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今年度も、公益社団法人日本医師会は、一般社団法人日本医療安全調査機構の委託を受けて「医療事故調査制度管理者・実務者セミナー」を開催いたします。

日程・会場
令和元年9月30日(月)
日本医師会館(東京)
10月16日(水)
ホテルモントレエーデルホフ札幌
10月21日(月)
ホテル日航福岡
11月11日(月)
三木記念ホール(岡山)
11月25日(月)
ホテルメルパルク大阪
12月4日(水)
名古屋コンベンションホール
12月16日(月)
ホテルモントレ仙台
対象 医療機関管理者、実務者もしくはこれに準ずる方
定員 各会場ともに200名程度
参加費 1500円(税込)

プログラム

時間 内容
13:00~13:05 開講挨拶【5分】
13:05~13:30 医療事故調査制度の概況【25分】
13:30~14:30 医療事故報告における判断【60分】
14:30~15:15 当該医療機関における対応【45分】
15:15~15:25 休憩
15:25~16:15 支援団体・外部委員の役割【50分】
16:15~17:05 報告書の作成【50分】
17:05~17:25 総合質疑応答【20分】
17:25~17:30 総括と閉講【5分】

進行 日本医師会担当役員

申込方法等、詳しくはこちらをご覧ください。

今年度も、公益社団法人日本医師会は、一般社団法人日本医療安全調査機構の委託を受けて「医療事故調査制度管理者・実務者セミナー」を開催いたします。

日程・会場
2019年1月17日(木)
日本医師会館
1月28日(月)
ホテルモントレエーデルホフ札幌
1月31日(木)
名古屋コンベンションホール
2月7日(木)
仙台国際ホテル
2月18日(月)
ホテルグランヴィア岡山
2月25日(月)
メルパルク大阪
2月28日(木)
ホテル日航福岡
対象 医療機関管理者、実務者もしくはこれに準ずる方
定員 各会場ともに200名程度
参加費 1500円(税込)

プログラム

時間 内容 講師
13:00~13:05(5分) 開講挨拶 日本医師会
厚生労働省
13:05~13:35(30分) 医療事故調査制度の概況 日本医療安全調査機構
(医療事故調査・支援センター)
13:35~14:20(45分) 報告事例の判断について(演習) 日本医療安全調査機構
(医療事故調査・支援センター)
14:20~14:30 休憩
14:30~15:15(45分) 当該医療機関における対応 日本医師会
15:15~16:00(45分) 支援団体・外部委員の役割 日本医師会
16:00~16:10 休憩
16:10~16:55(45分) 報告書の作成 日本医療安全調査機構
(医療事故調査・支援センター)
16:55~17:20(25分) 総合質疑応答 講師全員
17:20~17:30(10分) 総括と閉講 日本医師会

進行 日本医師会常任理事

申込方法等、詳しくはこちらをご覧ください。

今般、公益社団法人日本医師会は、一般社団法人日本医療安全調査機構の委託を受けて「医療事故調査制度管理者・実務者セミナー」を開催いたします。

日程・会場
平成29年10月18日(水)
青森国際ホテル
11月2日(木)
レグザムホール(香川)
11月16日(木)
ホテル日航ノースランド帯広
11月30日(木)
石川県立音楽堂
12月14日(木)
メルパルク京都
12月22日(金)
TKPガーデンシティ鹿児島中央
対象 医療機関管理者、実務者もしくはこれに準ずる方
定員 各会場ともに200名程度
参加費 1500円(税込)

プログラム

13:00~13:10 開講挨拶
13:10~13:30 医療事故調査制度の概要【20分】
(厚生労働省医政局総務課 医療安全推進室)
13:30~14:25 医療事故調査制度における判断(1)演習【55分】
14:25~14:45 医療事故調査制度における判断(2)整理【20分】
14:45~14:55 休憩
14:55~15:25 医療事故調査の要点【30分】
15:25~16:10 医療事故調査制度における医療機関管理者の役割【45分】
16:10~16:20 休憩
16:20~17:05 調査実務担当者の視点から【45分】
17:05~17:25 質疑応答、まとめ【20分】
17:25~17:30 閉講挨拶

講師は会場ごとに異なります。申込方法等、詳しくはこちらをご覧ください。

今回は、京都大学医学部附属病院医療安全管理室室長・病院教授である松村由美先生編著の「京大病院 院内事故調査の指針」をご紹介します。

本書は、「医療事故調査」の実際の流れを具体的に理解できる、というコンセプトで作成されたもので、京大病院の院内指針をあえて一般向けに記述し直すことをせず、そのまま公開しています。2011年に松村先生ご自身が突然医療安全管理者になってから、何をどうしてよいのかわからず手探りで積んできた経験をもとに、対応に悩んでいる医療安全管理者が知りたいこと、必要な情報といった視点でまとめられています。

また、支援団体としての京大病院の支援内容や手順等も記載されています。

まさに、帯のコピー~医療事故調査を初めて行う医療機関にとっての「道しるべ」~のとおり、「ほかの医療機関ではどのように取り組んでいるのだろう...?」という思いに応える1冊。医療の現場に携わるすべての方々への指南書として、ぜひお手に取ってご覧いただきたいと思います。

京大病院 院内事故調査の指針―医療安全管理部における対応の実際

京大病院 院内事故調査の指針――医療安全管理部における対応の実際

編著者:
松村 由美(京都大学医学部附属病院医療安全管理室室長・病院教授)
単行本:
116ページ
出版社:
メディカルレビュー社
ISBN:
978-4-7792-1712-8
定価:
本体3,500円+税

目次

第1章
医療事故の届出
  • 医療事故(死亡またはそれに準じる事例)の判断
  • 医療事故調査・支援センターへの届出に該当するか否かの判断プロセス
  • 医療事故調査・支援センター(日本医療安全調査機構)以外への届出
第2章
遺族への説明
  • 医療事故調査の過程での患者遺族とのコミュニケーション
  • 医療事故の遺族への説明事項
  • 調査結果の遺族への説明について
第3章
医療事故調査委員会
  • 院内調査開始
  • 事故調査委員会開催の準備
第4章
医療事故調査報告書作成手順
  • 表紙
  • 目次
  • 調査報告書の各章
第5章
支援団体としての京大病院の位置づけ
  • 支援団体の役割
  • 京大病院が構成員として参加している支援団体
  • 支援団体の業務(総論)
  • 京大病院が提供する支援(各論)
  • 京都大学における支援情報の取扱について
第6章
資料
  • 京都大学医学部附属病院医療事故(事例)調査委員会規程
  • 京都大学医学部附属病院医療安全管理委員会規程
  • 京都大学医学部附属病院危機管理会議内規
  • 京都大学における病理解剖の依頼手順(院内用)
  • 京都大学における死亡時画像診断の依頼手順(院内用)
  • 参考となる資料・文献
パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションの様子

一般社団法人日本外科学会は2016年11月19、20の両日、幕張メッセで開いた「第11回 医療の質・安全学会学術集会」で、2015年10月1日に施行された新たな医療事故調査制度をめぐるパネルディスカッションを催した。この制度に関わりの深い医師が「医療事故調査制度1年を経て~再発防止に繋がる調査の考え方~」というテーマで、それぞれの立場から施行後の経過を報告した。

関係者や遺族はあら探しを願わない

「医療事故調査制度と当該医療機関」

上野道雄(独立行政法人国立病院機構 福岡東医療センター 院長)

上野道雄氏

上野道雄氏

医療事故調査制度の目的は、予期しない死亡事例に遭遇した医療機関の管理者が積極的に支援センターに届け出て支援団体の協力を得て病態(死因)を解明することにある。その上で病態を分かりやすく遺族に伝え、医療への不信感を解く。また病態を解明して関係者の疑問に答える。医療機関は忌憚のない審議で病態を解明する過程を学び、院内の医療安全体制の強化に生かす。この部分が最大の再発防止策である。

相談・報告の現状はどうか。当該医療機関の管理者は医療事故か否かを判断し、速やかに院内協議に入るのが本来である。ところが、私は支援団体の一員として何度も同じことを聞いた。すなわち「予期しない死亡事例と思ったが、遺族が何も言わなかった。だから登録はやめる」。1年を経ても質問の大半は登録基準に偏っている気がする。つまり、医療事故調査制度への登録を躊躇する姿勢が見え隠れする。今回の制度は当該医療機関と関係者が自由に発言できる画期的なものだと思う。しかし、それが十分に活用されていない気がする。

報告する管理者はつらく、孤独である。医師や看護師を守り、病院の名誉を守り、遺族にも納得してもらいたい。これはほとんどの管理者が抱く本音である。しかし、外部委員が参加する院内事故調査委員会で病院の名誉を保ち、遺族が納得する結論が出るのか。これもまたほとんどの院長の懸念である。院内を他人(院外専門員)に掻き回されたくないということもあるだろう。実際、些細な過誤や記載漏れのない診療録はない。病態に直結しない診療のあら探しはつらい。

調査制度への不信感と信頼感は表裏一体

支援団体研修会での経験をお話したい。当院の事例である。患者は70代の男性で、心カテ治療中に血圧と意識が低下。どうにか蘇生すると、冠動脈の穿孔が判明した。主治医は心タンポナーデによる急性循環不全と直観。直ちに心臓外科のある病院に搬送し手術した。その時の所見はヘマトクリット50、心嚢内に淡血性の液体150ミリリットル、右胸腔内に2リットルの血液を認めた。それを聞いて私は大動脈解離に違いないと思ったが、誰も信じなかった。病理解剖の依頼に怒った遺族を1時間以上かけて説得した。病理解剖の所見は予想通り、胸部下行大動脈瘤の破綻によるものであった。模擬院内事故調査委員会の審議はささいな過誤の指摘ばかりで「予期しない病態の解明を願って参加したのに、あら探しをされては心を開けない」という病院側委員の発言もあった。遺族は院内事故調査委員会の結論に納得し、日本医師会の委員会最終答申などへの掲載と医療安全活動での活用を快諾された。

