドのバーコードを読み取る。すると、実施した看護業務が自動的に記録されるという優れモノだ。

 こうしたシステムの基本となっているのは、POAS(Point of Act System)=医療行為の発生時点管理という考え方だ。「いつ、どこで、どのスタッフが、どの患者に対して、何の目的で、何を用いて、何をどう実施したか」という6W1Hの情報を、リアルタイムで記録することによって、院内のあらゆる医療(看護)行為をデータ化するとともに、経営の効率化に役立てようというのが狙いだ。

「発想のヒントは、コンビニエンスストアやスーパーなどで利用されているPOS(Point of Sales)システム。リアルタイムに商品の販売状況を把握し、効率的な在庫管理を行える点に着目し、それを医療機関にも応用できないかと考えた」と、秋山さんは言う。

 例えば、医師が内視鏡のシャッターを押すと、その瞬間に画像が保存されるとともに、誰が何枚写真を撮り、何を使って、どの位の時間で、どのような検査をしたかという情報が自動的に記録され、それらが医事会計にも伝送される。薬品や物品の1つひとつにIDが付与され、入庫から実際に使われるまでを追跡できる。無駄な在庫の削減にも威力を発揮し、このシステムを導入した02年度は、医薬品と医療材料を合わせて年間で約4億7千万円の在庫減を実現したという。


集積したデータを医療安全対策に活用

 エクスカリバーによって蓄積されたデータは、安全対策にも活用できる。秋山さんはこれまで集積された約800万件のデータを分析した結果、携帯端末でアラームが鳴りやすい要因を突き止めた。

 まずは、「図表1」をご覧いただきたい。これは看護師が患者に点滴を投与しようとした際、アラームが鳴り、携帯端末に「混注されていません」と表示された時間帯とその発生件数、エラー発生率(エラー発生件数/全医療(看護)行為のログイン数)を表したものだ。これによると、9時台、17時台、24時台にエラー発生率が高くなっている。

「別のデータを見ると、当院では朝の5時〜6時台に点滴の実施が集中している。この時間帯は看護師の数が手薄であるにも関わらず、エラーの発生率はそれほど高くない。だが、9時前後は点滴の実施が少なく、看護師の数は多いのに、エラーの発生率が高い。実は、9時、17時、24時前後は、申し送りの時間帯と重なっている」と、秋山さんは申し送り前後にエラーが発生しやすいと分析する。

 「図表2」は、1本目の注射・点滴を実施する際のアラーム発生状況を示したものだ。アラームの件数は10時台がピークとなっているが、その7割近くが1本目の注射・点滴であることがわかる。

「ちょうど医師のオーダー変更の多い時間帯と重なる。看護師への聞き取り調査によって、投与直前に混ぜるために冷蔵庫保存されている薬剤を、混注し忘れたためにアラームが鳴っていたことがわかった」(秋山さん)

 この他、データを分析することによって、勤務時間が6時間を超えるとエラーが発生しやすいことや、スタッフ1人あたりのエラー発生率は医師、看護師ともに6%以下にとどまっているものの、エラー発生率が6%を超える看護師が2%いることもわかっているという。

「これらは全ての医療行為をデータ化したからこそ、わかったこと。医療事故が発生する要因は必ずしも単純ではない。複数の要因が重なって起きる。それらを分析することで組織的に人員配置や業務内容などを見直せば、医療安全対策につながる可能性は大きい。また、収集された臨床データを分析することで、クリニカルパスのバリアンス分析など医療の質的分析も可能になる」と、秋山さんはエクスカリバーに期待を込める。

 エキスカリバーはマルチベンダー方式を採用。各メーカーが得意分野の部門システムを担当している。来春には、京都第一日赤病院でも運用が開始される予定だという。同システムの問い合わせは、CSKへ(電話0800-500-4000あるいは03-6438-3000)。費用は1床あたり100万〜150万円程度。




(図表が見ずらい方はPDFファイルでダウンロード願います。) ダウンロード

図表1 国立国際医療センターにおける点滴時のアラーム発生状況

注:エラー発生率=エラー発生件数/全医療(看護)行為のログイン数


図表2 国立国際医療センターにおける1本目の注射・点滴のアラーム発生状況




患者や薬剤の照合などに使われる携帯端末。
手のひらサイズで、落下などによる衝撃や水濡れに強く、エタノールで拭き取り消毒もできる。
オリンパスと国立国際医療センターが共同開発した。
患者に何らかの看護行為を実施する際には、
148の項目の中から看護師が該当するバーコードを選び、携帯端末で読み取ると看護記録として残る。




エクスカリバーを開発した元国立国際医療センター医療情報システム開発研究部部長の秋山昌範さん。
現在は、東京医科大学医学部の客員教授。
05年10月には、Massachusetts Institute of Technology (略称:MIT)の
Sloan School of Managementの客員教授に就任する。