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「日帰り手術における安全管理」

 近年治療法の急速な進歩で、多くの病気の外科手術が日帰りで行えるようになってきている。経済的な効率化も期待できるため、今後ますますその数は増えると予想される。多くの医療機関が日帰り手術を導入するなか、いかに安全に日帰り手術を行うかが問われていくだろう。安全管理に関する著書もある「村井おなかクリニック(東京都八王子市)」の村井隆三院長に、日帰り手術について話を聞いた。


■経験から生まれた安全管理の工夫

 現在同クリニックでは、鼠径ヘルニア、痔核、胃・大腸のポリペクトミー、下肢静脈瘤の日帰り手術を実施している。(*参考:症例数)個人のクリニックで日帰り手術を扱えるようになったのは、手術法が進歩し、安全に行えるようになったからだ。
 たとえば鼠径ヘルニアの場合、一昔前は突出したヘルニアを腹腔内に押し戻し、筋膜同士を縫い合わせる手術が行われ、この方法では術後の痛みやつっぱり感が強く1週間程度は入院してもらわざるを得なかった。ところが十年ほど前にポリプロピレン製のメッシュを補強剤として利用する手術が開発され、術後の不快感の問題が解消し、日帰りや短期入院での手術が可能になった。日帰り手術であれば、初診、手術、経過観察の3日間の通院で済む。村井院長は「日帰り手術の安全性を確保するには、十分な管理が不可欠」と話す。
 村井院長は、日帰り手術を導入する際の一般的な安全管理策として、以下のような点を挙げている。

□クリティカルパスの作成
□患者への十分なインフォームドコンセント
□使用機器類のクリンリネスの徹底(ガイドラインに沿った機器の洗浄・消毒など)
□緊急時の対応(クリニックでの対処範疇の確認、入院施設のある提携病院の確保)

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 さらに同クリニックでは、独自の安全管理策を作り、実施している。鼠径ヘルニア手術のケースで紹介する。

 「日帰り手術における安全管理では、『患者の体への負担を極力減らす工夫』が必要」と村井院長は言う。麻酔科医による全身麻酔で手術を行うことも、その工夫のそのひとつだ。鼠径ヘルニアの日帰り手術では、局所麻酔や脊椎麻酔を使用する医療機関が多い中で、非常に珍しい。「全身麻酔は除痛効果が高いので、患者さんは楽。麻酔科医がきちんと管理をすれば、麻酔によるしびれなどの障害も生じにくく、事故率は非常に低いので、最も安全な麻酔と言えるでしょう」
 麻酔科医が来院可能な日程で手術日を設定しなければならないなど制約が多く、コストもかかる。しかし村井院長は、より安全性が高い手術を行うためには不可欠だと考えている。「さらに、麻酔科医に参加してもらう意義はもうひとつあります。一人の目で見るよりも二人の目が注がれたほうが、事故を予防できます。不測の事態の時には、目ばかりではなく『手』を貸してもらうことも可能です」
 事故防止のために、患者に協力してもらうこともある。鼠径ヘルニアの突出は立位であれば明確だが、手術のために仰向けになるとわからなくなってしまうことも多い。そこで手術時の左右の取り違えを防ぐため、麻酔をする前、患者自身に患部側の皮膚に印をつけてもらっているのだ。「私も触診などで十分に確認をしますが、二重三重にチェックをすることで、より安全性は高くなります」
 また、鼠径ヘルニアは無菌手術なので、感染が生じるケースはほとんどない。術後の創部もテープなどの被覆材で保護すれば、消毒も不要だ。村井院長も、アトピー性皮膚炎の男性の創部感染を一例経験しただけという。「手術当日は、できるだけ患者さんの体に負担をかけないようにすることも、回復を早め、安全管理につながります。たとえば、当クリニックは院外処方なのですが、手術が決まった日に処方箋を出して、事前に薬を受け取っておいてもらうようにしました。いくら負担が少ない手術だといっても、患者さんは薬局に寄らずにそのまま帰宅して休みたいもの。小さなことでも患者さんの身になって工夫をすることが大切だと考えています」



■日帰り手術を避けたほうがいいケースとは

 鼠径ヘルニアの場合は比較的安全性が高い手術なので、高齢であったり持病を持っていたりしてもほとんどの場合、手術が可能だ。しかし、次のようなケースでは日帰り手術は避けたほうがいいという。

□嵌頓(ヘルニアが完全に出てしまった状態)を起こしている=不測の事態を考えて、開腹手術もできる病院で受けたほうが安心
□肝硬変などで腹水がたまっている
□高齢で食事の世話をしてくれる人がいない=術後の回復が若い人よりは遅いので、その間の食事の用意などで無理がかからないよう、入院をしたほうがいい
□本人が手術を希望していても、家族が強く反対している



■患者からの評価が質の高い医療につながる

 「こうした一連の取り組みに関して外部からの評価を受けることで、より高い品質の医療サービスに結びつくと考えています」と、村井院長は言う。現在同クリニックでは、医療サービスの品質管理の一環として、手術を受けた患者の満足度調査を実施中だ。これは単に満足度を計るばかりでなく、比較的再発が多い手術である鼠径ヘルニアの再発率をチェックする意味もある。
 鼠径ヘルニアの場合、再発した患者さんは、手術を受けた医療機関には二度といかないという。そのため、手術をした医師には当然自覚はなく、反省することなく質の悪い手術を提供し続けることになる。そこで、再発率を指標に、自らの手術の治療成績をチェックし、手術の品質管理を行っているのである。「今後はDPCの導入などで、日帰り手術はますます増えます。日帰り手術を行う医療施設は、つねに医療サービスの品質管理を行うことによって、質を維持する努力をしていかなければならないと考えています」と、村井院長は話している。


小松副会長(左)石渡常任理事

写真:取材にご協力頂いた村井隆三院長