医療事故調査制度の登録についてはやはり、調査制度への不信が抑制因子となっているのではないか。調査委員会制度のありようも問題だ。一番の懸念材料は報告書の用途である。刑事訴追や民事で使われるのではないかという不安だ。加速因子は遺族の苦情への対応だ。登録の一番のきっかけだろう。しかし、本当の目的は病態を解明することで遺族や関係者の疑問を解消することにある。そのためには調査制度への信頼感を高めるしかない。長い時間がかかるかもしれないし、人材育成もしなければならない。調査制度への不信感と信頼感は表裏一体だ。

くれぐれも誘導尋問をしないこと

聞き取り調査は医療機関と関係者が納得する結論を得る機会である。その際には医師と看護師の記録の問題点や空白の時間、不十分な記載、記載の矛盾などを聞く。鑑別診断が入って初めて必要な検査や必要な症状が記載されていないことに気づくことが多い。聞き取りの際にはこの点に留意して欲しい。加えて関係者の思いや不安、潔白の可能性を事前に聴取して欲しい。若い医師や看護師などの弱者は院内事故調査委員会での発言が非常につらいからだ。そうした気遣いが病態解明の端緒になることもある。

聞き取り調査はある意味、病院にとって医療事故対応の危険なステップでもある。関係者の精神的負担が大きい時に病院が信頼を獲得するか、あるいは失う魔の瞬間である。事故直後の聞き取りでは関係者の多くは精神的に動揺している。自責の念で何も言えず、怖さが先立って言い訳に終始する。発言のブレも大きい。こういう時こそあまり詳しい話は聞かず、事実関係の確認や関係者自身の疑問などの聴取に留めるべきだろう。そうして、信頼関係の醸成を図っていただきたい。そして何より、くれぐれも誘導尋問をしないこと。

聞き取り調査をする際は必ず事前に聞き取り事項を決めておくのも大切だ。予期しない事例の可能性を幅広く調べて事例の概略を把握しておく。関係者の立場で事象の推移を見直して頑張った点、つらかった点を共感しておく。聞き始めは関係者の心情に配慮してねぎらいの言葉をかけ、事例を一緒に振り返る。精一杯の努力やつらい点に共感し、危うい点や過誤が疑われる点は後半に聞く。そして、疑問や納得がいかないことを自然に語ってもらうのがよい聞き取りだと思う。

誰でも同様の結果になるべき調査を

「医療事故調査と調査報告書作成手法の標準化に向けて」

長尾能雅(名古屋大学医学部附属病院 医療の質・安全管理部 部長)

長尾能雅氏

長尾能雅氏

新制度が始まってから、さまざまな調査報告書を見る機会があった。その過程でいくつかの課題が見つかった。まず、定型がないことから報告書の形態や記述量がまちまちである。ボリュームの多いものがあれば少ないものもある。ボリュームと内容は必ずしも比例しない。始末書や顛末書のようなものもある。また、調査が系統的でなく、調査側が重要視したポイントのみ記載されたものがある。調査漏れなのかもしれないが、本当のところは分からない。

調査結果のみにとどまるものも多かった。その結果を導いた背景や根拠が示されていないということだ。解剖が行われていない場合、または解剖を行っても死因が不明だった場合、それ以上調査が掘り下げられていない。つまり「死因が不明なのでこれ以上の検討には値しない」という形で報告書が結ばれているケースもある。そうすると、結局、この報告書は何を検証し、何を遺族側と共有しようとしているのかよく分からないことになる。

院内調査における一番の課題は、調査手法が標準化されていないことだろう。院内調査の課題を挙げるとすれば、

  1. 運営、審議、分析方法などが標準化されていない
  2. 調査員がシステムアプローチに慣れていない
  3. 専門委員の見解の妥当性が分からない
  4. 事実認定が不十分になりがち
  5. 原稿作成に外部委員が協力的でない
  6. 報告書の編集、推敲に一定のスキルがいる
  7. 提言が普遍的で、具体性に欠ける
  8. 日程調整、資料準備など、事務的所掌が膨大
  9. 患者の疑問が解消されないことがある
  10. 紛争回避の期待からバイアスがかかる

――などであろう。

ばらつきを生まない調査のために

ばらつきを生まない調査の条件として、事実経緯が丁寧に書き起こされていることが重要だ。具体的手順の第一は、重要な診療場面ごとに、診療行為を点検することだ。重要な診療場面は、例えば「救急来院時」→「手術中」→「術後管理中」→「急変時」などのように分けられる。さらにそれぞれの場面の中で、6つの医療行為が行われているはずだ。それは1.診断→2.治療選択・適応・リスク評価→3.IC→4.治療・検査・処置→5.患者管理→6.記載――の各業務である。それを踏まえ、診療録や遺族を含むヒアリングなどから全体像を把握し、分析の必要な重要ポイントを定める。

第二に必要になるのは重要ポイントを分析し、その行動に至った理由や根拠なども含めた、真の事実経過を把握する作業である。第三はそれらを文章化し、関係者による確認を得ることである。例えば「胸痛に対し、担当医は胸部CTをオーダーすることを失念し、患者を入院させたまま、それ以上の処置を行わなかった」という事実経緯を書いたとする。これを書いた人はすでに頭の中でこの担当医が見落としたという思いがある。だから、そういう文章になる。仮にそうであったとしても、この場合は事実を丁寧に紡ぐ作業が必要になる。すると次のような文章が導かれるはずだ。

「胸痛に対し、担当医は問診と患者の全身所見、採血データ、胸部レントゲン写真から、その時点で緊急を要する状態とは判断せず、まずは入院下にて様子を観察することとした。当該病院では、夜間外来における上級医による指導体制を有していなかった

事前的評価視点と事後的評価視点

手順の第四は事前的評価視点を用いた評価である。医療は標準的医療の連続でなければならない。標準的医療には幅がある。標準とはガイドラインや教科書に書かれていることだ。その連続であっても患者が亡くなったのであれば、その時々の判断は適切であったが、残念ながら亡くなったという評価になる。

しかし、途中で標準から大きく逸脱したのであれば標準を逸脱したということになる。しかし、逸脱にはなんらかの理由がある。それも解明して評価する必要がある。これが事前的評価視点だ。

第五は事後的評価視点を用いた再発防止策の立案である。救命するにはどうすればよかったのか、あえて事後的に検証を試みる、この時点でこうしておけば救命できた可能性がある。それならば、もし将来、同じ場面を迎えた時、自動的に判断が良いほうに流れるような仕組みを導入してはどうかというのが再発防止策の提言となる。

従来の事故調査は、その場その場で最大の努力が払われてきたものと推察する。しかし、これから法制度に則って進むとすれば、端的に言えば「誰がやっても同じ結果になる」調査が望ましい。いわば標準化だ。今後はばらつきを生みにくい調査手法の開発と周知、啓発が求められる。そのためには、支援団体や学会などで調査手法を教育したり、センター調査で模範を示したりすることが重要だろう。その取り組みは、すでに進められている。

自信と誇りを持って医療を提供する

「医療事故調査報告書の考え方と書き方」

宮田哲郎(山王病院・山王メディカルセンター 血管病センター センター長)

宮田哲郎氏

宮田哲郎氏

医療事故調査制度が目指すのは、死因の究明と再発防止の2点である。医療事故は患者・遺族に深刻な影響を与えるが、医療者にも深刻な影響を与えている。事故に関わった医療者をサポートする制度も今後考えなければならない。死因を究明することは、遺族の救済のみならず、それに関わった医療者が救われる場合もあるからだ。個人の責任を追及すると医療は委縮し、解決にならない。医療者であれば同じ思いだと思う。

医療に100%の安全性と確実性はない。患者にとって不幸な事態が生じた場合、次世代の医療安全につなげることこそが、現場の医療者が果たすべき責任である。この制度は基本理念を目指すことで運営発展させるものであり、これが個人の責任追及に曲がっていくようであれば、この制度自体をわれわれは捨て去らなければならないと思うし、そうしてはいけない。

医療事故調査報告書は死因の究明が重要であり、事実究明作業の総まとめの場である。当然ながら医療者の疑問が反映されているか、遺族の疑問や意見が十分に反映されているか、という視点が大切。死因究明の場で先入観による恣意的調査ではないか、これも非常に重要だ。固定観念に捉われた議論になると、本来の死因究明はできない。調査委員会は自由な立場で十分議論を繰り返すということが重要になる。それを適切な表現で表現する。それがあって初めて再発防止につながる。

個人責任を追及するものでないことを明記

医療事故報告書の基本は

  1. 担当者の違いによらず、調査体制が中立性、公正性、専門性が担保されていること
  2. 臨床経過が明瞭であること
  3. 事故の背景について分析されていること
  4. 経過から分析・再発防止までの記載において論理的に整合性がとれていること
  5. 医学的検証は前方視的視点、再発防止策は後方視的視点で行い、記載表現にも注意すること

――などを満たしていることが必要。本来は基本となる報告書の作成マニュアルがあり、それに従って調査し、所定の様式で報告書を記載することが望ましい。この制度が始まって1年、確実にそこに向かって進んでいる実感はある。

