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第12回:「医療機器の専門職、臨床工学技士」

社団法人日本臨床工学技士会 会長 川崎忠行先生

 医療技術の進歩に伴い、医療機器の高度化、複雑化が進んでいる。こうした中、医療機器による医療サービスのサポートや、医療機器がいつでも安心して使用できるように保守・点検を行い、臨床現場における安全性の向上に貢献している「臨床工学技士」という医療専門職がある。今回は「社団法人日本臨床工学技士会」の会長であり、前田記念腎研究所の臨床工学部部長でもある川崎忠行氏に、臨床工学技士の現状、医療の安全に果たす役割、今後の動きについてお話を伺った。

 
 

I 現状

−現在、何人ぐらいの臨床工学技士がいるのでしょうか。

 1987(昭和62)年に臨床工学技士の国家資格が誕生して以来、2002年までの資格取得者数は16,863名となっています。2003年は3月2日に試験が行われ、1,316名が受験し、3月26日に1,121名の合格者が誕生しました(国家試験実施団体、医療機器センターのホームページに公開)。合格率は例年70〜80%程度です。受験者数、養成校ともに毎年増加しています。
 ただし、初期の経過措置期間に、既に看護師や臨床検査技士として働いていて臨床工学技士の資格を取得した方もたくさんいますので、資格取得者が必ずしも「臨床工学技士」として就職しているとは限りません。ちなみに病院報告(平成13年10月1日現在)の職種別に見た病院の従事者数をみると、臨床工学技士は6,849名となっています。

−具体的にどのような業務を行っているのですか。

 法的には、生命維持管理装置の操作及び保守点検を業とする、と規定されていますが、人の命を司る呼吸・循環・代謝機能を代替する、身体へのリスクの高い機器を生命維持管理装置と定義しています。また、その操作に付帯する透析でのシャントへの穿刺などの行為も許されています。そしてこれらの規定で生命維持管理装置の操作行為は医療或は医療補助行為であると明確に定義されたことになりました。
 実際の業務については、2001年3月に日本臨床工学技士会会員等を対象にしたアンケート調査が行われ、その結果が「臨床工学技士実態調査報告」として報告されています(出典:「日本臨床工学技士会会誌 No.15 2001」)。それによると、業務内容について複数回答を求めた結果が、次の図です。
 
 
 その他の部分は、IABP、除細動器、ペースメーカ、心臓カテーテル治療、内視鏡治療、救命救急などです。

−雇用や組織所属の状況はどうなっていますか。

 病院の職員として雇われるというイメージよりも、「臨床工学技士」に理解のある医師や大学の教室の意向で雇用される、という過去の歴史的経緯があります。本来は病院の業務であるのに、各科分散型、各教室別というおかしな体系で、不安定な雇用状況になっています。
 その要因としては、医療法で臨床工学技士の配置が義務付けられておらず、各病院の考え方、裁量に任せられていることや、診療報酬で臨床工学技士の技術料が存在せず、直接収入に結びつく部分が見えない業務であることなどが考えられます。
 それでも、古くからは三井記念病院のMEサービス部などは先駆的な病院として有名です。最近は名称が「臨床工学科」「臨床工学部」という組織として自立するところも増えてきました。
 東京女子医科大学病院もその一つです。同病院はセンター方式を取っており、臨床工学技士も、科別、教室別に分散して雇用されていました。しかし心臓血圧研究所(以下「心研」)で発生した医療事故の後、2002年8月1日から「臨床工学部」を新設し、技士を一括で管理するシステムに変えております。医療機器の管理とその適切で安全な運用の業務をここに集約し、院内の50名を越す臨床工学技士は全てこの部に所属することになりました。これにより、臨床工学技士の業務の合理性と安全性が更に高まることが期待されています。


II 医療の安全に果たす役割

−臨床工学技士が国家資格になり、医療機関に雇用されるようになって事故が減ったというデータはあるのでしょうか?

