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No.58「分娩時の過失により胎児が仮死状態で出生、その後死亡。高裁で、医師の責任を認める逆転判決」

名古屋高裁平成14年2月14日判決 判例時報1813号91頁

(争点)

分娩が遷延した場合における医師の注意義務

(事案)

X1は、平成5年9月4日、Yが経営する産婦人科病院(Y医院)を受診し、妊娠第八週と診察され、その後の経過は順調であった。X1は、陣痛を訴えて、平成6年4月23日午後8時20分頃、Y医院に入院し、翌24日午前3時頃、分娩室に入り、同日午前3時45分頃、破水した。

Yは、同日午前9時30分から午前10時20分まで、X1に対して吸引分娩を反復実施したが、吸引分娩で胎児を娩出させることができなかった。

Yは、消防署に救急依頼し、同日午前11時50分頃到着した救急車でX1を県立T病院病院に搬送した。 X1はT病院に搬送されて入院し、同病院の担当医師により、会陰切開と鉗子分娩が実施されて、同日午後0時31分、仮死状態のA(女児)を出産した。Aは、同日午後4時08分、胎便吸引症候群により死亡した。

(損害賠償請求額)

遺族の請求額 両親合計で5307万9188円(内訳:逸失利益1927万9189円+慰謝料3000万円+葬儀費用80万円+弁護士費用300万円。端数は一致せず)

(判決による請求認容額)

一審での認容額 0円
控訴審での認容額 両親合計で3604万5986円(内訳:逸失利益1224万5987円+慰謝料2000万円+80万円+弁護士費用300万円。端数は一致せず)

(裁判所の判断)

分娩が遷延した場合における医師の注意義務について

裁判所は、まず、Aの死亡原因である胎便吸引症候群の原因は、Aの胎児仮死(子宮内における低酸素状態)とその進行に伴って発症した重症代謝性アチドージス(紹介者注:アシドーシスと同義と思われます)に起因するものであると認定しました。

そして、Yにより吸引分娩が試行された24日午前9時30分には既にX1は遷延分娩の状態にあって、吸引分娩により娩出できなければ、可及的速やかに鉗子分娩あるいは帝王切開という急速遂娩術を取らなければならなかったにもかかわらず、Yが吸引分娩に固執して約50分の間、多数回にわたりこれを反復したため、鉗子分娩あるいは帝王切開による娩出の機会を失したことが、胎児仮死が発症した原因であると判示しました。

裁判所は更に、Yには、X1が遷延分娩の状態にあったのであるから、最大30分間に3回程度の吸引分娩の施行により娩出できなかった場合には、可及的速やかに鉗子分娩あるいは帝王切開という急速遂娩術を取るべき注意義務があり、かつY医院には帝王切開を実施するだけの人的設備はあったにもかかわらず、これを怠った過失があると認定しました。

そして、吸引分娩に固執して漫然と約50分の間、多数回にわたりこれに反復したまま、鉗子分娩あるいは帝王切開という急速遂娩術を取らなかったというYの過失がなければ、Aの胎児仮死とその進行に伴って発症した重症代謝性アチドージスに起因する胎便吸引症候群を原因とする死亡という事態は避けられたものと認められるとして、Yに対して、Aの死亡により両親(X1とX2)が被った損害賠償を命じ、両親の損害賠償請求を全部棄却した一審の判決を取り消しました。

カテゴリ: 2005年11月16日
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