報告書の構成(案)で最初にくるのは、医療事故調査報告書の位置づけ・目的である。「この事故調査委員会は、○○の事例について公正な立場で臨床経過の把握と死因の究明、再発防止策の検討を行うために設置された」ということを明確にする。そして「個人の責任を追及するものではない」ことを明記する。どういう立場で書かれたものかを冒頭に明示することは報告書にとって極めて重要である。そして、臨床経過がその後の分析の基本であり、調査報告書の根幹を成す要素の一つである。

情報の種類は、診療記録、聞き取り調査の情報、背景情報の3つで構成される。聞き取りの際、当事者は精神的に傷ついているので、気を遣う。同じ医療者として共感をもち、支援する立場でないと充分な情報を聞き取ることはできないと思う。ただ、記憶に頼るため、事実と異なる場合もある。そのあたりに関しては十分に注意しながら、そこに重要な情報が隠れている場合もあることを念頭に行う。

社会からの信頼回復に向けた医療界の努力

医療事故は表面的には個人の間違いと認識されやすいが、多くは、さまざまな原因が複雑に重なり合って発生する。単純なミスはその背後にある脆弱なシステムに起因する。これを明らかにするのが医療事故調査の大きな目的だと考える。評価は事前的視点と事後的視点のどちらも大切である。医療行為を評価するのは事前的視点、再発防止策は事後的視点でみるのが重要。2つの視点を目的に合わせて使い分けるようにする。

再発防止策を書くこと自体が法律上の過失立証と受け取られるのではないかとの危惧もあるが、再発防止策はあくまでも事後的視点なので、視点の違いを明確に報告書に記載することで、その危惧は回避できると思う。再発防止策は2種類ある。一つは院内事故調査委員会で検証し、翌日から実施できるもの。もう一つはただちにその医療機関では実施が難しいが、センターで集積して検討し、医療界へ発信されることが期待されるものだ。

報告書に委員氏名を掲載するかは、その病院の設置規定で最初から決めておく。執筆は多くの人の共同作業になるが、納得するまで意見交換を繰り返すことや、それをどう表現するのかが重要。医学用語はただでさえ難しい。それを脚注などして分かりやすく表現する。「べき」という言葉は、他の治療方法は標準的治療法の範囲外という意味に制限して使用する。法律用語は当然避けたほうがよい。例えば「ただちに抗がん剤治療を中止すべきだった」というのは、中止しない方法は、標準的医療の外になることを表している。

医療事故調査制度は、社会からの信頼回復に向けた医療界の努力である。それはプロフェッショナリズムの名のもとに医療界の自律(professional autonomy)と自浄(self-regulation)の姿勢を明確に打ち出すことに他ならない。われわれが目指すのは、患者が納得して医療を受け、医療者が専門家として自信と誇りを持って萎縮することなく医療を提供する環境を形成することだと思う。

取材:伊藤公一

今般、公益社団法人日本医師会は、一般社団法人日本医療安全調査機構の委託を受けて「医療事故調査制度トップセミナー」を全国7カ所で開催いたします。

日程・会場
平成29年1月16日(月)
日本医師会館(東京)
1月25日(水)
TKP名古屋駅前カンファレンスセンター
2月2日(木)
大阪国際交流センター
2月8日(水)
さっぽろ芸文館
2月20日(月)
アークホテル岡山
3月1日(水)
仙台国際センター
3月8日(水)
福岡国際会議場
対象 医療機関管理者、もしくはこれに準ずる方
定員 各会場ともに200名程度
参加費 1500円(税込)

プログラム

13:00~13:10 開講挨拶
13:10~13:30 医療事故調査制度の概要【20分】
(厚生労働省医政局総務課 医療安全推進室)
13:30~14:25 医療事故調査制度における判断(1)演習【55分】
14:25~14:45 医療事故調査制度における判断(2)整理【20分】
14:45~14:55 休憩
14:55~15:20 医療事故調査の要点【25分】
15:20~16:20 医療事故調査制度における医療機関管理者の役割【60分】
16:20~16:30 休憩
16:30~17:00 調査実務担当者の視点から【30分】
17:00~17:25 質疑応答、まとめ【25分】
17:25~17:30 閉講挨拶

講師は会場ごとに異なります。申込方法等、詳しくはこちらをご覧ください。

一般社団法人日本外科学会は2016年4月14~16の3日間、大阪国際会議場とリーガロイヤルホテル大阪で開いた「第116回 日本外科学会定期学術集会」で、昨年10月1日に施行された新たな医療事故調査制度をめぐる特別企画を催した。「外科医に求められる医療安全―医療事故調査制度の開始にあたって―」と題するこの企画には、同制度に関わりの深い医師や法律家、NPO法人、行政などの専門家がそれぞれの立場から発言。制度施行前後の状況などを報告した。

半年で寄せられた相談は1000件以上

「外科医の立場から見た本制度の要点・念頭に置くべきこと」

木村壯介(日本医療安全調査機構 常務理事)

木村壯介氏

木村壯介氏

今回の制度は、個人の責任追及ではなく、当該医療機関自らが調査することによって医療の質と安全の向上を目指すことを目的としている。事故の判断等は、医療者側に委ねられているということだ。当該医療機関が行うことによる「中立・公正性」「専門性」「透明性」という問題に関しては、支援団体が加わることで対応している。支援団体は、調査の実務的な支援も担う。例えば、小さなクリニック等の事故でも、その県の支援団体協議会等で調査が可能という形をとっている。

まだ施行後6カ月だが、私どものセンターでは、同一の電話番号で、この医療事故に関する相談を受け付けることにしている。合議により判断して基準となる結論を出し、センターの助言として出す形をとっている。この半年で1000件以上の相談があった。内容は「事故の判断に関するもの」「事故の発生の報告の手続きに関するもの」「院内調査に関わるもの」「その他」がそれぞれ4分の1ずつという割合だ。

この半年間で事故が発生したという報告は188件あった。施行当初の10月、11月は少なくて少しずつ上がってきた。2月に少し減ったが、3月には48件になっている。この制度を設計するときには、多くのデータから年間1300~2000件という数を想定していた。1200件と仮定すると月100件になる。従って、現状は非常に少ないということになる。事故の定義も考え方も違うので一概に評価はできない。また、亡くなってから事故発生の報告までの期間にはかなり要しているようだ。

真価を発揮するには多くの人の協力が必要

現在、医師法21条を含めた見直しが法令の附則に示されており、6月までに行われる。医師法21条に関する公式な解説については1994年に厚生労働省の医政局から示されたのが最後である。

一昨年、医療事故調査制度によって新たに事故死を定義し、報告調査をすることを定めて以降、医師法21条との兼ね合いをどうしようかという見直しが行われている。犯罪と関係ある異状死は21条。それ以外はこの制度で医療事故死を取り扱うという考えがある。これは学会員の立場として、基本的には賛成だと思う。

ただ問題は、犯罪と医療事故死の判断が難しい場合があることだ。もう一つ、医療事故死の中で、本制度で本当に医療の場で起きる診療に関連した死亡すべてに対応できるのか否か。医療界ですべて対応するとして、きちんとそれに対して処理できているのか。報告数に現れた現状をどう評価するか。これが全体をカバーしないのであれば、もっと強制力を持って対応しなければならないという考えが社会あるいは行政から当然出てくるだろう。

この制度は、医療を信頼するという基盤の上に作られた。医療者側に調査、判断、対応を預けてあって、強制力も罰則もない。現場で医療を行う当事者、管理者の努力に加えて多くの方たちの協力が必要である。ぜひ皆さんの協力をお願いしたい。医療の中で起きた事故に対応でき、的確に処理できるシステムとしてぜひ育てていきたい。

事故報告について/制度開始後の相談・報告から
事故報告について/制度開始後の相談・報告から
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「院内事故調査」各組織との関係
「院内事故調査」各組織との関係
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医療は説明責任を伴う準委任契約

「外科医の立場から見た医療安全そしてリスクマネジメント」

万代恭嗣(東京山手メディカルセンター 院長)

万代恭嗣氏

万代恭嗣氏

若い先生方に今回の医療事故調査制度をどう考えたらいいのかを話したいと思う。医者と患者の関係におけるパラダイムシフトが起きて久しい。最大の変化は、なんといっても患者の権利の尊重や自己決定権の尊重が極めて大事な時代になっていることだろう。

ただ、その考えが広く行き渡り、行き過ぎた場合、悪しき結果をすべて医療ミスと考える患者と家族がいることは間違いない。それにどうやって対処していくかも求められている。個人にとって医療ミスとクレームされる頻度はそれほど高くない。大切なのはまず組織として対応することだ。一人で抱えないことが、過誤があってもなくても必要だと思う。

民法上の契約には請負契約と委任契約がある。請負契約とは、建物を建てることでお金をもらう建築のようなものだ。要するに、完成という結果を保証する責任を負う契約である。委任契約は弁護士や公認会計士にお願いして行う契約だ。これらに対して、医療行為は準委任契約であり、請負とは違い、結果を約束できない、あるいはしない契約である。それゆえに、結果およびその過程については説明責任が発生する。

求められる説明の例として判例がある。例えば、平成13年の最高裁判決では「診療契約に基づいて要求される内容につき特別の事情のない限り、1.当該疾患の診断(病名と病状) 2.実施予定の手術の内容 3.手術に付随する危険性 4.他に選択可能な治疲方法があれば、その内容と利害得失 5.予後などについて説明すべき義務がある」とされている。

そこには「説明すべき義務」があると書いてある。「努力義務」ではない。この5点をぜひ若い先生には覚えておいていただきたい。私も院長として口を酸っぱくして言っている。

