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第11回:「医療現場における診療録記載の教育」

都立駒込病院 副院長 佐々木常雄先生

 都立駒込病院では「診療録パトロール」を実施しており、また副院長の佐々木常雄先生は都立病院医療事故予防部会の部会長も務めている。そこで今回は、診療録の記載について現場ではどのように教育されているのか、佐々木常雄先生にお話を伺った。

 
 


 東京都衛生局病院事業部は、平成13年2月に「都立病院における診療録等記載マニュアル」を発表しています。
 このマニュアルは、「患者や家族などの第三者にも判読できるような、診療録等の作成」を目指してまとめられました。また、このマニュアルで「診療録等」としているのは、医師等の医療従事者が作成・記載する診療録の他に、看護記録、処方内容及び医療保険制度上適切な記載が必要とされる書類も対象としているためです。
 そして、全都立病院に採用される医師を対象に、1年に2回このマニュアルの指導を行っています。この3月にも1時間30分ぐらいかけて私が講義をする予定になっています。

マニュアル全文(PDF版)はこちらで参照できます。http://www.byouin.metro.tokyo.jp/osirase/hokoku/sinryoroku.pdf
 それでは内容の一例をお話ししていきます。 

  
ポイント 備考
 日付は年/月/日の順に記載する  例えば4月9日を「4/9」としたり、「9/検廚箸靴燭蠅垢襪函4月9日なのか9月4日なのか分からないケースが出てきます。そこでH14/4/9と必ず年/月/日の順に記載することとしています。
 不正確な略語は使用しない  しかし、医師は診察をしながらカルテをどんどん書いていかなければならないので非常にポピュラーな略語(例えばAML=急性骨髄性白血病など)を使用することはある程度やむを得ないと思います。
 患者のプライバシーに関することで、臨床的に必要でないものは記載しない  ただし、稀に家族性遺伝のある疾患もありますので、兄弟や親も同じような病気があるかを記載することがあります。これはプライバシーにかかわることですが、臨床的に必要なことなので記載することになります。
 内服薬の服用回数は、1日3回の場合「分3」と記載する 「3×」や「×3」は使用しない

 注射薬の用量の単位は原則としてアンプル、バイアル、ボトル、本、袋など日本語で記載する
 また、同一薬品に規格単位の異なる剤形があれば、必ず規格単位を記載する

 例えば、同じ1アンプルでも10mgと20mgがあるのでこれを明記する必要があります。
 記載の末尾に必ず署名又は捺印をする

 署名が抜けているケースが結構あります。
 夜間の急患でいろいろな科にかかる患者もいるので、どの医師が診たのかわからなくならないように、記載者は書く都度、サインをする必要があります。この点は特に強調して話しています。

 現病歴の確認を心がける  患者は初診時に全てを話さないことが多い。例えば、胸痛で内科に来院した場合、腰痛があっても、これは整形外科と勝手に判断して話さないことがあります。医師はこれらの確認に心がけ、例えば身体所見について観察をしながら詳細に聞いていくこと等により、ぬかりない診察に務め、症状・病歴について聞いたことを全て記載することとしています。
 患者の退院時(転院時を含む)、紹介時、他科への転科時等には、「退院時要約」を速やかに作成する  当初の問題や、経過中の問題がどう解決されたか、また今後に残る問題点等を簡潔に記載することとしています。


 こうしたマニュアルを作成した後、それが守られているかどうか、これが一番の問題です。そこで駒込病院では一昨年から、「診療録パトロール」を実施しています。具体的には1年に春と秋の2回、医師や看護師等で構成されている病歴委員会の委員が、抜き打ちで病棟を回り、診療録等をチェックしてゆきます。チェック項目はこのマニュアルの内容にそったものになります(下記の外来用のカルテパトロール表をご参照下さい)。
 

カルテパトロールチェック表(外来)


1ページ

2ページ

3ページ

 その結果を各科の部長による部長会でデータとして示しています。そこでは「そちらの科はあまり守られていない」「こちらの科は前回から改善されていない」などとお互いに注意喚起が行われています。

−どのような点に問題が多いのでしょうか?

 「退院時要約」は、次の新しい患者の方に時間を取られてしまうせいか、できていない場合がみられます。しかしこれが記載されないと診療録の最終的な製本ができないので、早く作成するように促します。

−パトロールによる効果の方はどうなのでしょうか。

 春にできていなかった部分が秋にはかなり改善されている、という例がたくさんみられますので、今後も続けていく予定です。

−診療録の記載方法という基本的なことについて、大学で教育が行われていないことについてはどのようにお考えになりますか?

 大学病院のルールと実際に勤務する病院のルールが違うこともあるので、実際にレジデントとして病院に来たときにそこで学ぶ、というのが一般的なのでしょう。しかし、診療録記載のポイントは大部分が共通していることです。読みやすいように記載する、行間を空けない、元の記載が分からなくなるような訂正は行わない、等はどの診療録においても必要なことです。そうした基本的な内容を学生時代から教育してくれていると本当は良いと思います。実際には、内科、外科、皮膚科などその科に特有のことを中心に教育し、どこの科でも共通することはどこの科でも教育していない、というところがあるのかもしれません。
 また、診療録の記載方法などは、言ってみれば当たり前のことばかりで、生徒にとっても講義内容としてあまり面白いものではないというところもあるのだと思います。

−診療録等に記載された、医師の悪筆、判別に困る文字が原因となる事故もあると思いますが、文字の書き方など基本的なことは教えていないのでしょうか。米国では「読みやすい字の書き方講座」を医師のために設ける病院もあると聞きますが。

 実際そこまでは手が回っていません。悪筆を直すのは大変です。当院の「診療録パトロール」の結果、注意をしているケースもありますが、なかなか直りません。都立病院では来年度から徐々に電子カルテに移行する予定があり、今後は字が読みにくいということよりも別の問題が出てくると思われます。

−診療情報管理士のような記録補助者は必要でしょうか?

 日本における、診療情報管理士による診療録作成の指導状況は、まだまだ米国のレベルまでいっていないと思います。診療情報管理士にかなりの権限を与える必要があると思います。

−では診療録の記載が原因となる事故を防止するにはどうしたらよいでしょうか。

 診療録の指示簿においては薬が患者の手元に届く前に、複数の箇所で、何重にもチェックできる体制が大切です。例えばプロトコール(治療計画)を予め薬局や病棟の看護師など複数に渡しておく。そうすると「このスケジュールで、指示簿のこの部分は1日になっているのに、薬が3日分ある」「この治療にこの薬は多すぎる」といった具合に複数箇所で指示簿の内容がそのスケジュールにあっているかチェックされます。
 それでも人間ですからやはり間違うことはあるでしょう。インシデント・アクシデントレポートの内容では、診療録における指示間違いや、薬の量の書き間違えが原因となっているものが少なくありません。悪筆による指示簿が診療報酬請求に悪影響を及ぼすこともあります。
 適正な指示簿作成のためには、何重にもチェックがかかるシステムを、労力をかけて作っていかなければならないと思っています。


 診療録記載の教育には、マニュアルの指導だけではなく、それを根付かせるためのパトロール、指示簿における複数箇所でチェックが行われるシステム作り、こうした取り組みをあわせて行うことが大切であるということがわかった。医師にとってはあまり興味深くない「記載方法」かもしれないが、それがひとたび事故につながると命にかかわる。当たり前のことが当たり前に行われるように、各医療機関で取り組んでいく必要があると思う。