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くすりの正しい服用法をサポート

子供からお年寄りまで一目でわかる絵文字(ピクトグラム)


■くすりの適正使用協議会の取り組み

 くすりの正しい飲み方や服用する上で注意しなければいけないことなどを、交通標識のような絵文字(ピクトグラム)で説明する活動が広がりつつある。薬の正しい飲み方を普及させようと製薬企業27社で構成している「くすりの適正使用協議会」が取り組んでいるもの。ピクトグラムもこの6月には28種類から51種類に増やす方針だ。



■患者・医療消費者・医療従事者向けに多彩な活動展開

 くすりの適正使用協議会は、1989年5月に医薬品のベネフイットとリスクについて検討と対応を行うことを目的に、製薬業界の任意団体「日本RAD−AR協議会」として発足した。2000年には、同協議会のあり方を検討していた委託研究会が、1.患者、医療消費者本位の医薬品および医療の確立に向けて、患者、医療消費者のニーズを理解し、それに応える。2.患者、医療消費者、製薬企業、医療提供者がお互いに自由、容易に対話や意見交換ができる場を提供する。3.意見交換の場で得られたアイディアやプログラムを社会に提供する。4.これらの事業は業際的、学際的、公的である―などの行動目標を提言したことを受けて、2003年から現在のくすりの適正使用協議会として衣替えしたもの。

 ピクトグラムは、「児童および青少年のくすり教育プログラムガイド」で活用されることを前提に考案されたもので、子供からお年寄りまで誰でも親しみを持って簡単に理解できるようにという狙いがある。1991年に、同協議会の委託研究会が、「医薬品の使い方を示すビジュアル文字の開発」を提言したこと、さらに2000年11月に厚生労働省医薬安全局がまとめた「医薬品に対する医療事故防止対策(案)に寄せられた意見について」の中にも、「絵文字による記載が必要」と指摘されていたことなどが開発を促進させる原動力にもなった。

 また、アメリカでの先例も参考になった。USP(United States Pharmacopeial Convention)が1998年に公表した「児童および青少年向け教育プログラムガイド」では児童と医療提供者が共通に理解できる手段として「ピクトグラム:絵文字」の使用を提案している。小学校低学年のようにまだ文字が十分に読めない人に一目見て理解させるものであり、くすりの使い方を理解させることに役立つと考えられた。識字率が高くないアメリカでは、薬瓶にピクトグラムのラベルが貼られていたりする。



■アンケートを通じ、認識率改善を検討

 わが国におけるピクトグラム作成は、ユニバーサルデザインフォーラム(任意団体)の協力を得て、同協議会が独自に考案した。具体的には、人の顔、ナイフやフォーク、太陽や月、目、耳、鼻など人体の部位など、幼い子供でも直感的に理解できる要素を組み合わせたものとなっている(下図参照)。

食事30分前に飲む 食間に飲む うがい薬 カプセル剤 カプセルを壊してはいけません 牛乳と一緒に飲まない
食事30分前に飲む 食間に飲む うがい薬 カプセル剤 カプセルを壊してはいけません 牛乳と一緒に飲まない

 また、ピクトグラムは黒色を使い、それを囲む形と色にはそれぞれ意味を持たせている。例えば、「禁止事項」は赤で枠をとって斜線を引く、黄色の三角の枠には「注意する」意味を持たせ、黒の四角の枠は「〇〇をする(方法)」を示すなどである。

 最初に作られたピクトグラムは31種類。これが実際にどの程度理解されるのかを把握するために、2003年12月にインターネットで調査した。対象は10歳代から70歳代までで、ピクトグラムの認識率を80%以上に設定したところ、3分の1しか合格点に達しなかった。そのため認識率の低かったピクトグラムに対して、その原因を調べ、日本の医療であまり使用されないものを除外し、28種類に絞り、さらにデザインにも修正を加えた。

 訴える内容のイラストをなるべく大きくし、時間経過を示すものは数字を明記する。服用のタイミングを示すものは同じデザインを使用して比較できるようにし、禁止は×印でなく斜線で示すなどである。修正を加えたピクトグラムを使った2004年1月に再度インターネットで調査したところ、すべてが80%以上の認識率を示した。

 当初、ピクトグラムは児童へのくすり教育のツールとして活用することを狙ったものだが、アンケートがきっかけになって思いがけない展開をみせることになる。アンケートの回答の中に「子供からお年寄りまでわかりやすいマークです。処方されるお薬の袋にマークが書いてあったら分かりやすいと思います」という意見があった。