最高裁で判決が出ると覆せない。だから、何かあって民事の訴訟を起こされた時、この5要件を守っていなければ、必ず負けると考えていただきたい。医療事故調査制度の狙いは責任追及ではなく再発防止である。産科医療補償制度のように、恐らくは訴えが少なくなるのではないかという期待もあるが、民事訴訟を起こされない保証はない。若い先生にはぜひ実行し、かつカルテへの記載も忘れないでほしい。

リスクマネジメントのABCDを頑なに守ろう

医療安全の方策としては、テクニカルスキルだけでなく、ノンテクニカルスキルが必要だ。外科領域はもともと"体育会系"で"匠"の技術を追求しがちだが、医療安全においては、神の手よりは丁寧なきちんとしたノンテクニカルスキルの繰り返しが必要である。

研修医のリスクマネジメントでは、救急患者を診るときのABCDに加え、リスクマネジメントのABCDの要件を意識することが鉄則だ。「Anticipate=予見して、Behave=態度を慎み横柄な態度はしない、Communicate=お互いにコミュニケーションをとって、Document=記録すること」である。一番大切なのはDであろう。しかし、これがなかなか言うは易く、行うは難い。院長として「日常診療で忙しいだろうけど、結局は自分の身を守ることになるんだ」と言っている。一言でも書いたか何も書いていないかで、結果はずいぶん違う。

不幸にして事故が起こった場合はどうするか。私どもが作ったマニュアルでは、「共感表明謝罪」と「責任承認謝罪」に触れている。「共感表明謝罪」とは、良かれと思って行った医療行為の中で、悪しき結果が起こった場合、たとえ過誤がなくても「期待する結果が得られなくて大変申し訳なかった」とする謝罪である。誰もが悪しき結果を目指して治療するわけではないのであるから、この謝罪は患者にとっても透明性を示した説明になると思う。そういう心がけが必要だろう。

医師・患者関係におけるパラダイムシフト
医師・患者関係におけるパラダイムシフト
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リスクマネジメントのABCD
リスクマネジメントのABCD
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個人責任でなく組織対応が問われる

「医療事故調査と病院のガバナンス」

堺常雄(日本病院会 会長)

堺常雄氏

堺常雄氏

今回の医療事故調査制度は、医療の安全を確保することを目的としている。木村先生の報告にもあったが、2016年3月末日時点で、センター調査の依頼件数は2件だった。当初の予測に比べると随分低く、塩崎厚労相の発言もあるが、これからはセンターを中心に色々検討する必要があるだろう。この状況をみると、病院の管理者、職員が一人ひとり留意すべきことがいくつか挙げられると思う。

日常的には、管理者はじめ、すべての職員が、いかに良質で安心・安全な医療を提供できるかを認識し、努力することが求められている。そこで問われるのは個人の責任ではなく、組織がどのように対応してきているかである。だからこそ病院のガバナンスの確立が重要になってくる。

最近のガバナンスをめぐる事例では、東京女子医科大学病院と群馬大学医学部附属病院の「特定機能病院承認取り消し」(2015年6月1日)、8病院の「臨床研究中核病院認定」(2016年3月25日)などがある。

診療の質・安全に関する報告を年4回受ける

クリニカル・ガバナンスでは末端に至るまでの教育や臨床審査などが必要不可欠である。臨床審査では診療行為のレビュー、有害事象等の報告・検討などをどこの病院でもやっていると思いたいが、なかなかできていないのが現実だ。

ガバナンスに必要な事項は多岐にわたる。例えば、ガバナンスに関する組織・権限について、定款・規則、手順などに記載されていなければならない。ガバナンスに関する運用責任・責務が文書に記載されていることも大切だ。責任者は質・安全に関する計画を承認し、質・安全に関する報告を受け、それへの対応を指示しなければない。

責任者(院長)として肝心なことは、たとえ副院長などが代理で業務を行ったとしても、最終的には自分がそれをしっかりと理解・了解していなければならない。さらには、診断・治療に関連して予期しない重大な出来事などが起こった場合でも、すべて把握・了解している必要がある。

理想的には責任者は有害事象・不測事象を含む診療の質・安全に関する報告を少なくとも年4回受けて、それに適切に対応しなければならない。

病院医療の質を担保するためには、病院ガバナンスを真ん中に置いて、医療法や医師法などに則って地域医療を提供するのが望ましい。その上で、医療標準をチェックする日本医療機能評価機構などの関係機関と連携することが大切だ。なかなかなじみにくいところだが、こうしたことを進めていかないと、医療の安全は確保できないのではないだろうか。

クリニカル・ガバナンス
クリニカル・ガバナンス
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病院医療の質の担保
病院医療の質の担保
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さまざまな課題がある院内調査

「医療事故調査の標準化に向けて」

長尾能雅(名古屋大学医学部附属病院 医療の質・安全管理部 部長)

長尾能雅氏

長尾能雅氏

昨年10月に新制度がスタートしたが、どのような事例を届けて、どのような調査をするのかといった具体的な内容・中身に関しては、管理者に委ねられている部分が多い。

私はこの10年で60件ぐらいの事故調査に関与した。その経験を通して、院内調査は有意義なことと捉えているが、いくつかの課題もあると考えている。それを一言で言えば、運営や審議、分析方法等が標準化されていないということである。

まず、招かれた調査委員がシステムアプローチに慣れていない。専門家の意見が果たして本当に妥当なのかもよく分からない。あるいは、関係者へのヒアリングが不十分なまま調査が進められると、事実認定自体が危うくなる。後で事実と異なる部分が判明すると、調査会や報告書の信憑性が損なわれてしまう。

また、外部委員が報告書作成に非協力的、報告書の編集・推敲に一定のスキルが必要、提言が普遍的で具体性に欠ける、といった課題もある。事務的所掌が膨大でお金もかかる。だいたい1件20万円、多いと100万円ぐらい必要になることがある。

せっかく苦労して作っても患者の疑問が解消されないこともある。遺族が何に疑問を持っているのか、十分確認していないためである。また、調査することにより紛争を回避したいという期待があると、黒なのに白と書こうとしたり、白なのに黒と書こうとしたりする。過失と読み取れなければ、保険会社が賠償に難色を示すからである。自ずと、事実と異なる報告書が作成され、不幸な形でひとり歩きすることになる。

したがって、法的な判断と調査を切り分ける必要があるわけだが、そのあたりがはっきりしないまま、外部参加型の事故調査が進められてきた。医療界に大きな波紋を呼んだ福島県立大野病院事件のような出来事の背景要因には、調査手法が標準化されないまま、急速に外部参加型の事故調査が普及していったことも挙げられる。

標準化されていない調査の手法

制度が始まり、すでにいくつかの調査報告書が支援センターに届けられている。私も支援センターの総合調査委員を務めているので、それらの一部を拝見する機会があるのだが、やはり調査の手法が標準化されていないことは重要な課題と感じる。例えば、報告書の形態や記述量がまちまちで、定型がない。調査が系統的でなく、調査側が重視したポイントのみ記載されている。例えば手術に関連して発生した出来事であれば、手術のことは詳しく分析してあっても、ではその適応はどうだったのか、リスクの評価はどうだったのかといった分析が抜け落ちている。

さらに、調査結果の羅列にとどまり、その結果を導いた背景や根拠が示されていないものも多い。報告書を読んでも、なぜこのような結果になったのかが分からない。また、解剖が行われていない、あるいは、行われたが死因が不明だったケースの場合、結局そこで調査が止まってしまう。つまり、何を検証したのかよく分からないということになる。

では、良い調査とはどのようなものか。良い調査の第一条件には、診療録等のドキュメントや当事者、患者側のヒアリングを基に、丁寧な事実経緯が記載されていることが求められる。加えて、できる限り科学的死因究明が行われていることが望ましい。解剖やAi、死後の採血、培養の結果などだ。それらを基に、死因が導かれていることが理想である。その上で、死因とは別に、なぜこの出来事が発生したのかという背景要因が分析され、評価が加えられていることが望ましい。

『院内事故調査の手引き』による教育を

報告書の記載方法も重要となる。例えば「胸痛に対し、担当医が胸部CTをオーダーすることを失念し、患者を入院させたまま、それ以上の処置を行わなかった」と書けば、担当医の水準が低いのではないか、という印象を与える。しかし、実際は「胸痛に対し、担当医は問診と患者の全身所見、採血データ、胸部レントゲン写真から、その時点で緊急を要する状態とは判断せず、まずは入院下にて様子を観察することとした。当該病院では、夜間外来における上級医による指導体制を有していなかった」といった記載のほうが事実に近い。

太字で書いたところは、ヒアリングなどによって初めて把握される、つまり、カルテに書かれていない事柄ということになる。本来、このような思考過程がカルテに書かれていることが望ましいのだが、それがない場合はあらためて聞き取る必要がある。

事実が同定されたら、評価を加えていくが、この時には事前的評価視点を用いることを心がける。本来、標準的な診療行為には幅が存在する。幅とはガイドラインや教科書などで規定されるものである。仮に、標準的医療の連続の結果患者が亡くなったのであれば、その医療行為は適切だったという評価になる。しかし途中で大きく標準を逸脱し、そのまま患者が亡くなったのであれば、不適切という評価になる。これらの評価を外部専門家が行うのが理想だ。

例えば、先述の担当医は、この時点で緊急を要する状態とは判断しなかった。これは、専門家からみて、適切なのかそうでないのか。また、その病院が上級医による指導体制を有していなかったのは、今の日本の医療の水準に比して、その病院の地域に与えられている役割を勘案して適切なのか、そうでないのか。これらについて、外部の専門家が丁寧に評価を加えていく。

