今回は施設入居者のてんかん発作に関する施設の責任が認められた裁判例を2件ご紹介いたします。
No.534の事案では、遺族は、入居者が他の入居者から暴行被害を受けていたことについても施設側に慰謝料請求をしました。
そして、裁判所は、被告(社会福祉法人)は知的障害児施設を設置運営し、寮等の施設において、知的障害児の生活支援等を行っていたものであるから、このような施設の管理者として、施設利用者が安全に施設を利用しうる環境を確保すべく、施設利用者の行動を注視し、その身体的安全が確保されるように適切に配慮すべき義務を負うものというべきであるとしました。裁判所は、とりわけ当該寮のように、知的障害者が入所する施設の場合、(1)施設利用者が自己の生命・身体に危険を及ぼすような行動に出ることや、(2)行動障害を伴う者が、他の施設利用者に対し、暴力的行動に出ることを十分に予測しうるのであるから、施設の管理者である被告において、より一層、施設利用者の行動に意を払うべきものといわざるを得ないとしました。
No.535の事案では、施設側は、死亡した患者(肢体不自由、四肢体幹機能障害、高次脳機能障害であり、過去2回てんかん発作を起こしていた)の逸失利益の算定にあたり、平均余命を基準とするのは過大である旨主張しました。
しかし、裁判所は、患者が本件発作前は施設医師による薬物療法を受けて比較的安定した状態にあったのであり、早期の死を予測できるような具体的事情があったとは証拠上認められないと判示し、また、てんかん患者は健常者に比して早死にするリスクが2~3倍あり、突然死のリスクは25倍程度と報告されているものの、てんかんにおける突然死の発生率は成人患者1000人当たり年間1.2人であって、そもそもかなり低いと指摘して、さらに、本件発作により患者に避けられない後遺障害が残った可能性は否定できないとしても、それにより患者の余命が短くなるという具体的根拠は示されていないと判示して、患者について、平成30年当時の同年齢男性の平均余命を推定余命として逸失利益を算定しました。
両事案とも実務の参考になるかと存じます。