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オープンクリニックで“手の内”見せ合い質向上につなげる

「患者様の安全には十分に取り組んでいます」「それで十分となぜ言えるの?」――。医療安全に限らない話だが、客観的な指標を立てにくい分野の自己評価は難しい。特に、スタッフ数人規模のクリニックでは、他院との情報交換をする機会もあまりなく、質向上に向けた努力も自己満足に陥りがちだ。この開業医のジレンマを補おうと、日本外来小児科学会質の向上委員会では、会員が相互訪問し、互いの取り組みを学びあうネットワークを立ち上げている。医療安全にも応用できそうなこの仕組みのポイントを、世話人の内海裕美・吉村小児科(東京都文京区)院長に聞いた。



自己満足に陥りがちな開業医のジレンマ解消

「オープンクリニック」というこの相互訪問のネットワークは、日本外来小児科学会会員ならだれでも参加できる。オープンクリニック・ホームページhttp://plaza.umin.ac.jp/~open/で見学を受け入れる趣旨の登録をし、情報を公開すると、興味を持った会員がその医療機関に直接連絡するという簡便な仕組みだ。訪問受け入れを登録しているクリニック数は現在全国で52か所ある。

 ネットワーク活用目的で多いものの1つが、開業や病児保育設置といった新規事業の予定がある会員の情報収集。全国ネットにしているため、同じ地域の患者の奪い合いになる懸念がないことも、活発な訪問を後押ししている。学会や旅行のついでに、現地の訪問受け入れクリニックに足を伸ばして見学していく会員も多い。

 訪問の際の見所は、待合室の作り方や予約システム、電子カルテ、掲示物、病後児保育など、見る人によって十人十色だ。スリッパの有無に目を向ける人もいれば、ワクチンの入った冷蔵庫の温度管理に注目する人もいる。オープンクリニックのホームページには「百聞は一見にしかず。今まで疑問に思っていたことが解けた」「『発想の転換』になる」といった訪問体験記が紹介されている。

 小児科開業医の集団である同学会には、以前から、「個人のノウハウを隠すのではなく、オープンにして小児科全体の質向上につなげなければならない」という機運があり、その1つの形態として相互訪問が行われていたという。現在のネットワークは2002年、それを発展させ、インターネットのシステムとして確立させたものだ。

 残念ながら、仲介やデータ集積などは行っていないため、これまでにネットワークを利用した相互訪問がどのくらいあったのかは不明。参考までに、世話人の吉村小児科(東京都文京区)の内海裕美院長のところに訪れた見学者数はこれまでに30人以上。内海院長自身が訪問したクリニック数は青森から鹿児島まで20件ほどに上るという。

「開業医には(親が開業医である)2世でない限り、自院以外のクリニックがどうしているか知る機会がない。大学や勤務した病院以外のノウハウがないまま一城の主としてやっていると、ともすれば独善的な自己完結に陥ってしまう。オープンクリニックは、そこに刺激を与えるシステムになる」と内海院長。


「見られている」意識が患者の便益にも

 ケガをしないおもちゃ、子どもの体重だけでは開閉しない自動ドアの設置、子どもが急に走ってきて突き当たっても危険のない感染性廃棄物処理箱の位置、ベッドの柵の設置、親に渡す説明書――。

 小児科クリニックにおける医療安全という1視点に絞っても、他院の現場を実際に訪れて知ることのメリットは大きい。訪問する側のメリットは説明するまでもないが、「訪問される側にはそれ以上に学ぶことがある。それに、自院の患者へも好影響を与えることができる」と内海院長。

「オープンクリニックを受け入れるのは、自分の家のタンスを他人に開けて見せるようなもの。見られるのだから一応事前に服をたたみ直すのと同じように、自院のセールスポイントは何かを整理する。そうすると自然に、患者さんにとっても『うちのクリニックは何が良いのか』が伝わりやすくなる」

 最近の患者は、病院に行く前にインターネットなどでその病院、医師の特色を調べてから来院する。小児科、特に東京のような都会では特にその傾向が強いし、医師以上にいろいろなクリニックを見聞きしている母親が少なくない。見比べられる医療機関も、自分たちの特色は何かを整理し、どういった診療を目指して何を具体的に行っているのかを、患者に分かりやすく示す必要があるのだ。

 とはいえ、訪問する方は良くてもされるのは抵抗がありそうなもの。実際、患者に見せるのは良いが同業者にはためらったり、「うちには特に見せるものがない」と尻込みしたりする会員の声もあるというが、内海院長は「自院内にこもっているから気づかないだけで、外来の第一線でやっていればごく当たり前に見せるものはたくさんある。その一方で、一生懸命やっているつもりのことでも第三者の評価はそうでもない、という部分にも気づける。見せることが質の向上になる」と強調する。


複数診療科での相互訪問も〜「世田谷区若手医師の会」の取り組み〜

 単一診療科・全国ネットで行われている日本外来小児科学会のオープンクリニックとは対照的に、単一地域内・複数診療科で相互訪問のネットワークを立ち上げているのが「世田谷区若手医師の会」だ。地域内のどの医療機関でどういった診療を行っているのか、検査が可能なのかといった情報を交換するためのもので、学会のオープンクリニックとは狙いが異なるが、“自分の手の内を見せ、互いの質の向上に役立てる”という基本姿勢は同じ。他人の経験からも学ばなければ、スピードある質向上は難しい、という意識が浸透しつつあるということだろう。

 ただ、「手の内を見せ合う」のだから最低限のルールは必要だ。たとえば、訪問した側が『何だ、こんな機械をまだ使っているのか』といった悪口をいう、また訪問された側もひたすら自慢話に終始するといったことはNGだ。

「相互訪問という善意の上に立っているのだから、土足で入り込むとシステムがつぶれてしまう。オープンクリニックは非常に有意義なシステムだが、参加者1人ひとりに学ばせてもらう、学び取ってもらう、という姿勢が不可欠」と内海院長は話している。


オープンクリニック訪問者を受け入れることの多い吉村小児科の待合室。
充実した絵本は同院の一番のセールスポイントだ。