最後に再発防止策を探るわけだが、これは一転して事後的評価視点を用いる。仮に標準的医療の連続の中で亡くなった、と評価された事例であったとしても、患者を回復させるためにはどうすればよかったのか。この時点でこちらを選択しておけばよかったのではないか、といったことを後方視的に探る。こうして初めて具体的な再発防止策を導くことができる。

私どもは日本病院会の堺常雄会長に大変なご理解をいただき、木村壯介先生のご指導の下で昨年10月、『院内事故調査の手引き』を作成し、刊行することができた。まだまだ不十分で、今後改訂を重ねる必要はあるが、これまで申し上げたことの原形が記載されている。調査の標準化を目指すには、支援団体や学会等で、調査に関与する可能性がある人たちを対象に、こういった具体的な手法を教育していくことが必要だろう。また、センター調査の場で模範を示していくことも求められるだろう。

"良い調査"のイメージ
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『院内事故調査の手引き』
『院内事故調査の手引き』
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現場の思いを吐露した外科学会声明

「医療事故調査制度の制度化に至る経緯と規定の特徴~法律家の立場から」

児玉安司(新星総合法律事務所 弁護士)

児玉安司氏

児玉安司氏

医療事故調査制度に関し、制定の経緯と規定の特徴を話したい。

1998年ごろまでは年間の医療事故、医療ミスの報道件数(のべ報道本数)はせいぜい年間数百件という状態だったが、1999年ごろに突如増加し、年間数千件の報道が行われた。1999年に始まった医療バッシングは日本だけでなく、アメリカやヨーロッパでも医療事故に注目が集まった。この年の12月にはアメリカのナショナルアカデミーが刊行した『To Err Is Human(人は誰でも間違える)』という報告書が「全米で1年間に医療事故で48000人から92000人が亡くなっている」という衝撃的な数字を公表して、世界的な注目を集めた。

2001年は厚生労働省が政策的対応を開始し、同年を患者安全推進年とした。それまで同省内には医療安全を所管するセクションがなかったが、この年に医療安全推進室が設置され、本格的な政策対応が開始された。それと期を同じくして、今度は日本外科学会が「外科学会声明」を発表した。

当時は、警察の介入が急増したため、ハイリスク医療を扱っている外科医が刑事捜査の対象になる事例が急増し、現場から憤懣の声があがっていた。「こんなことでは医療をやっていられない」「患者を助けようとして夜も寝ないで戦っているわれわれをなぜ犯罪者扱いするのか」という、非常に素朴な外科医の怒りが表明された。

外科学会声明は、中立的な第三者機関を設置することによって、警察に捜査され取り調べられる状況をなんとか終わらせたいという思いを込めて発表されたものだった。

2003年の医療法施行規則改正により、院内の医療安全体制の整備が行われ、2004年からは医療事故情報収集等事業の民間の指定機関として日本医療機能評価機構が指定され、多年にわたる懸案となっていた医療事故調査制度も2014年の医療法改正によって法制化され、施行後2年が経過した現在、見直しの作業が進められている。

医療界自らが調査・評価する意義

医療事故情報収集等事業においても、医療事故調査制度において、医療者が「予期しなかったもの」を医療事故とするという考え方がとられている。

「予期」ということばは、法律用語であると思われるかもしれないが、法律用語ではなく、法令中に使われることが極めてまれな用語である。

医学界の医師法21条を巡る議論の中で我が国の法令に流入してきたものであるが、もともとの由来は、アメリカやイギリス等の英米法圏で検視官や監察医の権限の範囲を示す"unexpected"に由来すると思われる。日本では、警察から独立した監察医制度が全国に整備されていない。日本の法制度では、保健所機能も監察医機能も含めて、行政警察の権限が極めて広い。

2007年に、医療界自らの調査による刑事手続の制御を目指し、厚生労働省・警察庁・法務省が協議した末にいわゆる大綱案が出されたが、医療側から異論がでてこのまま頓挫した。2008年以降は、無過失補償制度による民事手続の制御を目指し、新しい医療事故調査制度の検討が続いた。これらの議論を経て、医療安全のための制度として、2014年の第六次医療法改正によって医療事故調査制度が制定されるに至った。

今回の医療事故調査制度は、医療界自らが調査し、評価する仕組みを作ることが主眼となっている。支援団体の支援を広げ、民間の医療安全調査機構を支援センターとし、新たな一歩を踏み出した。医療行為に関連する医師法21条や刑事手続・民事手続との法制度の整備については、医療事故調査制度の制度整備や実施状況を踏まえて、これから先、長期の課題となっていくと思われる。

「医療事故」「医療ミス」の報道件数
「医療事故」「医療ミス」の報道件数
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外科学会声明
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医療の信頼につながる透明性の担保

「患者の立場から医療事故調査制度に望むこと」

山口育子(NPO法人ささえあい医療センターCOML 理事長)

山口育子氏

山口育子氏

COML(コムル)の活動は1990年から始まり、今年で26年になる。日常の活動の柱としてこれまで56000件におよぶ電話相談を患者家族の生の声ということで受けてきた。そういう経緯から、患者の立場で医療事故調査制度に望むことを話したい。

今回の医療事故調査制度は届出をした後、院内調査をすることが肝となっている。原則外部委員が加わって、複数の専門家で検証することになる。私も診療行為に関連したモデル事業に関わってきたので、中立性、透明性、公正性、専門性が保たれるのではないかと期待している。この段階で、もし再発防止策が出てきたのであれば、それをしっかり報告書にも記載していただきたい。

届出の対象になる死亡が起きた時には院内調査にあたって遺族にもヒアリングをするが、遺族の中には今すぐ話せる状態の人もいれば、今は辛いという人もいる。だとすれば、聞く準備があるということを伝えてもらい、OKになった時点で遺族の疑問や知りたいことを聞き取り、そのことへの回答も回答書に盛り込んでいただきたい。

報告書は遺族にも手渡し、きちんと開示した上で、口頭でも分かりやすく誠実に説明をしていただきたい。多くの場合、持ち帰って落ち着いた状態で読み返したり、家族で話し合ったりすると改めて疑問がわいてくる。遺族のそうした再質問にも答えていただければ、医療側の誠実さがきちんと伝わり、遺族の理解も深まるのではないか。そういう透明性の担保をすることが医療界への信頼につながると私は信じている。

予期せぬ死亡が起きることを学ぶこと

ところが実際には、議論がかなり紛糾し、遺族への報告は「口頭または書面、もしくはその双方の適切な方法」で「遺族が希望する方法で説明するよう努めなければならない」という努力規定になってしまった。私は報告書は開示してくれとずっと言ってきた。専門性が高い治療や病気の説明は口頭説明だけでは理解できない。理解できなければ、結果的に聞いていないのと同じことになるからだ。そういう方が相談者の説明不足を訴えてくる場合の大半を占めている。

ましてや死亡の調査ということが行われると、専門性はさらに高くなる。口頭の説明だけで理解しろというのは、素人には酷な話だ。口頭説明だけだと、誤った解釈が独り歩きする恐れがある。その方が危険だと思う。報告書をセンターに出しているとしたら、なぜそれを見せてくれないのかと疑心暗鬼になる。そういうことが重なると、以前の不信感に戻ってしまうのではと危惧しているので、きちんと報告書を開示してほしい。

私たち患者側が学ばねばならないのは、予期せぬ死亡は起きるんだということだ。また、調査をすれば必ず答が出ると思っている人が大半だが、調査をしても原因が分からないこともある、ということを事前に理解する必要があるのではないかと思う。

この制度が始まって以来、私たちのところには「予期せぬ死亡を病院が認めているのに届出がされていない。なぜかと聞いたら、過誤がはっきりしないからだ」などと、とても誤った解釈をされているような声が届いている。医療安全の担当者からは「私は届出をする必要があると言っても、管理者がこんなものは届け出なくてもいい。そういうセミナーを受けてきた」と、後退するような動きがあるように感じている。

医療界の皆さんにはぜひ、前向きな制度ということで我々患者側とともに育てていただきたい。

院内調査の遺族への説明
院内調査の遺族への説明
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納得できる院内事故調査のあり方
納得できる院内事故調査のあり方
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制度の対象は2つの軸で判断する

「医療事故調査制度の概要について」

平子哲夫(厚生労働省医政局総務課 医療安全推進室長)

平子哲夫氏

平子哲夫氏

今回の調査の仕組では、センターに報告した後、院内調査が始まるが、院内調査を行うにあたっては、支援団体に必ず何らかの支援を求める。そして、調査を行い、遺族に結果を報告・説明し、センターへ報告することで医療機関の対応は一通り終わることになる。一方で、一度医療事故と医療機関の管理者が支援センターに届けたものについては、医療事故調査・支援センターに、医療機関あるいは遺族からセンター調査、つまり第三者機関による調査を依頼することができる。それを受けたセンターは調査を行い、医療機関、遺族へ結果報告を行うことが今回の調査の仕組みだ。

センターの業務は他の先生方に詳しく説明していただいたので、特に触れないが、報告を受け付け、調査し、それらをまとめて分析をすることにより、研修につなげたり、普及啓発につなげたり、相談支援につなげたりする。医療事故の定義は「当該医療機関が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産」という1つの判断の軸、「管理者が予期しなかったもの」という2つの軸で判断するものだ。過誤の有無は問われていない。また、患者からのクレームがないから報告しなくていいというものでもない。

判断基準はあくまで医療の起因性と管理者が予期しなかったものかどうか、この2つの軸で判断することに留意いただきたい。「管理者が予期しなかったもの」とは、一般的な死亡の可能性についての説明や記録ではなく、当該患者個人の臨床経過等を踏まえて、当該死亡や死産が起こりうることについて、患者等への事前の説明や診療録等への事前の記載が十分になされていたものでない、と管理者が認めたものである。

