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安全工学シンポジウム2006―安全、安心でゆとりのある社会の実現を目指して―

2006年7月6日(木)~7日(金)、安全工学シンポジウム2006が、都内で開催された。

その中から、今回は、7月6日(木)に行われた刈間理介氏(東京大学環境安全研究センター助教授)の発表「大学の医学部における医療安全に関する教育の現状と展望」の一部をご紹介する。

大学の医学部における医療安全に関する教育の現状と展望

刈間理介(東京大学環境安全センター助教授)

(日本の医学部教育の現状)

まず、日本の医学部の現状として以下のような問題点が挙げられた。

  1. 医学部の授業カリキュラムの中に医療安全教育が明確に位置づけられている大学はまだ少ない

    医療安全について系統的な講義を行っているのは、全国80大学の医学部のうち15校未満で、大多数は医学概論や法医学、公衆衛生学などの講義の一部に医療安全の講義を取り入れているのが現状。また、全く医療安全についての授業が行われていない大学も10校近くあった。

  2. 医療安全教育を行う大学教員の不足

    全国の医学部のうち医療安全を専門の教育研究分野としている教員はまだ数名程度。医療安全を専門とする講座を設けているのは1校のみ

  3. 医療安全教育の教育内容について全国の医学部でのコンセンサスが形成されていない

    医療安全に関する授業をおこなっている医学部の授業内容を見ると、具体的な医療ミス事例などを中心とした講義を行っている学校や、リスクマネージメント論を中心に講義を行っている学校など、内容は様々であり、医療安全教育の内容について、全国共通のフレームワークが無いのが現状。

  4. 医療安全教育の教育内容について大学間の情報交換が不十分

(東京大学医学部における医療安全教育)

続いて、東京大学医学部での医療安全教育がどのように行われているか、紹介された。

医療安全教育に関して、東京大学医学部では、3年生全員必修の「衛生学」で下記のような講義を1時限行っている。

  • 日本の病院における医療安全体制
  • 安全管理の基礎概念
  • ヒューマンエラーについて

また、5年生を対象とする「公衆衛生学・衛生学」では選択性で5時限の実習を行っている。「公衆衛生学・衛生学」実習の選択者数の内訳をみると、平成18年度では「医療安全」を選択した学生が15人で最も多かった。学生の中で医療安全に関する意識が高まっていることが伺われる。参考までに、次いで「医療経済」「労働生理」を選択したのがそれぞれ13人、「医院開業」8人、「医学統計学」7人の順である。

「医療安全」の実習では、過去の事故事例に関する原因分析・再発防止策の検討を下記のような流れで行う。講義を聴く前後でのレポートの違いをみるというものである。

  1. 過去の医療事故の新聞報道などをもとに、各人が原因および再発防止策についてレポートを作成安全管理の基礎概念や事故原因分析法などの講義
  2. 大学病院の専任リスクマネジャーが病院における安全管理の現状と問題点などを講義
  3. 各人が1と同じ医療事故事例の原因分析と再発防止策について再度レポートを作成
  4. 各自のレポートをもとに学生間で、医療安全確保のあり方について、ディスカッションする

(今後の課題・展望)

最後に、医療安全教育に対する今後の課題と展望として次のようなものが挙げられた。

  1. 医療安全教育を確立した教育カリキュラムとして、医学部教育の中に位置づける
  2. 医療安全教育を行える教育者を養成する
  3. 医療安全教育の内容に関する、統一的なガイドラインを示す
  4. 医療安全教育に関する大学間の情報交換と教育効果検討の場をつくる
カテゴリ: 2006年7月10日
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