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新人看護師のインシデント報告を分析し、研修に反映


 新人の仕事にミスはつきもの。そこから重大な事態が発生するのを防ぎ、リスクを感知できる能力の養成につなげていくのは上司や先輩の仕事になるが、めまぐるしい看護部の業務の中で、時宜に適った教育を行うのは正直なかなか難しい。横浜栄共済病院(横浜市栄区、455床)http://www.yokohamasakae.jp/index1.html看護部では、医療安全担当者が行った新人看護師のインシデント・アクシデント報告分析を教育担当者らが活用。新人研修プログラムの改善につなげた。



インシデント・アクシデント報告の2割が新人から

 常勤・非常勤を含めおよそ280人が属する看護部で、MRM委員会委員長の小黒厚子師長がその傾向に気付いたのは2003年秋。その年4月に学校を卒業し入職した新人看護師約20人からのインシデント・アクシデント報告数が、例年に比べ目立って多かったのだ。10月時点で数字をまとめたところ、全276件の報告のうち53件と2割近くが新人によるもので、前年度の新人の報告件数28件も大きく上回っていることが分かった。

「新人看護師からの報告の割合が年々増えていることには気付いていたが、2割を新人が占めていると分かれば放置しておけない。報告書を分析して要因を明らかにして、新人向けの医療事故防止策をたてなければと思った」と小黒師長。

 53件の内訳は、インシデント(ヒヤリハット)が37件、患者に害はなかったものの起きてしまったアクシデントが16件。月別では5月が最も多く13件、次いで7月の10件だった(図1参照)。7月は夜勤が本格的に始まる時期で、インシデント・アクシデント発生時間帯も夜勤帯が日勤帯を上回るようになっていた。

 行為の詳細をみると、大部分は診療補助業務の与薬管理(40件)におけるインシデントだった。中でも目立ったのが注射・点滴関係の28件。「夜勤帯に受け持ち患者を見回っている最中に急患が入り、他患者への投与実施時間を見過ごした」「点滴投与の指示を間違えて筋肉注射にしそうになった」「点滴の滴下数が不適切だった」「注射する部位を間違えそうになった」といった具合だ(図2参照)。

 航空機事故分析などに使われる手法「SHELLモデル」を用いて原因、心身状況、ハード・ソフト面の問題点を分析したところ、インシデント・アクシデント発生の直接の原因として多かったのは「確認不足」49件(重複あり)と「判断不足」18件だった。心身状態で多かったのは「焦り感」13件、「思い込み」12件、「集中力欠如」6件。

 夜間で人手が少なく、一度にいくつもの課題を抱え周囲のサポートもうまく求められず焦りが出ているときに基本原則を守らず確認が不十分になっている―。

「看護師の仕事は、1つの業務に集中することができにくいもの。分析の結果からは、多重業務にうまく優先順位をつけられず、いっぱいいっぱいになっている新人の姿が浮かび上がった」と小黒師長。


人間関係構築の研修を前倒し

 院内でも報告されたこの分析結果で、特に教育担当者らの注意を引いたのは、「先輩看護師に応援を求めにくい」ことから発生したインシデント報告が7月にあったことだ。

 1年目の新人看護師には、教育担当の先輩看護師がつくほか、能力を超えた業務を抱えないよう周囲のサポートが得られる体制が常にとられている。しかし分析結果からは、新人看護師が「SOS」を出すタイミングをつかみ損ねていることがうかがわれた。

 このため、看護部内の教育委員会と教育企画委員会では翌2004年の新人研修プログラムを一部変更。それまでは入職から半年の節目になる10月に行っていた人間関係構築にかかわる研修を7月に前倒しすることにした。

「10月ではすでに人間関係が固まってしまっている。だが7月は夜勤も始まり、新人がちょうど職場の人間関係に悩み始める時期と考えられた」と教育委員会委員長の佐藤実和子師長。

 研修内容はロールプレイ形式で、新人看護師からのレポートを元に教育委員が台本を作成。多重課題を抱えた新人看護師が周囲にサポートを頼めずパニックになるという場面設定で、新人看護師、先輩看護師、看護師長、医師、患者などと役を割りふり、「ピンチのときに先輩にどう関わり、助けを求めるか」を演じさせた。各グループには教育委員を務めるベテラン看護師を入れ、議論の方向を引っ張った。

 研修プログラム改訂の効果分析はまだできていないが、「自分のことしか見えていない新人が、ロールプレイを通じて先輩がどう考えているか垣間見られるようになれば、助けを頼むタイミングもつかみやすくなるのでは」と佐藤師長は話す。

 さらに新人研修の仕上げとして冬期のスキルアップ研修を新設した。医師、薬剤師、臨床工学技士など他の部署からの講義形式で、1年間現場で経験したことを理論で裏付けることにしている。


事故の危険因子に気付く“リスク感性”の獲得を

 新人看護師を医療事故の当事者にさせたくない―。その一心で、先輩看護師や上司は新人の仕事に目を配り、自らの経験を踏まえて、職場のシステムやマニュアルを新人に教え込む。

 だが、重要なのは一時的な知識の習得ではなく、医療安全に対する高い意識の醸成と維持だ。業務に慣れるにしたがって意識が薄れてしまっては何にもならない。

 そこで小黒師長が指摘するのは、“危機感知能力の育成”だ。「事故やミスが起こりやすいポイントは先輩看護師から教えてあげられるが、それではただ与えられたものに注意を払っているに過ぎない。そうではなく、自分で考えて、事故の元になりうる危険因子に気付けるような『リスク感性』を磨かせる教育が必要」(小黒師長)。

 指導者側の課題も大きい。学校での看護教育カリキュラムでは技術教育実習が年々減っており、採用した病院での新人教育の重要性が増しているのだ。集合的な研修だけでなく、先輩看護師が現場で得た経験や知識を標準化し、病院独自の指導体制を充実させていく必要がある。「新人教育だけでなく、教えられる能力を持った人材の育成も必要になってきている」と佐藤師長は指摘している。


図1.新人看護師のインシデント・アクシデント報告月別分析


図2.注射の事故状況