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ICカードで不審者侵入防止、管理コスト削減効果も


 「次はうちかもしれない」―。今年正月早々、仙台市・光ヶ丘スペルマン病院で起こった乳児連れ去り事件(注1)は、病院が犯罪のターゲットになりうる現状を浮き彫りにし、医療関係者を震撼させた。米国では、病院で起きる乳児誘拐も「医療事故」ととらえられ、不審者侵入対策が勧められているが、日本では“病院は開かれた場所”という社会通念に加え、コストの問題もあって、対策は進んでいない。このような状況のなかで、ICカードによる最先端のセキュリティシステムを導入している医療法人社団柏綾会綾瀬厚生病院(神奈川県綾瀬市、191床)母子センターを訪ね、費用対効果や患者家族の感想などを聞いた。



夜間の人通り少ない病院周辺、「セキュリティの充実を」

 同院母子センター(30床、うち産科12床)は、それまで分娩施設のなかった綾瀬市唯一の産婦人科病棟として、2005年8月にオープンした。増築の際は、妊婦や新生児の出入りを意識して裏口側へ別途玄関を設置。内部は廊下でつながるものの、妊産婦が一般病棟の受付や廊下は通らないですむように設計した。

 そこで問題になったのが防犯対策だ。同院のある地域は、市役所などの行政区域には近いが、駅から離れているうえ周辺には畑も多く、夜間の人通りがきわめて少ない。かといって警備員を増強する余裕もない。

「病院周辺は夜には真っ暗になる。設計段階から防犯対策、特に不審者進入対策をしっかりしよう、ということになり、セキュリティシステムの導入が決まった」と同院の鈴木孝志事務長。


維持費用かからず、警備員より経済効果高い

 導入したのは、ドアの施錠開錠をすべてICカード認証で行う入退室管理システム(写真1)。ICカードは母子センターの職員と入院者のみに配布する。個室には入室者と職員だけ、新生児室や分娩室には職員が持っているICカードでしか出入りできないシステムだ。

 施錠開錠の操作は毎回記録され、1階母子センター受付や2階ナースステーションにある端末に10秒ごとに表示される(写真2)。個室のドアを開けっ放しにしていると「ドアを閉めてください」という放送が流れる。患者家族などの訪問者は、2階のナースステーションから個室へ連絡してもらい、許可を得て入室する。

 新生児室に隣接する2階ナースステーション前や個室前廊下には監視カメラ(写真3、4)を置き、24時間体制ですべての通過者の出入りを録画するようにした。録画映像はサーバ内のハードディスクに保存され、日付時間指定で検索確認できる。

 さらに玄関ホールの自動ドアに二重の暗証番号式施錠開錠システム(写真5)を設置。夜9時から朝8時までは、暗証番号を持った職員しか開錠できないようにした。裏口にある救急搬送受付口も同様で、事前連絡を受けた職員立会いの下で開錠する。

 導入当初は、入院者や家族が嫌がるのではとの懸念もあったが、最近はホテルなどで同様の管理システムに慣れている人が多く、面倒という声は聞かれないという。「仙台の事件があって、むしろ非常に感謝されている。田舎の病院でここまで安全管理する必要があるのかという意見もあったが、いまとなっては導入して本当に良かった」と同事務長。かかった初期コストは計約3,000万円。だが維持費用はほとんどかからないため、警備員を常駐させるよりは安い投資といえる。

 ただ、母子センターではスムーズに導入できたものの、一般病棟への安全管理は進んでいない。同事務長は「一度監視カメラを導入したが、患者からの苦情があり中止した。個人情報保護の問題もあり、防犯策の徹底は簡単ではない」と話す。

 システムを構築・納入したNECフロンティア株式会社広報部によると、ICカードリーダーは1台35万円程度(市場想定価格)。薬剤室などへの単独設置費用は70−80万円程度。仙台の事件以降、設置を希望する問い合わせが急増しているという。


米国では防犯体制も医療機能の評価に

 米国では病院からの乳児誘拐事件は1983−98年に104件発生している。このうち98件は無事保護されたが、6件は行方不明のままだ。病院でおきた乳児誘拐は、病院管理上の不備によって患者に障害を与える医療事故と捉えられる。

 JCAHO(米医療施設評価合同委員会、日本の医療機能評価機構に相当)が推奨するのは、乳児誘拐防止策の策定、患者や訪問客のアクセス情報把握、患者教育、カードキーや暗証番号の施錠システム採用、安全タグや警報システムの採用など9項目。

 米国ほど犯罪は多くないと思われがちな日本でも、病院内での犯罪は多発している。2002年度警視庁に届出のあった病院内における犯罪は計1,821件。このうち第三者が病院内に忍び込み、内部におかれた金品などを奪う侵入窃盗は513件だった(注2)。日本看護協会が2001年に行った調査でも、6割以上の看護師が病院の安全に何らかの不安を抱えていると回答している。医療安全の視点から何らかの対策をとる必要性は高まっているといえそうだ。

(注1)
2006年1月6日午前3時半すぎ、仙台市宮城野区の光ヶ丘スペルマン病院3階産婦人科病棟に侵入した男が、入り口近くの病室から生後11日の乳児を奪って逃走。犯人は発生から3日後に逮捕され、乳児も無事保護された。
(注2)
出典;「病院の防犯」―「安全」と安心」へのセキュリティガイド
【監修】(社)日本病院会
【発行】日本実務出版
【発売】株式会社星雲社 (2003-03-28出版)



(写真1)各病室や分娩室前に設置されたICカードリーダー


(写真2)入退室の全記録はナースステーションのパソコン画面に表示される


(写真3)ナースステーション隣の新生児室


(写真4)ナースステーション前の監視カメラ


(写真5)玄関脇などにある暗証番号タッチパネル。毎回数字の位置が移動する