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CT造影剤副作用への危機認識、分析踏まえて個人差なくす


 コンピュータ断層撮影(CT)検査では、造影剤使用に伴う副作用が100人に3人ほど発生する。かゆみなどの軽微な症状がほとんどだが、まれには死亡例も起こりうる。副作用は避けられないが、緊急事態に迅速・的確に対応する体制を作ることは可能だ。石心会狭山病院(埼玉県狭山市、349床)http://www.sekishinkai.or.jp/sayamahp/のコメディカル部放射線室では、5年分の副作用報告書を分析。対応マニュアルの作成につなげた。



予測できない副作用の発生

 病院の検査部門には、人為的なミス以外に、避けられない医療安全上のリスクがいくつかある。代表的なのがX線撮影時の被爆。そして、患者には意識されにくいが、CT、磁気共鳴画像(MRI)に用いられる造影剤の副作用だ(本コーナー 2004/1/29掲載記事「CTやMRIによる検査時に起こりやすいリスクへの回避策」参照)。

 CT用造影剤は、臓器や病変の状態、血流状態をより鮮明に写し出すためのヨード製剤だ。装置や対象部位、患者の状態などにもよるが、成人の腹部をマルチスライスCTで撮影する場合で90ml程度を造影剤自動注入装置で圧を加えて一気に静脈に注入する。

 症状はかゆみや発疹・発赤、嘔気などが多いが、眩暈やしびれ、咽頭浮腫など、重篤な副作用の前兆とみられる症状が現れることもある。ごくまれだが、免疫系の劇症反応であるアナフィラキシーショックが起きると、呼吸困難や血圧低下で死亡することもある。

 花粉症やアトピーなどアレルギー体質の人では副作用が発生しやすいといわれるが、その説を裏付けるデータはいまのところない。副作用の発生は防ぎようがなく、迅速に対処できる体制を充実させるしかないのが現状だ。


副作用が起こりやすいのは注入中

 副作用対応に検査室は何をすべきか。現状の問題点を把握するため、同院放射線室は1999年1月に副作用報告書を導入。2004年1月までの5年間に、同院と同グループ「さやま総合クリニック」で行ったCT造影検査計8,330件のうち、副作用が報告された144件(1.73%)を対象に、症状や発生時間、そして検査担当者による差異を分析した。

 144件の副作用のうち、即時型(造影剤注入開始から60分以内)に発生していたのは122件、遅発型(60分以降)の発生は22件。症状は発疹・発赤、かゆみ、嘔気、くしゃみ、嘔吐――の順に多かった。冷や汗、咽頭浮腫も少ないながら発生していた(図1)。

 発生時間は造影剤注入中がもっとも多く、54件と全体の約4割。次に多かったのが注入から5〜10分後で3割近かったが、これは検査を終了して問診を取る時間帯で、検査中に患者が自覚した症状を訴える時間帯だ(図2)。

「造影検査中、技師は撮影画像に集中しがちだが、患者の状態に変化がないか十分な注意を払う必要がある」と、分析にあたった同院診療放射線技師の西尾康孝氏は解説する。


「くしゃみ1つも副作用?」技師の認識にばらつき

 一方、検査担当者間の分析では、思った以上に差が大きいことが分かった。同室内の診療放射線技師19人のうち、同一期間内の検査数がほぼ同じだった7人の副作用発生率を報告書に基づいてまとめたところ、最も発生率の高い技師は2.45%、最も低い技師は0.59%と、約4倍の開きがあった。

 発疹、かゆみなど、発生率の高い5症状で技師個別に報告された症状の内訳をみたところ、発生率の高い技師では5症状まんべんなく報告が出ているのに対し、発生率の低い技師ではくしゃみの報告がゼロだったことが分かった。“くしゃみ1つ”という小さな異常を副作用と捉えて報告するかどうかの判断基準に、個人差があったのだ。検査についての説明の違いによって、患者が異常を訴える数が異なっていることも考えられた。

 技師らが“くしゃみ1つ”を副作用として記録に残すほど神経質になるのには理由がある。民間の医療機関で放射線科医が検査に毎回立ち会うことはほとんどない。つまり、即時型副作用の第一発見者となり、緊急コールや応急処置を担うのは技師の役目になるのだ。

 いったん無事に帰宅した患者が遅発性副作用で夜間緊急来院した場合でも、詳細な記録が残っていれば的確な対応ができる。24時間体制で動く検査室では、副作用の認識に技師間の個人差があれば、結果もおのずと異なってくる。

「くしゃみが重篤な症状の前兆であることもある。大げさなくらいに注意を払わなければならないという危機意識が、技師間で均一でなければならないのにばらつきがあった」と間山金太郎・放射線室長。


マニュアルとシミュレーションで危機意識を標準化

「(副作用が発生したら)人を呼べ! 我々放射線技師は1人の力では何もできない! だからとにかく人を呼べ!医者を呼べ!看護師を呼べ!」

 2004年、調査結果を基に作成された同院、同クリニック放射線室共通の造影検査マニュアルの一部だ。

 造影剤注入の速度や量の設定、患者への説明、問診、接遇など実施面の細かい規定はほかにあるが、造影剤使用に関する部分では、まず念頭に副作用の存在をおくよう強調。「くしゃみ1つ、咳1つでも副作用」と位置づけ、「少しの症状でも見逃しがあってはならない。小さな症状の見逃しは、患者の命を危険にさらす」と、心得部分に下線を引く。

 マニュアルは当初、新人教育に使うものだったが、導入してからの副作用報告書には、ベテランも含めた技師の個人差がなくなってきたという。

 もう1点、同室が重視しているのが、年1回行う副作用発生時の全館シミュレーションだ。特に新入りの医師や看護師には必ず参加してもらい、同室が行っている副作用発生時の連絡体制、全館放送、医師が駆けつけるまでに技師が取る応急処置、救急用薬品・備品の配備をマニュアルに基づいて確認する。異常は患者が検査室を出てから、あるいは待合室で起こるかもしれず、院内の全員で危機意識を共有する必要があるからだ。

 医療訴訟に備え、検査に伴うリスクについての同意書を取る医療機関も最近は増えているが、患者の不安をあおる懸念もあって、同院では今のところ導入していない。

「その代わり、事前の説明と検査後に渡す説明書を充実させている」と間山室長。リスクが高い患者の場合は、造影剤使用の必要性を医師に照会し、緊急時の体制を再確認するなど、検査室として医療安全のためにできることはたくさんあると話す。技師1人ひとりが1つずつ、医療安全への取り組みを謙虚に重ねている。



【図1】CT造影剤による副作用報告で多かった症状



【図2】CT造影剤による副作用が発生した時間帯



CT撮影が行われている検査室内を窓越しに見守る放射線技師。
モニターと同時に細心の注意を払う