今回の調査の仕組では、センターに報告した後、院内調査が始まるが、院内調査を行うにあたっては、支援団体に必ず何らかの支援を求める。そして、調査を行い、遺族に結果を報告・説明し、センターへ報告することで医療機関の対応は一通り終わることになる。一方で、一度医療事故と医療機関の管理者が支援センターに届けたものについては、医療事故調査・支援センターに、医療機関あるいは遺族からセンター調査、つまり第三者機関による調査を依頼することができる。それを受けたセンターは調査を行い、医療機関、遺族へ結果報告を行うことが今回の調査の仕組みだ。

センターの業務は他の先生方に詳しく説明していただいたので、特に触れないが、報告を受け付け、調査し、それらをまとめて分析をすることにより、研修につなげたり、普及啓発につなげたり、相談支援につなげたりする。医療事故の定義は「当該医療機関が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産」という1つの判断の軸、「管理者が予期しなかったもの」という2つの軸で判断するものだ。過誤の有無は問われていない。また、患者からのクレームがないから報告しなくていいというものでもない。

判断基準はあくまで医療の起因性と管理者が予期しなかったものかどうか、この2つの軸で判断することに留意いただきたい。「管理者が予期しなかったもの」とは、一般的な死亡の可能性についての説明や記録ではなく、当該患者個人の臨床経過等を踏まえて、当該死亡や死産が起こりうることについて、患者等への事前の説明や診療録等への事前の記載が十分になされていたものでない、と管理者が認めたものである。

おおむね人口比に応じた報告件数

医療事故調査制度の施行後半年での状況だが、医療事故報告が計188件。病院から169件、診療所から19件出ている。診療科別ではメジャーなところから出てきているという印象だ。地域別には東北が少ないという印象はあるが、おおむね人口比に応じて出てきているのではないか。

院内調査結果の報告が50件ということだが、センター調査の依頼が2件あった。現時点でこれらの件数の評価は難しい。

交付後2年、本年6月にその期限がくるが、医療事故調査制度の実施状況を勘案し、医師法21条の届出と本制度による報告のあり方との関係であるとか、医療事故調査そのもののあり方、医療事故調査支援センターのあり方などについて検討を行い、必要な措置を講ずる必要がある。

実際、さまざまなご意見が私どもに届いており、自民党の医療事故調査制度に関するワーキンググループの中でも積極的に議論されていると聞いている。この期限までに必要な措置を詰めていきたい。医療界がどういう対応をしていくのかということは、患者、遺族から注目されている。どういう形でこの制度を運用していくことが医療界の発展に寄与するか、国民にとって信頼される制度になるのかということを考えていただければと思っている。

医療事故情報報告システム
医療事故情報報告システム
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医療安全支援センター体制図
医療安全支援センター体制図
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取材:伊藤公一
「医療事故調査と医療の安全を考える」をテーマに開かれた研究大会

「医療事故調査と医療の安全を考える」をテーマに開かれた研究大会

医療従事者や医薬品・医療機器などの製造販売者、医療の安全に関心をもつ市民などでつくる「医療の安全に関する研究会」(名古屋市、島田康弘理事長)は2015年12月13日、名古屋市内で「医療事故調査と医療の安全を考える」をテーマに第20回の研究大会を開いた。主要プログラムのシンポジウム「医療事故調査が医療の安全に繋がっていくためには何が必要か」では同年10月1日から施行された新たな医療事故調査制度を踏まえて3人の専門家が現状の取り組みなどを報告した。

信憑性と透明性を担保する外部委員

「医療事故調査と専門学会:日本心臓血管外科学会の対応を中心に」

上田裕一(奈良県総合医療センター総長、日本心臓血管外科学会理事長)

上田裕一氏

上田裕一氏

わが国では1999年の重大医療事故を契機に医療安全への取り組みが始まり、大病院での医療事故調査結果も注目された。

私が関与した、あるいは学会に相談が寄せられた病院では、医療事故が発生した後「院内医療事故調査委員会」の設置については、病院長を含む執行部と医療安全管理部が各施設のマニュアルに従って決定されていた。

医療事故調査委員会は「医療過誤か否かの判断を行うのではない」ことを明確にして、事故原因を究明するスタンスに立ち「なぜ医療事故が発生したのか」を突き詰めて検証すること、そして再発防止策の提言が目的であることを明記すべきである。院内医療事故調査委員会で問題となるのは、専門医療に関わる医療事故の場合、当事者や関係者を委員から外しているため、院内で精度の高い調査は困難で、専門性の観点からは不十分な調査にとどまることである。従って、調査の対象領域の専門医、看護師や技師などの複数の職種が、十分納得できる専門性の高い調査を行うためには専門学会の調査への支援が不可欠である。その際、専門医の資格だけでなく、分析手法の知識と委員会に参加した経験がある外部委員が加わることによって、実効性のある調査が可能となり、信憑性と透明性を担保できる。

日本心臓血管外科学会の取り組み

日本心臓血管外科学会は医療事故の軽重にかかわらず、当該の施設長から要請があれば院内事故調査委員会に外部委員を複数名、推薦してきた。外部委員には専門的医学知識だけでなく、専門領域の診療経験が十分にあること、すなわち医療の現場を知っていることが求められる。公平で正当な評価をするには、大学関連を越えた複数名の外部委員・専門医の参画が不可欠である。

医師だけではなく、臨床工学技士(体外循環技師)も必要に応じて推薦している。推薦委員だけでの判断では不確定な要素が残ると委員が判断した場合には、理事会にその疑義内容を相談できる仕組みも設けており、日本心臓血管外科学会としての公正、中立な分析と判断になるようにしている。調査委員会で十分な審議が行われるためには、委員長の裁量も大変重要であることは言うまでもない。

昨今は「医療の質」が問われる診療関連死が注目されている。心臓血管外科をはじめ、手術死亡も想定される外科領域、重症例や緊急手術などの場合には、単純な死亡率だけでは判断できず、個々の患者のリスクスコアを検討しなければ診療実態の評価はできない。

心臓血管外科では日本心臓血管外科手術データベース機構(JCVSD)に手術実績が登録されており、個々のリスクスコアに基づいてわが国の標準的成績とのベンチマーキングも可能である。なお、手術成績は執刀医だけでなく、心臓外科医と麻酔科医、多職種とのチーム体制、診断から適応判断や術後管理までの連続した診療体制が問われる。従って、複数の診療科が参加する死亡症例と合併症例検討会が定期開催されているか、医療職の労務管理体制の視点からも評価することが重要と考えている。

専門学会が事故調に関与する仕組みが急務

有名な『人は誰でも間違える:より安全な医療システムを目指して』は医療関連学会と医療専門職団体の役割について触れているが「真の医療の実績評価を可能にする唯一の存在は専門学会であろう。社会にとっての医療を評価し、改善するプロセスを主導しない限り、学会は自らの役割を果たしていないといえるのではないか」と記載されている。この重要な役割として、院内医療事故調査委員会へ各専門学会が関与する仕組みを早々に構築する必要があろう。

日本心臓血管外科学会のホームページのトップページを開くと「Circulation」というバナーがある。ここをクリックすると米国心臓協会が公開した心臓手術室の医療安全や患者安全などについての科学ステートメントの翻訳をPDF PDFで提供している。無料公開しているので、ぜひ読んでいただきたい。

医療者は自分たちの足元を見つめ直せ

「Risk Vaccination」

尾崎孝平(神戸百年記念病院 麻酔集中治療部、尾崎塾)

尾崎孝平氏

尾崎孝平氏

ギリシャ経済破綻の原因は国民気質ともいえる恩顧主義にあると言われる。誰か上の人がやってくれるから自分は動かない、この考え方を聞いて私は即座に日本の医療事情によく似ていると思った。行政がレールを敷く医療事故調査制度に依存するだけでは、医療業界に存在するリスクを排除できないと考える。問題が起きたときに、医療者は当然わが身を守る方策に敏感になる。しかし、患者に降りかかるリスクにはそれほど敏感になれないし、事故が起こった際の患者への対応は教育もされていないし関心がないように思う。

医療事故調査制度を否定するわけではないが、医療者が医療のプロであると言うからには自身の問題を自ら解決しなければならない。そのために正論を100回唱えるよりも、不幸がどのような形で生じるかを具体的に知るべきで、そのほうが遥かに効果的だ。そこで、私はRisk Vaccinationという考え方を提唱している。具体的には訴訟となった医療事故の鑑定書(意見書)をすべての医師が顕名で書く義務を負うことを提案する。このワクチンは危険事象を認識するばかりでなく、疑似体験を持つことで医療者の心の奥底に潜む危険な逃避的思考が発動しないようにできる。

また現在、褒める指導が推奨されるが、褒めるだけで真に危険事象を回避できるであろうか。研修医を褒める一方ではなく「バカヤロー、それじゃ患者が死ぬだろう!」ということを熱く語る。言われたほうも怒ってもらえてよかったと感じる、本当はそのコミュニケーションを形成することのほうが大切ではないかと思う。

やむにやまれず立ち上げた「尾崎塾」

私は医療事故調査会の世話人になって20年以上経つが、この間に27件の鑑定書を書いてきた。鑑定書を書くのは一種の疑似体験であり、どのような不幸が患者を襲うのかを知り、私自身も事故の恐ろしさを身に染みて知った。

実はその27件のうち6割強が上気道閉塞、狭窄である。上気道の癌で窒息して患者が死亡する場合には、家族は納得する。しかし、検査時の鎮静措置などで原疾患と関係のない上気道閉塞で亡くなると、恨みを買いやすく非常に訴訟化されやすい。このような現実がありながら、私のもとには毎年毎年同じような事例が上がってくる。教訓がまったく生かされていない現状が放置されている。

