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インフォームドコンセント、書式改訂の進め方


 インフォームドコンセントの書式整備が、医療機関運営上の重要性を増しつつある。現場の担当者らが試行錯誤しながら作ってきた雛形をコピーして使いまわしているのが実情だろうが、はたしてその中身、役割を十分果たしているか、チェックしたことがあるだろうか? 病院を挙げてのインフォームドコンセントの書式一斉改訂に取り組んでいる2医療機関に、改訂作業の行程とポイントを聞いた。



■電子カルテ導入契機に見直し

 この春の電子カルテの導入に合わせて、書式の全面改訂作業をスピードアップさせているのが独立行政法人国立病院機構呉医療センター(広島県呉市、700床)だ。

「(医療機能評価機構の認定を受ける予定の)2006年6月までに完了する見通し。1年前に各科に必要な文書数を調査したときはなかなか進まず、どうなるかと思ったが、出来上がった順に電子カルテにアップするようにしたら改訂スピードが一気に速まった」と、担当の専任リスクマネジャー・富永理子さん。

 それまで同院のインフォームドコンセント書式は、各診療科や検査科が独自に作成・複製して使用していたが、今回の全面改訂では手順から一新。

 (1)病院として使用する雛形を提示(2)それに則って各科がたたき台を作成・提出(3)リスクマネジメント委員会で必要事項にもれがないかチェック(4)フィードバック(5)内容・体裁が整ったものから電子カルテに掲載――という手順をとった。現場にとっては電子カルテからダウンロードできるという利便性が加わって、背中を押された格好だ。

 雛形には、書式実例を収録した市販のCD-ROM(注1)を活用した。リスクマネジメント委員会ではリスクマネジャーが中心になり、「検査(治療)に伴う危険性とその発生率」といった、必要10項目(図表1)を網羅しているかを点検。専門用語を避け、患者に分かりやすい言葉で書かれているかについては、当該科以外の医師やコメディカルが読んで「理解できたらOK」という基準にした。

 一連の改訂作業の中で、体裁の統一などは問題なく進んだが、問題になったのは患者説明の中で提示されるデータの妥当性の検討だ。正しい患者説明には、その治療や検査に伴う副作用や偶発症の発生率といったデータが数値で示されなければならない。

 たとえば、子宮頸がん手術の術後合併症で急性腎不全が起こる確率はどのくらいか。心臓カテーテル検査で重大な事故(死亡など)や合併症が起こる確率はどの程度あり、造影剤による副作用にはどんなものがあるのか。

 治療や検査に伴う副作用や合併症の発生頻度などのデータは、「まれ」や「少ない」といった表現ではなく、「5%」といった客観性のある数字で示すのが適切とされる。だが、数字で明示しているかの点検はできても、そのデータがエビデンス(根拠)に基づいたものか、その領域において標準的なものかどうかまでは、専門家でなければわからない。

「本来は、そうしたデータの妥当性まで精査すべきだろうが、市中病院でそこまではできない」と富永さん。結局、院内データが十分でないものは、「当院での経験件数は少なくデータがない」と明記して、学会ガイドラインなどで示されているデータを出典とともに添えるようにした。

 呉医療センターではこれまでにほとんどの診療科が積極的に取り組み、一般的手術・検査の説明書が完成、電子カルテにアップされた。出足が遅かった診療科がまだ2〜3残っているが、完了すれば更新傾向なども把握できる膨大なデータベースになりそうだ。


■内容を自己点検する好機

 一方、国家公務員共済組合連合会浜の町病院(福岡県福岡市、520床)では、従来の紙データのままで説明文書としての不足点を点検・補足し、書式体裁を統一する作業を進めている。今年年初に一斉改訂を決定、3月末までに各科にたたき台を提出してもらい、現在点検とフィードバックにかかっているところだ。完成目標は5月という突貫作業になる。

 改訂決定のきっかけは、インフォームドコンセントに関して院内で開いた講演会だ。「それまで、各科が独自に作成・複製して使っていた書式も、そう悪いものではないと思っていたが、講演を聞いていろいろ不備があることが分かった。完璧を目指すのは難しいが、できるだけ良い形に内容をそろえたい」と、担当の1人である坂本典子医師。

 同院には専任リスクマネジャーがいないため、各科から提出されたたたき台は、書式改訂担当の内科の坂本医師と外科のもう1人の医師の2人ですべて目を通す。改訂を機に説明文書を追加したいという要望も多く、診療科でも各15セット程度にはなる見通しという。

 点検やフィードバックの中で問題になるのは、呉医療センター同様、文書内で提示されるデータの妥当性だ。自院内だけではエビデンスといえるだけのデータや成績がまとまっていない。提示できないものは学会ガイドラインなどから説明を補足するようにしたが、その中身までは担当科以外の医師では精査できず、基本的に書いてあることを信用するしかない。

 もう一点、書式作成者が頭を悩ます点として坂本医師が指摘するのは、「説明文書内にどこまで書くのか」だ。患者にとっても医療者にとっても望ましいインフォームドコンセントの文書は、単にトラブルや医療訴訟を予防する抜かりのない説明ではなく、その治療や検査を受ける患者への貴重な情報提供になるもののはず。

「インフォームドコンセントの書式の使い手は、医師や検査技師自身。書式の改訂作業は、使い手として『その書式は実際に使えるものか』どうかを見直す機会だと思う。医学の進歩や環境の変化に応じて適切な説明のあり方は変わってくるので、定期的な見直しができれば望ましい」と坂本医師は話している。


(注1)
「インフォームドコンセント
 その理論と書式実例」
ハイブリッドCD-ROM付 

前田正一編集
税込価格 : \4,830 (本体 : \4,600)
出版 : 医学書院
サイズ : B5判 / 271p
ISBN : 4-260-00069-1
発行年月 : 2005.8


(図表1)説明文書に必要な10項目



(図表2)文書例(1)
胃切除術説明文書。全7ページの1ページ目。
医師と患者の書名欄がある
(出典:「インフォームドコンセント その理論と書式実例」注1


(図表3)文書例(2)
心臓カテーテル検査同意文書。全9ページの6ページ目。
検査についての説明を写真やイラストで解説している
(呉医療センター提供)