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38労災病院に共通チェックシート、相互審査の取り組みも


 医療安全対策の点検に自己診断チェックシートを用いる病院は少なくないが、自院の対策が他院と比べてどの程度できているのか、あるいは不十分なのかを知る手立てはなかなかない。全国38か所の労災病院の本部である独立行政法人労働者健康福祉機構(神奈川県川崎市)は、2005年4月に全病院共通の「医療安全チェックシート」(表)を導入。導入から1年足らずで、目に見える改善効果を上げ始めている。今後はさらに、労災病院間で相互にチェックし合う「医療安全相互チェック」の取り組みも展開していくという。



医療安全向上へ、機構本部が担う役割探る

 共通チェックシート導入の第一の狙いは、労災病院グループにおける医療安全対策の質の標準化だ。各病院の医療安全対策は、2000年に本部が配布した指針に基づいて進めているが、実際どの程度達成できているかについても、共通の基準をもって評価していくことにした。

 チェック項目はどの病院にも共通のものと考えられる“基本”にしぼった。内容は大きく分けて、(1)理念や教育研修などの医療安全管理体制の整備、(2)医薬品の取り扱いなど医療安全のための取り組み、(3)医師や看護部、検査部などの部署別医療安全マニュアルの留意事項――の全225項目。

 回答は原則として「Yes(できている)」か「No(できていない)」の二者択一式だ。たとえば「インシデント事例の集計・分析・検討を行っている」の項目で、集計・分析は行っているが検討はしていない場合の回答は「No」。5段階評価や「どちらでもない」といった逃げ道は作っていない。そうすることで、今後の課題が浮き彫りになるとの考えからだ。

 共通チェックシートのもう一つの狙いは、定点観測による情報収集だ。本部が継続的に医療安全管理についてのデータを収集・分析し、結果を病院長会議や医療安全管理者にフィードバックしていく。さらに結果を基に、本部で行っていくべき医療安全管理のための支援策を練っていく。

「38病院を統括する立場にある本部が、医療安全向上のために果たすべき役割は何か。共通チェックシートを通じて、具体的な手がかりがつかめるのではないかと考えている」とは同機構医療事業部医療安全対策課の佐久間圭課長。

 このチェックシート導入と同時に、全病院の医療安全対策管理者を召集する会議も05年10月から始められた。各病院で奮闘する管理者らの横の連携を構築するのと同時に、アンケート調査ではわからない本音の部分を含めて情報交換し、本部と病院との連携も強化するためだ。


意外に大きかった病院間の差、即現れた「効果」

 この会議の席で、共通チェックシートを用いた第1回総点検の結果が収集、報告された。単純に「Yes」の数を集計しただけだが、結果は、本部の予想以上に病院間の差が大きいことを示すものだった。同じ指針に基づいて医療安全対策を進めているはずだが、達成率は97.8%から45.8%まで、倍近い差があったのだ。

 項目別で達成率が低かったのは、インフォームド・コンセントの徹底に関する項目で、67%の達成率にとどまった。説明とそれに対する同意が適正に実施される体制ができているかだけではなく、患者向けの図書コーナーなどの学習環境を設けているか、家族への説明実施基準を作っているか、などに質問が及ぶことから、達成が難しかったと考えられた。

 一方、達成率の高かった項目は、医療安全管理体制整備の項目。整備されていないと診療報酬の減算対象になることや、臨床研修指定病院の設置基準に触れるなどの“外圧”もあって、整備が進んでいると考えられた。

 だが、結果に対する各病院の対応も素早かった。「40%台と得点の低かった数病院へのフォローアップとして、改めて自己点検の結果を提出してもらったところ、いずれも70%台まで上げてきた」と同課長。全労災病院の取り組み状況が数字で出ると、医療安全管理者だけでなく病院全体が「うちの病院は遅れている」という意識を持ち、改善に乗り出す。「重要なのは何位につけたかということよりも、現状を知り、それを踏まえて何をどのように改善したかということ。それがチェックシート導入の効果だ」と同課長。

 一方、集計作業を通じて、チェックシート自体の問題点や過不足も浮かび上がった。そのひとつ、チェック方法の標準化については、早速マニュアル作りを進めているという。


病院間で相互点検「他施設の指摘は受け入れやすい」

 病院独自の取り組みも始まっている。この共通チェックシートを病院間の「相互チェック」に応用した、北陸地域の新潟労災病院(新潟県上越市)、燕労災病院(同燕市)、富山労災病院(富山県魚津市)の3病院だ。

 もともと地域連携を行っている3病院間では、2002年度から「北陸3労災病院医療安全相互チェック」を行っていた。毎年11月の医療安全推進週間の時期に、院内2、3か所の部署を決め、医師・該当部署の責任者・事務職・看護師の計4人を相互派遣するものだ。

 相互チェックでは、2002年度は「富山→燕→新潟→富山」の順,03年度は「燕→富山→新潟→燕」の順、という具合に審査員を派遣し合う。審査員は各回2時間から2時間半ほどかけて現場を視察、インタビューや審査をして、約30分の講評を行う(写真)。講評には審査された病院側のスタッフが大勢出向くため、緊張感もある。

 医療安全管理者を集めた会議で発表された内容によると、講評を受けて改善された点は、「注射オーダーのシステム改善」(新潟)「手術患者情報を記載したボードを廃止」(富山)「リストバンド装着を手術患者のみから入院患者全員に拡大」(燕)など。臨床工学技士や薬剤師の業務の拡大も、相互チェックで指摘を受けて改善されたという。

 さらに相互チェックの“効能”についても、「他施設からの指摘は受け入れやすく改善につながる」「他施設をチェックすることで自施設の現状を認識できる」「チェックシートを活用することで、統一した視点でチェックできる」などの意見が上がっていた。

「とても面白く、成果も上がっている取り組み」と評するのは同課医療安全推進班の小嶋清子班長。同様の取り組みが全国に拡がるよう、本部で相互審査の実施要領を作成し、配布していくという。「労災病院の共通チェックシートの取り組みはまだ始まったばかり。本部としてこういった情報を収集し、チェックシートのあり方、チェックの方法を見直し、さらに結果を最大限活用できるようにしていきたい」としている。

労災病院グループが導入した医療安全チェックシートの一部。
18ページ225項目にYes,Noの二者択一で答えていく。




病院間の相互審査の様子。現場担当者自ら説明を行う。


審査後の講評には病院長以下多くの管理職が出席する。

(写真提供;独立行政法人労働者健康福祉機構)