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「医療におけるバランスト・スコアカード(BSC)の意義と導入の実際」

渡辺明良氏

(財)医療関連サービス振興会の月例セミナーとして、「医療におけるBSCの意義と導入の実際」が、平成18年1月17日(火)、都内で開催された。講師は聖路加国際病院人事課マネージャーの渡辺明良氏。

まずBSCの基礎、導入の実際、課題といった概要についての話があった。あわせて聖路加国際病院でのBSC導入効果が紹介された。

BSCの詳細は、渡辺氏お薦めの3冊の本をご参照いただくこととして、ここでは、聖路加国際病院での取り組みについて、会員の皆様にお伝えする。

BSCとは

BSCとは、組織のミッションやビジョンなどを元に、戦略を目に見える形にする(可視化する)ツールである。具体的なステップは以下のようになる。

  1. SWOT分析による現状把握
  2. ミッション・ビジョン・戦略の策定
  3. 戦略マップの作成
  4. バランスト・スコアカードの作成

SWOT分析とは、Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の4つの視点から現状を把握し、分析していくものである。次に、それが組織のミッション、ビジョンに合致するかどうか検討し、戦略テーマを絞り込んでいく。

ただ戦略を可視化しても、そのままでは「絵に描いた餅」である。戦略を組織全体に示し、予算や要員などの経営資源を配分し、実践しなければならない。従業員の日常業務に結びつけなければならないのである。

そのため、医療機関の規模や状況によって(医療法人では各機関の代表者、大病院ではあるセクション、等)BSCのやり方は異なると思われるが、いずれにせよ幹部の方が入って取り組んでいただくのが望ましい。

聖路加国際病院の取り組み

戦略マップの作成

当院のミッション(理念、行動規範となるもの)とビジョン(長期計画)に基づいて、以下のような戦略マップを作成した。戦略マップのデザインの基本形には、財務の視点、顧客の視点、業務プロセスの視点、成長と学習の視点の4つがあるが、当院ではそれに「安全・安心・信頼の視点」を加えた。

ミッション ビジョン
  • キリスト教精神に基づく全人的医療
    そのための医療・看護・病院管理
  • 患者中心の医療と看護
  • 急性期患者の診療を重点的に行う総合病院としての機能
  • 高度医療の提供
  • 予防医療の重視
  • 教育病院としての機能強化
  • 国際病院としての使命

聖路加国際病院の戦略マップ

戦略の分析と実行

財務の視点では、たとえば、腎センターの運営において、設備投資を行いつつ規模を拡大すべきか、診療報酬改定の影響などを踏まえ、積極的な設備投資ではなく、適正規模に縮小するか、といった戦略上の意思決定が求められた場合、病院全体の戦略とのバランスを見ながら、適正規模に縮小するという意思決定が行われた。

患者満足の視点では、顧客満足を向上させるべく、今まで看護部と事務部の2箇所に分かれていた受付を一本化するという戦略目標が設定された。

業務改善の視点では、まず目標が達成できなかった原因を分析した。

たとえば、救急部門では、救急車のお断り件数を減らすという戦略目標が設定されていたが、救急車のお断り原因のひとつに緊急手術が入らないことが指摘された。

平均在院日数が短縮化し、病棟の回転が多くなった結果、手術スケジュールが過密になったり、手術室の看護動線を再検討する必要があったり、外来患者数の増加に伴い、手術開始時間がずれ込むなどの原因が分析された。そこで、手術室の効率的利用のためにプロジェクトを設立して検討を行い、看護師を5名増員することとした。

このように、戦略マップで全病院共通の目標をみることで、経営課題が戦略上どのような意味を持つかが明らかになり、現場と経営トップのコミュニケーションが増加し、これまで個々の部門でのみ問題視されていたことが、病院全体の課題として認識されるようになったのである。

フィードバック

医療安全の視点からは、目に見える成果指標として「インシデント指数(1件当たりの平均レベル=インシデントレベル(0~5)別レポート件数の総和÷インシデントレポート件数)」を用いることとした。2002年度は1.34、2003年度は1.33だったため、2004年度は目標値を1.30と設定した。すると、2004年度上半期の結果は1.22となり、目標を達成できた。BSCは、このように指標を具体的な数値で設定するので、科学的な管理が可能になる。このような定量データによる評価は、医療従事者にはわかりやすい手法とも言える。

このように、結果から次のアクションに移す(常にPDCAを行う)ことが大切である。

戦略会議を定例化することに決定

BSCについて、当院では企画室が中心になって取り組んできたが、2004年は年末(12月24日)に丸1日かけて、日野原理事長を含む幹部が経営戦略会議を開催した。

その結果、この戦略会議は定例化されることになった。

医療機関を取り巻く環境は激しく変化している。それに伴って、戦略も毎年変わってくる。経営課題は多すぎてもいけない。絞込みも必要である。成果指標の適正な設定も困難である。しかし、とにかく「Just Do It!(やってみるしかない)」である。

BSCを詳しく知りたい方にお薦めの3冊(BSC三部作)
「戦略マップ」

ランダムハウス講談社
ISBN: 4270000740
(2005/12/16)
「キャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカード」
東洋経済新報社
ISBN: 4492554327
(2001/08/30)
「バランス・スコアカード―新しい経営指標による企業変革」
生産性出版
ISBN: 4820116207
(1997/12)
カテゴリ: 2006年1月25日
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