まず、正確な分析ができないままに教科書的な記述だけが独り歩きし、対応策の多くは「呼吸を注意深く観察する」というだけになる。では、注意深くとはどういうことなのか。「なぜ」をきちんと知らされないままで終わらせ、早々に蓋をしてしまう。

こうした現状を目の当たりにして、なんとかしたいという思いで個人的に立ち上げ、啓蒙活動しているのが「尾崎塾」である。尾崎塾では私が書いた鑑定書を原文そのまま出している(ただし、個人名や施設名が特定されるものはすべて消去)。医師向けのセミナーでも学術的な考察内容を詳しく教えるよりも、実際に起きた事故の鑑定書をぜひ読んでほしいと訴えた。反響は良かった。

一方、鑑定書を書くのはつらい作業だ。筆が重くて仕方がない。それでもしっかり公平な立場で、原告側にも被告側にも偏ることなく誠意をもって臨まねばならない。その作業は当事者になって事故を疑似体験することに他ならない。供述調書には家族の肉声や医療者の隠したい気持ちがすべて出てくる。それらを知るということは事故の生ワクチンではないかと私は思う。

医療者の多くが知らないボンベの扱い

「医療ガスが止まったとき、どう診断し、どう対応するか」について講演した際、そのことに関する既知と未知の割合を自分の感覚で書いてほしいと参加者に頼んだ。医師は346人で麻酔医が約8割を占めたが、65.9%が未知と回答した。同じく未知の割合は看護師75%、理学療法士73%で、臨床工学士が48%と最も低かった。経験年数が関係するのかといえば、まったくそんなことはない。知らない人は死ぬまで知らず、教育もできない。そして、事故を起こして、やっと知る。

高圧ガスで満ちた酸素ボンベは口を切ると50メートル以上飛んでいく鋼鉄のロケットだ。しかし、そのことを実感する人は非常に少ない。毎日使っているボンベの扱い方を半数以上の医療者は知らない。医療ガスひとつとっても、高圧ガス保安法を遵守する他業種と比較すると医療はまさにブラック業種といえる。

救えるべき人を救うには、医療事故調査も大切だが、まず自分たちの足元を見つめ直せというのが私の結論である。

迅速かつ網羅的な事故報告が不可欠

「大学病院における医療事故の抽出と同僚評価の取り組みと今後の展望」

杉岡篤(藤田保健衛生大学副学長、肝・脾外科教授)

杉岡篤氏

杉岡篤氏

医療法上の医療事故とは、医療に起因し、または起因すると疑われる死亡または死産であって、しかも予期しなかったものと定義されたが、不確定な定義である。医療事故という言葉には医療者自身の抵抗感が強いため、速やかな届け出につながらないという問題が根底にある。実際に医療者の過失によって発生したものは医療過誤であり、不可抗力による有害事象も含む医療事故とは明確に区別しなければならない。一般社会でも用語の使い分けをきちんとすることが第一歩であろう。

医療の進歩によって、本来助からない患者が助かるようになった。例えば、多くの医療機器に囲まれた集中治療室の重症患者は毎日200近い処置が施されていることがある。仮に99%確実に実行したとしても事故の確率は1%であり、毎日2つの事故が発生し、場合によっては致命的な事故につながりかねないことになる。高度な医療はそうしたリスクと背中合わせであり、医療者の負担は天文学的に増大している。

求められる、自発的な報告文化の醸成

当院の医療の質・安全対策部は部長、副部長以下23名のスタッフから成り、弁護士が常駐し、安全管理、医療の質、感染対策に携わっている。最近は安全管理専従の医師も誕生した。安全管理は片手間にできる仕事ではないので、これは当院の安全管理にとって画期的なことである。医療事故の報告件数を集計してみると、診療科ごとに大きな開きがあることが分かる。しかし、報告件数が多いから危険な診療科という訳ではなく、逆に安全意識が高いほど早い段階での報告件数が多く安全性が高い。自発的に事故を報告できる文化は自浄作用の現れだからである。

当院では重大事故の報告は網羅されているが、リアルタイムに報告されにくいことが一番の課題である。しかし、外圧で報告を強制しても改善には結びつかない。あらゆるネットワークを通して自発的な報告文化を醸成するべきである。WOM(word of mouth)と呼ばれる口コミ文化も重要である。院内で顔を合わせたときに「ちょっと大変なことがあったんだ」などと耳打ちされた情報は有益だ。われわれは安全管理室の中にとどまっているのではなく、さまざまな人と積極的にコミュニケーションをとりながら、些細な報告から重大事故の芽を摘むことが大事だ。そのためにも事故報告を個人の責任追及につなげないという信頼関係が前提である。自発的に事故報告ができる組織でなければならない。

自浄意識の高い専門医の育成、発掘を

われわれは重大事故が発生すれば、直ちに緊急事例検討会を開き、死亡・死産例では、まず異状死かどうかを確認する。今回の医療事故調査制度では異状死の取扱いは従来通りなので、問題が疑われれば警察にも届けたうえで、事故調査委員会を開く。事故調査委員会の課題はいかにして適正な専門委員を確保するかである。独立性、中立・公正性、透明性などの条件をすべて満たす専門医は限られているが、自浄意識の高い適正な人材を確保し、あるいは育成することは、大学病院の責務である。

医療事故調査制度の施行に伴い、われわれ大学病院には他施設の医療事故に対する支援団体としての役割も求められている。そのためには、医師会や基幹病院と協調して地域で有機的なネットワークを築き、日ごろから信頼関係と連携体制を構築しておくことが大切だ。重大事故の対応には迅速かつ網羅的な事故報告とともに情報収集や資料確保が不可欠で、そのためには大学病院の医療安全の経験に基づく人的、物的な支援が有効だ。事故調査委員会の開催に際しても大学病院の専門委員が加われば、高い専門性と独立性、公正・中立性、透明性を求めることが可能になる。医療の健全かつ安全な発展は、医療従事者の持続的な自浄、自立努力に基づく患者との信頼関係の確立によってのみ実現できると思う。

取材:伊藤公一
河野龍太郎氏

河野龍太郎氏

2014年は大きな医療事故が相次いだ。東京女子医科大学病院、千葉県がんセンター、群馬大学病院で起きた事例である。これらは禁忌薬の投与や保健適用外診療といった、安全性が十分に確認されていない診療行為に伴って発生している。自治医科大学医学部の河野龍太郎教授は2015年11月22日に幕張メッセで開かれた「第10回医療の質・安全学会学術集会」で市立甲府病院の事例について報告した。

『小児への放射性医薬品過量投与事故調査と医療安全の問題』

自治医科大学医学部 メディカルシミュレーションセンター 河野龍太郎教授

事故調査で行うべき3つの分析

甲府病院の事例を報告する。本件は、市立甲府病院の小児RI検査において、8名の技師によって推奨投与量を大きく超過した放射性医薬品が準備されており、8名の技師と3名の看護師がそれらの放射能量を確認しないまま患者に投与し、検査を行っていたというものである。およそ12年間という長期にわたり異常は指摘されることなく継続され、この間延べ226人の患者に標準量を超える放射性医薬品が投与されていた。

事故調査には行うべき3つの分析がある。第1に死因究明。本件では死亡例はないが、なぜ亡くなったかという医学的因果関係の分析だ。第2に行動分析。関係者はなぜその判断をしたのか、行動の背後要因を分析する。第3にその他の分析。医療機器や材料などの問題を工学的因果関係から調べる。

立ち上げられた委員会は、RI検査問題について、事実確認と原因究明を行うとともに、その再発防止策を立案し、甲府市長に提出することを活動の目的とした。委員は5人。長尾先生が委員長、私が副委員長を務め、関本喜文(弁護士)、大野和子(日本核医学会専門医)、木田哲生(日本核医学専門技師)の各氏がそれぞれの専門家の立場で参加した。結果からいえば、非常に大変な作業であった。

市立甲府病院の事故概要
市立甲府病院の事故概要
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事故調査で行う3つの分析
事故調査で行う3つの分析
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各分野の専門家が独自調査で全容を公表

本委員会報告の特徴を端的に言えば、各分野の専門家が独自に調査し、事案の全容を公表したことだ。過去に院内の独自調査も行われている。

12年間に及ぶ長期の問題だったので、まずするべきは放射能量を再度推定することであった。それを踏まえて行動分析をしなければならないので全事例を時系列の一覧表にまとめる作業を行い、どのような状況下で、どれだけの事例が発生したかを全部確かめた。過量のセッティングをした技師長補佐がひとり自殺しているので、残念ながらこの人から話を聞くことはできなかった。

委員会活動が比較的うまく運んだのは、優秀な病院事務職員による地道な作業が行われたためだ。われわれがいくら頑張っても「推定原因」でしかない。すべての事故調査にいえることだが、真相は神のみぞ知る。所詮、われわれがどんな調査をしても、その結果は推定の域を出ないからだ。

特に、今回の場合、過去の話なのでヒアリングが重要な作業になる。しかし、その過程で記憶間違いの壁に阻まれる。いわば、ヒアリング調査の限界だ。本人に嘘をついているつもりはないが、記憶の変化が起こることがある。非常に難しい問題だ。そこで、われわれはできるだけ公平さを保つため、複数の調査員でヒアリングして、その概要を協力者自身に確認してもらった。

当事者はエラーをしたとは思っていない

私の担当は行動分析である。関係者の行動の背景をきちんと分析するのが目的だ。エラー分析ではない。行動分析では「なぜその人がそう判断したのか」「なぜ行動したのか」を分析する。