 そこで、教育支援だけに限定せずに、医療の現場で使ってもらえたら、医療従事者と患者さんのコミュニケーションが促進され、また服薬指導に携わる薬剤師さんの手助けにもなるのではないか、と考えたのである。デザイナーの了解を得て、2004年2月一般に公開された。

 同時に、同協議会のホームページ(http://www.rad-ar.or.jp/)の中に「絵文字(ピクトグラム)の庫」を設け、自由にダウンロードできるようにした。同年3月から8月までの「絵文字(ピクトグラム)の庫」へのアクセスは毎月2000件を超え、実際にダウンロードした医療関係者も半年で2000件に達した。薬剤師がダウンロードするケースが最も多いが、医師、歯科医師、看護師などの医療関係者のほか、教育関係者や報道関係からもあった。



■ピクトグラムの役割をより明確に


 さて、くすりの適正使用協議会のピクトグラムの取り組みは新しい段階を迎えた。専門家や薬剤師の意見、文献調査などをもとに、ピクトグラムの役割をより明確にすることにしたのである。従来、ピクトグラムの役割として「服薬指導の補足説明」的な意味合いが強かったが、現場の薬剤師からは「実際に窓口で服用薬について十分説明し、用法・用量、副作用などの説明をしている。敢えてピクトグラムで補足する必要があるのか」という声もあがっていた。薬剤師の間では屋上屋という見方もあったのである。確かに、薬局現場では服薬指導は必須の業務になっており、服用に際しての注意事項を伝えている。

 しかし、窓口で十分に説明しても果たして、日数が経っても説明内容を覚えて服用できているのかどうか。とくに最近は長期処方が増えている。従来2週間ごとに再診で来院していた患者が1か月とか3か月といった間隔になっている。そうした場合でも患者は薬局での説明を覚えていることができるだろうか。薬袋にピクトグラムが貼ってあれば、服用の都度確認することができる。つまりキチンと服用するための「駄目押し」的な使い方、「くすりのケアマーク」として活用できるのではないかという意義付けである。

 また、ピクトグラムをやみくもに使っても意味がないこともある。高齢者の患者の場合、数種類のくすりを飲むことが多いが、すべてのくすりについてピクトグラムを出すのではなく、本当に必要なもの1〜2枚に絞った方が効果的な場合がある。窓口の薬剤師が適宜判断して有効に使ってもらえればと考えている。



■コンセプトの統一、地域文化の配慮が重要


 現在、同協議会はピクトグラムをさらに分かりやすいものにするための工夫と、種類を28種類から51種類に増やすための検討をしている最中。同協議会の松田偉太朗事務局長は「コンセプトを統一することが重要なので、基本的に同じデザイナーにつくってもらいます」という。また、松田氏は「地域の文化に応じたデザインが重要」と指摘する。現在、ピクトグラムはアメリカ、イギリス、フィンランドなどでも使われているが、「専門家は地域の文化に合わせないとうまくいかないと指摘しています。新しく作成するピクトグラムはそうした文化を意識して表現することになります」と語る。

 ただ、ここにきて悩ましい問題も出てきた。同協議会のピクトグラムでは「朝・昼・夜」などの表記に日本人になじみが深い、月、太陽、星などのイラストを使っているが、月と星はパキスタンやトルコの国旗のデザインに使われている。月はイスラム諸国ではシンボル的な位置づけにあるといわれている。見方によっては侮辱ととられかねないからだ。これらについてはデザインをどうするか、目下検討中だ。

 ピクトグラムはホームページからダウンロード(https://www.rad-ar.or.jp/02/08_pict/08_pict_index.html)して誰でも無料で活用することができる。またピクトグラムのシートも作成し、こちらは実費で頒布している。さらに、レセコンソフトに組み込んで、薬袋や説明文書にプリントできるようレセコンメーカーにも協力を要請しているところだ。

 松田氏はより充実させるために、「薬剤師の立場からピクトグラムの使い勝手や改善点などをフィードバックして欲しい」と要望する。児童向けのくすりの教育の教材として開発されたピクトグラムだが、薬局や病院と協働して広く世の中に受け入れられることを願っている。

松田j事務局長と志賀理事長付

写真:取材にご協力頂いた志賀理事長付(左)と松田事務局長(右)