 逆に、医療機器が適切な動作をしていない現状と、それが原因で起こる事故やトラブルが明るみになったりして、増減は定かではありません。
 前出の「臨床工学技士実態調査報告」によると、「医療機器の故障や構造上の問題から、患者の治療に影響するような事故を経験したことがありますか」という質問に対し、29.4%が「あった」と回答しています。


−貴会では、事故への対応はどうしていますか。

 当会には「医療機器安全対策委員会」があり、ここが中心となってトラブルや不具合の情報を収集しています。情報が入ると、まず早期対応として、ホームページや新聞を使って会員に事故内容を知らせ、再発防止を呼びかけます。それと平行して、委員会内部に業務領域別の専門ワーキンググループがあり、そこで実際の業務に合った安全対策マニュアルを作ります。その後、時間をかけて調査を行いその結果を会員に報告し、更にマニュアルの見直しを考えています。
 また、内容によってはメーカー業界へ提案も行うこともあります。

−事故防止対策についてはどのようにお考えになっていますか。

 当会としては装置、消耗品、それを使う人の手順などを出来るだけ標準化しようとしています。誰がやっても一定の安全性を保てる形にすることでヒューマンエラーが防げると考えるからです。
 例えば、同じ病院の中でも病棟(例えば7F病棟と8F病棟)ごとに医療機器メーカーが違うことがありますが、その場合、操作する看護師が勤務交代で他の病棟に移動すると、使い方が違ってとまどってしまいます。移動先の先輩に聞いても、その人も他から移動してきていて、以前人伝に聞いたことを何となく覚えている程度だったりする。そうなるとその医療機器の責任の所在がだんだん曖昧になってしまいます。
 医療機器メーカーが違うとそれに付随する消耗品もそれぞれに合わせたものを購入しなければなりません。例えば点滴とそれに使う専用の回路などがその例です。しかし、病院全体で取り扱うメーカーを統一すれば、それを使う看護師も楽になるし、消耗品の一括購入も可能になり、いいことがたくさんあるのです。点滴や注射器一つをとっても一括購入によりかなりコスト削減できるはずです。
 臨床工学技士が病院の事務長と掛け合って、院内各部署の医療機器と点滴セット等の消耗品のメーカーを統一させ、かなりのコスト削減を実現させたところもあります。
 業務も標準化されているのが望ましいのです。病院によっては「うちの方法が最先端である」「うち方式」などとして、他と違うことを良しとするところもあります。最先端の技術で、1部の施設でしか行われていなかったことがだんだん全体に普及していくような過渡期であればそれでもいいのでしょう。しかし、透析装置や人工心肺という領域の手技的部分は一段落しています。特殊技能や個人技はできるだけ排除した方が良いのです。操作に個人技はそんなに必要ありませんし、もし個人技が必要な機器があればそれは未成熟な機器です。

−医療の安全確保に向けてどうあるべきだと思いますか。

 医療機器が絡んで起こる事故は決して少なくありません。実際、保守点検の不備で人工呼吸器が煙を出したり火を吹いた事故や、中小の医療機関では10年間一度も使わずに倉庫にしまったままで、いざ使おうとしても誰も使い方がわからなかったということもありました。にもかかわらず医療機器の安全対策が非常になおざりになっている気がします。医療機器が正常に動作しない原因の半数は、機器の問題では無く、取り扱い上の問題です。  医療機器はきちんと保守点検して正しい使い方をするのが基本です。
 当会では各都道府県臨床工学技士会との連携で、2001年度より看護師さんや新人臨床工学技士を対象に各地で人工呼吸器の安全対策セミナーを開いており、13回、受講者は述べ千数百名にのぼっています。更に今後も継続する予定です。
 医療法では、「医療機器の保守点検については、病院自らが行い、それができない場合は適切な業者に委託する」ことになっています。しかし、保守点検が行えなかった場合のペナルティが明確になっていません。ここに問題があると思います。
 医師や看護師の教育カリキュラムに機械のことは含まれていません。医療機器に関わる事故が起きた時に誰が責任を取るのか、責任の所在を明確にすれば、しかるべき教育を受けた人が自ずとその責任者になるはずです。電子工学や機械工学を基に治療機器学を履修し、臨床で医療補助行為もできる「臨床工学技士」の能力を病院側がもっとうまく活用してほしいと思います。