人間の行動モデルでは「エラーをした当事者はエラーをしたとは思っていない」という観点でものを見なければならない。例えば、ある人がプロポフォールを連続投与する場合、その瞬間、その人は、それが最も合理的だと判断して行動している。最終的に評価するのは別問題だという観点で見なければならない。

そうすると、準備の段階で自殺したA技師長補佐には放射性物質を過量に準備した合理的理由がある。(1)放射線量を増やすことで、診断に資する鮮明な画像を得たいという技師としての理想が主たるものであった(2)患者の入眠中に検査を短時間かつ1回で終了したい(3)短時間で撮像できれば、患者に睡眠薬を使用する頻度が減り、より安全に検査が施行できる(4)1回で検査を終了できれば、放射性医薬品を複数回投与しなくて済む――などということだ。

人間行動は人間の特性と環境で決まる
人間行動は人間の特性と環境で決まる
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A技師長補佐の判断(1)
A技師長補佐の判断(1)
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A技師長補佐の行動に潜む理由

他にも、A技師長補佐の行動の根底には「放射性医薬品を過量に体内に投与すれば放射線の減衰に時間がかかるため、その分、長時間の検査時間が確保できる」「検査をする側は患者が入眠するまでゆっくり時間をかけて待つことができ、落ち着いた状況の中で、鮮明な画像結果を得ることができる」という発想があったものと考えられた。さらにその背景には「A技師長補佐が放射線の影響を標準より過小に評価していたこと」「A技師長補佐の行動が発覚しにくい環境にあったこと」などが指摘できる。

A技師長補佐の判断(2)
A技師長補佐の判断(2)
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12年間、正しく機能しなかった自浄作用

本件では、長期にわたり継続された理由が色々ある。異常と感じる職員がいながらも、そのことを医師や病院幹部といった放射線技師以外の管理責任者と共有できなかったことによる。

その原因は(1)放射性医薬品投与時における医師による内容確認の不履行(2)技師集団のRI検査に関する知識と経験の乏しさ(3)上級職による威圧的・高圧的言動による部下の萎縮=下の方が色々言っても上の方はつぶした。例えば、「お前がそんなことを言うのは10年早い、仕事を早く覚えろ」と部下は言われた。(4)技師間の情報共有の乏しさ――がある。

さらに(5)放射線を取り扱う専門家としてのコンプライアンス意識の欠如(6)報告行動への無理解と隠蔽体質(7)放射線科医師集団との接点の少なさ――などが複合的に影響して、技師集団内に消極的な隠ぺい・改ざん体質を生み、12年の長きにわたりRI検査室における自浄作用が機能しなかったことは極めて不適切である。

監督責任のある医師不在で起きた組織事故

本事案は、RI検査における放射性医薬品投与の実質的な監督責任を有する医師が不在の状況で発生した事態と捉えることができる。逆の言い方をすれば、医師の管理・監督のない環境が技師集団を自由にし、今回のような特異な診療行為の発生を許したのだ。

このような状況を長期間放置した当時の病院管理者や歴代の放射線科医、技師長には不作為としての課題が指摘される。さらなる背景として、長い間、我が国において、放射線科医、薬剤師、技師の間でRI検査体制の整備について十分な議論が行われず、放射性医薬品投与に関する責任が明確に定められないまま、技師に医薬品管理業務が委ねられてきたことが要因として存在する。これが、いわゆる組織事故である。

医療事故の犠牲者は2人いる

外部委員として参加する立場からの調査の教訓として、私は以前から「医療事故の犠牲者は2人だ」とずっと言っている。患者と医療従事者だ。患者は当然として、医療従事者が精神的なダメージを受ける場合が非常に多い。医療従事者のいい加減さが根本にあるわけでなく、医療は構造的に不完全なものだ。ここに問題がある。これをどう改善するか。

問題点を明らかにする手段は2つある。1つは起こった医療事故から学ぶこと。もう1つは潜在的なリスクをキャッチすることだ。潜在的なリスクキャッチには、ヒヤリハット情報を集めることが有効だ。これからやるべきは医療事故調査である。基本的な考え方は何か。同じ事故を二度と繰り返さないことだ。その時に遺族が納得したかどうかは全く関係ない。これは「2度と起こさないぞ」という強い意志をもって自分たちがやらなければならないことだ。だから、遺族は関係ない。

医療事故の犠牲者
医療事故の犠牲者
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航空業界に比べて非常に少ない医療情報

特に私が一番問題にしているのは、関係者の行動の背景要因が十分に出ていないことだ。何が、どのように、なぜ、を踏まえて再発防止策をとる。そのためにはまずデータがなければならない。今回の事故調査で一番困ったのは、データの無さだった。

根本的に医療は情報が無い。主観的な情報はあるが、客観的なデータはほとんどない。私が長く関わってきた航空の世界ではかなりの再現性があり、色んなデータ類が残っている。だから、実態が明らかにでき、なぜ起こったかが明らかになる。ところが医療システムはまず情報がない。結局インタビューなどに頼らなければならないという限界がある。

整えられた、安全文化醸成のための体制

私は今年から東京女子医科大学の理事長特別補佐を兼ねて改革を支援している。女子医大病院に欠けていたものは「ガバナンス、医療安全文化、チーム医療」である。これらについては事故を契機に具体的な行動を取り始めた。例えば「医療安全・危機管理部」を平成27年4月に作った。組織的には理事長の下に医師、弁護士、その他事務の専門家が集まっている。「医療安全・危機管理部」は"日本で一番、謙虚に医療安全に取り組む組織作り"を目指している。

航空機の世界では、出発前に機長などが集まり「こうなったらこうしよう」などというブリーフィングをするのに、医療の世界ではそういうことが十分になされていないことを知り、非常に驚いた。今では女子医大病院は手術前にブリーフィングを当然としている。リスクの高いものについては、ハイリスク症例検討会や安全な医療推進検討会議を開いて手術に臨む。

安全文化醸成のための体制も整えられた。病院のリスクマネージャーは定期的に医療安全対策室にいて事故対応チームを組織し、事故が起こったら直ちにサポートにいく体制が作られている。「医療安全・危機管理部」では、事故対応チームにどのような能力が必要かなどを分析し、トレーニングマニュアルなどを作ろうとしている。

手術症例のブリーフィング
手術症例のブリーフィング
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人間は、能力以上のことはできない

医療と航空をシステムとして比較すると、両者の違いが鮮明になる。1960年代は航空機事故が非常に多かった。しかし、時代と共にどんどん減っていった。なぜか。運輸安全委員会という常設機関が対応してきたからだ。この委員会は独立し、中立の機関としてプロフェッショナルの観点から分析した。初期のころはハードの問題が多かったが、今日では、行動分析が中心である。事故が減ったのは、事故調査をきちんとして対策を徹底的にとってきたからに他ならない。

今回の医療事故調査制度と違うのは、運輸安全委員会は国土交通大臣に勧告・意見する点だ。だから、強制力が全然違う。勧告を受けると、国土交通大臣はアクションをとらねばならない。具体的に事故調査をして対策をしたから変わって来たといえる。ヒューマンファクター工学の考え方として、どんなに優秀な人間でも情報がなければ正しい判断はできない。人は能力の範囲内でしか正しい判断と行動はできない。つまり、能力以上のことはできない。それが大原則だ。

「壊れている状態」が前提の医療システム

そういう観点で医療システムをみると、残念ながら医療システムにはたくさんの問題があり、解決は困難である。比較のために患者を制御対象と考えると、例えば、航空システムと原発システムには問題解決のための情報が最初からすべて揃っている。ところが医療システムは、患者が外来で受診する場合、患者の情報は限られており、医師が診断に必要かつ十分な情報を得ることは事実上不可能に近い。また予測もしにくい。必要な情報がないとどんなに優秀な人間でも正しい判断はできない。また、航空機も原発も「壊れていない状態」を基本的にオペレートしているが、医療は常に「壊れている状態」の患者をコントロールしなければならない。つまり、構造的な限界がある。

不完全なシステムの改良は難しい

今回の医療事故調査制度の目的は何か。不完全なシステムであるということを、病院だけではなく国民全体が理解しなければ問題解決にはならないと私は思う。患者も当然協力しなければならないし、このシステムを構成している全員が考えない限り、この不完全なシステムを改良するのは難しい。

そのためには事故調査報告書を書くときに、そのレベルまできちんと書くという観点が必要だ。そのためには行動分析のトレーニングをしなければならないだろう。死因究明は問題ないが、行動分析こそ極めて大事ではないかと思う。

制御の本質は予測
制御の本質は予測
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取材:伊藤公一

医療安全全国共同行動による研修会が下記の通り開催されますのでご案内いたします。
本研修会では、医療事故調査制度の概要解説、院内事故調査の方法、医療事故調査・支援センターへの報告等の講義が予定されています。申し込み方法等詳しくはこちらをご覧ください。

日時 2015年9月19日(土)
13:30~16:45
会場 慶應義塾大学薬学部 芝共立キャンパス 記念講堂(2号館4F)
東京都港区芝公園1-5-30
定員 350名
対象 医療従事者等
参加費 3,000円
主催 一般社団法人 医療安全全国共同行動

プログラム

13:30 開会
13:35 講演「医療事故調査制度の概要、医療事故調査・支援センターについて」木村壮介先生(日本医療安全調査機構常務理事)
14:50 休憩
15:00 講演「院内事故調査の進め方について」遠山信幸先生(自治医科大学附属さいたま医療センター 医療安全管理室 室長/教授)
16:15 質疑応答
16:45 閉会
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