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毎日のヒヤリハット会議、利点はスピードと決断力


 院内の医療安全対策に欠かせないヒヤリハット事例の検討会。医療安全担当者が月1回など定期的に集まっている医療機関は多いが、それを幹部級で毎日行う諮問会議にしてしまったのが独立行政法人国立病院機構呉医療センター(広島県呉市、700床)だ。各部署の決定権を持ったトップが集まるから決断と実行が速い。さらに、毎日小さな問題を検討していると「危機」管理だけでなく「安全性」管理にも目を向けられるようになるという。実際の会議にお邪魔した。



1日30分、前日あったケースを幹部級が検討

 午後1時、事務部長室へヒヤリハット会議の面々が集まってくる。メンバーは院内医療安全管理部長である副院長、統括診療部長、事務部長・看護部長・薬剤科長と医療安全係長(専任リスクマネジャー)の6人。「今日はほとんど転倒・転落とチューブトラブル。お薬関係は少ないです」。専任リスクマネジャーの富永理子さんが切り出し、その日の午前中までにあったヒヤリハット、インシデント・アクシデント、医療事故のすべてのケースを報告していく。

「(糖尿病を合併している患者さんに)食前血糖チェックを忘れたというケースが4件もありますね」「またベテラン看護師のミスだ。新人看護師が気づいたんだな」「電子カルテになって、注意を促す付箋(ふせん)を貼(は)る予防策は取っていますが。ワーキンググループは立ち上げています」「患者のオーバーテーブルに表示は置けないか?」「個人情報(の保護)が問題になります」──。

 報告されるケース数は1日平均4、5件程度。院内のイントラネットで随時報告されてくるインシデント・リポートを元に、午前中に富永師長が院内を巡回して詳細を把握しておく。月曜は週末の報告分も加わるから数が多い。

 この日は、メンバーの多くが出張のため開催されなかった前週の金曜分も合わせて24件。与薬関係が3件、血糖管理が4件、チューブ類の抜管が5件で、残り12件は転倒・転落。
 患者に関する報告のほかに、もう1つ、看護師が尿検査で使う安定化剤の粉末を誤って吸入し激しく咳き込んだ、との報告があり、院内への注意喚起とメーカーへわかりやすい注意書きをするよう要望することを決定した。


「すぐ対応」が時間の節約に

 この決定力のあるヒヤリハット会議の院内での位置づけはどうなっているのだろうか? 呉医療センターの医療安全管理体制は図1のとおりで、各部署の担当者が出席する通常のリスクマネジメント部会は別にある。ヒヤリハット会議はどこにも属しておらず、あえて言えば副院長の諮問機関だ。

 会議としての権限はないが、各部門のトップが集まっているのだから、その場で決められることは決めて、現場の医療安全推進担当者へフィードバックしていく。毎日の小さな事例にも目を通していることで、部門のはざまで起きるトラブルのすくい上げや調整もやり易い。お金が必要になる話ではその場で事務部長の意見を求めることができる。

「毎日開催しているというと時間の確保が大変でしょうといわれるが、情報の共有、対応決定、他の部署とのコミュニケーションが同時に図れるのだから1日30分は安いもの。それに、トラブルは遅れるとこじれやすくなる。ためずにタイミング良く毎日対応していくことでかえって時間の節約になっている」とは上池渉副院長。

 たとえ医療事故が発生した場合でも病院組織としての決定が即時に下せ、情報も周知されているので患者との信頼感も保ちやすい。コメディカル部門から医師へ注意を促したい場合なども、次のリスクマネジメント会議を待つよりトップから指示してもらえれば、言われた側は素直に受け止めてすぐ実行に移ることができるというわけだ。

 会議では、院内事例の検討だけでなく、他の医療機関で起きたさまざまな医療事故のニュースについても情報交換を行っている。抗がん剤の誤投与などがニュースになれば、同じ間違いをしないで済むよう、自院の電子カルテの改良点に加えるよう指示を出していく。

 福島千賀子看護部長は、「月1回の会議だと、『何が起きた。さあどうしよう』というリスク対応に目が行ってしまう。だが、毎日小さな事例の検討を積み上げているとセーフティに目を向けられるようになる」と、毎日開催の利点を指摘する。


リスクマネジャーの活動をバックアップ

 同会議は、もともとは医療安全に関する審理の場として副院長が平成12年頃に始めたものだという。それが4年前にリスクマネジャーが出席するようになり、現在のような実行力が加わった。「院内では、専任リスクマネジャーの活動はヒヤリハット会議の意向、と受け止められているから、いろいろな活動が非常にやりやすい」と富永師長。

 医療安全管理係というのは、あらゆる部署のあいだ、または病院と患者のあいだで厳しい局面に立つことも多い存在だ。「だが、専任リスクマネジャーが院内のさまざまな力関係に臆して行動を躊躇すれば、最悪の事態になる。毎日のヒヤリハット会議で顔を合わせてコミュニケーションをとっていることで、専任リスクマネジャーの活動に権威づけがされるので、遠慮せずに医療安全管理という仕事ができている」(富永師長)。

 円滑なコミュニケーションがリスクマネジャーの仕事を支え、風通しの良さが前向きな活動の推進力になる。同院のインシデント・リポート報告件数は平成12年から毎年増加している(図2)。職員の、医療安全に対する意識が順調に向上してきていることがうかがえる。

「医療安全の究極の目的は危機対応ではなく安全性の向上。専任リスクマネジャーやトップを通じた対応も良いが、現場の医師や看護師、検査技師、薬剤師や事務部門などすべての職種が日頃から気軽に医療安全について話し、改善策を主体的に実施していく雰囲気になっていくのが理想」と上池副院長は話している。

図1 呉医療センターにおける医療安全管理体制



図2 呉医療センターにおけるインシデント報告数の年度別推移





ヒヤリハット会議の様子 中央が司会の富永リスクマネジャー


看護部(左)と事務部からも積極的な意見が出される


看護師が尿C−ペプチド安定剤の粉末を誤吸入したアクシデントで、
現物を手に対策を話し合うメンバーら