III 今後の動き

−最近の大きなトピックスは何かありますか。

 今まで40年以上もの間変わらなかった薬事法が、昨年の国会で改正の承認を受け、2004(平成16)年から新薬事法が施行されることになりました。現在細則が作られているところです。その中で、医療機器に係る安全対策が抜本的に見直されています。今まで「医療用具」として全て国(厚生労働大臣)の承認を受けることになっていたものを、「一般医療機器」「管理医療機器」「高度管理医療機器」の3分類とし、リスクの高い医療機器の承認に人的資源を重点的に投入するというものです(下表参照)。「高度管理医療機器」とは人の命に直結するようなリスクの高い機械のことです。これらを扱い、保守点検を行うことを業務とする「臨床工学技士」の役割が明確になってくると思われます。

医療機器のリスクに応じた3類型
定義 承認機関
適正な使用目的に従って適正に使用したにもかかわらず、副作用又は機能障害が生じた場合に人の生命及び健康に
特定高度管理医療機器(クラス検

高度管理医療機器(クラス掘
重大な影響を与えるおそれがある 人工呼吸器、透析器、人工心肺装置等 国(厚生労働大臣)

クラス犬蝋颪、靴賄堝刺楔がGMP調査
管理医療機器
(クラス供
影響を与えるおそれがある MRI、電子式血圧計、消化器用カテーテル等 独立行政法人
一般医療機器
(クラス機
影響を与えるおそれがほとんどない メス、ピンセット、X線フィルム等 国(厚生労働大臣)の承認を不用とし、第三者認証機関による基準適合性認証とする


−今後の抱負をお聞かせ下さい。

 実は、数年前から考えていることがあります。医療機器の適正な保守管理を推進するための施策として、人件費などの関係から「臨床工学技士」を雇えない中小規模の医療機関への対応策として、都道府県の臨床工学技士会と医師会とが連携して全国ネットのシステムを作るというものです。例えば医師会館の一部をお借りしてそこに机と電話を置き、臨床工学技士が常勤しているセンターを設け、各医療機関を定期点検し巡廻する。人工呼吸器も1箇所に数台プールしておいて、要請があった時に貸し出すといったシステムです。
 医療機器が故障した際、東京にはメーカーやサービス会社がたくさんあるから良いのですが、離島や地方では、メーカーに修理をお願いしてもいつ来てもらえるか分からない、来るとしても数日かかるような場合があります。そんな時、全国ネットの「地域医療機器センター」のようなものがあれば、地元の臨床工学技士がとりあえず出向いて応急処置をする、そういったこともできると思うのです。
 実際「2000年問題」の時には、自院の機械でひっかかるものがあるかどうか洗い出す作業を行うにあたり、臨床工学技士のいない所からはいろいろな問い合わせがありました。
 医師会と連携が出来ている所をモデル地域にするなどして、このようなシステムを出来るだけ早く実現したいと思っています。臨床工学技士会と医師会が、お互いのことを分かり合えるというメリットもあります。そして医療の安全性と質も確保できます。まずは薬剤の様に医療機器も医療に不可欠なものであること、しかし、薬剤とは異なり機器は日々の保守点検も不可欠であることのコンセンサスを得ることが最優先課題と考えております。




 今後は、医療機器の安全に対する責任の所在がますます問われてくるのではないだろうか。それに伴い「臨床工学技士」の存在意義も高まってくると思われる。せっかくの専門知識を無駄にしないように、医療機器分野はその専門の臨床工学技士に任せたい。それは業務の分担にもつながり、多忙な医療従事者にとって良い影響を与えるはずだ。
臨床工学技士が関わる法体系の整備にもまだまだ課題が残されおり、変化し続ける医療現場を、国がどこまでフットワーク良くフォローできるか、このへんにも問題がありそうである。