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第35回:「医療関連感染の防止対策における看護師の役割」



東京都看護協会 主任教員 柴田清氏
     
 病棟や外来に限らず、在宅ケアや老人保健施設など、医療を行うすべての場所での感染という意味で、最近は、「院内感染」という呼び方から「医療関連感染」に変化してきている。今回は感染専門看護師の第一人者である柴田清氏(東京都看護協会主任教員)をスペシャリストに迎え、看護師の視点から医療関連感染の防止対策について話を聞いた。
(取材日;平成17年1月11日)





■感染管理に果たす看護師の役割

 病棟で患者が感染したとき、それをどう捉えるかはそれぞれの立場や見方によって変わってきます。大きく分けて次の3つの見方があります。
  1. 微生物としてみる・・・原因菌を解明する立場にある検査室では、目に見えない微生物を拡大して目に見えるようにし、その存在や性質を知ります。しかし患者の状況は見えない立場にいます。
  2. 感染症としてみる・・・治療する立場にある医師は、どう診断してどう治療していくか患者個々の感染症としてとらえます。自分の患者はよく把握していますが、病棟全体・病院全体をみる立場にはいません。
  3. 疫学的に(患者全体を)みる・・・ある集団の中でどのような人がどの位の割合で感染を受けているのか、広い視野でとらえて、感染のリスクを調べ、予防因子を探します。
 “看護ケアが良いと、感染防止効果も大きい”というのが私の信条です。
 看護師は医師の手術や医療行為をそばで見ているため、第三者の立場で評価できます。また、医師が紙に書いたり、コンピュータに入力した指示(例えば、尿路カテーテルの挿入、交換等)を実際に行うのは看護師です。医療行為とケアの部分の両方を知っていて、そこで何が問題かを拾っていくことができるのはやはり看護師です。

 感染防止には、看護師の経験と人数が有効であることが、研究でも報告されています。例えば、教育された看護師がいるICUと、臨時の人が入るようなICUとでは、前者の方が血管カテーテル由来の血流感染は少ないことがわかっています。

 しかし、日本では看護師の数が少なく、大勢のケアとなると、体位交換でもおむつ交換でも何でも時間が来たら、個々ではなく一斉に行っていきます。言葉は悪いですが、ケアを流していくということが多く、患者個人のためにということがなかなかできていません。おむつの交換も、患者から患者へと手袋もせず、手も洗わずに回っていきます。すると1人が病気を持っていると次々にうつってしまいます。
 排尿時間は人によって違います。看護師の人手を増やして、患者個人のためのケアが行えるようになれば、横並びにならず感染は減ると思います。
 これらのことから、看護師のケアが感染管理に果たす役割はとても大きいと思います。


■高齢者施設でのアウトブレイクについて

 高齢者施設はもともと職員数が少ない。しかも、病気の方を集中的にたくさん診る医療機関と違い、入所者が慢性疾患の方で「お世話をする」というレベルのためほとんどが介護職員で、看護職員は少ない。経済的な面から感染防止用グッズを揃えている所も少ないのが現状です。

 また、スタンダード・プレコーション(標準予防策)の考え方も定着していません。感染防止教育が充分に行えない高齢者施設では医療機関よりさらにその考え方が浸透していないと思われます。こうした施設でも、感染管理の専門家が相談を受け、この行為の前にはどういう処理が必要か、などということを決めてあげなければいけないと思います。
 今回(平成16年12月末からの高齢者施設における感染性胃腸炎の発生・まん延)のようなアウトブレイクの時にどう介入していくかという技術もあります。何が原因だったかを特定し対策をとるという技術です。しかし、それができる専門家が少ないのが現状です。保健所に発生の事実を届け出ても、感染に対する特別な勉強をした人がそこにいなければ、必ずしも適切なアドバイスを受けられるわけではありません。

 今回の集団感染はどうも経管栄養をしている方に多いという話でした。経管栄養は食事と同じだからそれほど清潔面に神経質にならなくても問題ない、というような考え方があります。しかし、集団の中では隣の人が病気を持っていたらうつっていくわけです。ですから、やはり清潔に扱うことが必要です。
 高齢者施設では感染はないと思われていたり、注目する感染がMRSAだけだったりしますが、感染は何がでてくるかわかりません。集団の場では何が起こっても不思議ではありません。結核も疥癬も流行ります。そこを考えてケアしていかないと今後も同じことを繰り返すと思います。感染全体を視野に入れた防止策を考えなければいけないでしょう。


■「感染対策=お金がかかるだけ」は誤解

 経済的な問題から、手袋はプラスティック製手袋のみを使用しているところが多いようです。しかし、プラスティック製手袋は破れやすく、ピンホールなど目に見えない傷が多いのです。血液・体液を触るときなどリスクの高い作業の際には、ラテックス手袋が必要です。用途に応じた手袋の使用を検討すべきです(下表参照)。

各手袋の用途
感染リスク 手袋
低い場合 食事の扱い/通常の口腔ケア/患者の搬送 プラスティック製手袋
中等度の場合 創傷ケア/一般手術/直腸診 ラテックス製手袋
(ラテックスアレルギーがある場合はノン・ラテックス製手袋で代用)
高い場合 整形外科手術/化学療法

 感染対策はお金がかかるだけと思われがちです。メーカーの人に「感染防止に効果がありますよ」と勧められたものをそのまま購入しているところも多いようですが、確かにそれでは経済的に非常に困難になります。

 しかし、ある病院から感染管理を依頼されて1年半ほど通ったところ、その院長から「感染管理にはお金がかかることを覚悟していたが、どうもそうではないらしい。ある面で削減できるし、お金は思ったほどかからなかった」と言われました。職員の作業の無駄を整理して簡素化でき、看護師がケアに集中できるような環境もできました。1年半で驚くほど変わったのです。こんなにも変われるものかと思いました。少なくとも感染防止にはお金がかかるだけという概念は捨てなければいけないでしょう。


■手洗いを徹底させるために

(医療従事者が率先してロールモデルになる)
 感染が拡大する原因は患者ではありません。患者から患者へうつるのはそこに接触する医療従事者を介してです。また、医療従事者がしっかり手を洗っていれば、患者もそういうものかと思うでしょう。教えるよりもロールモデルになった方が効果的です。確かに医療従事者は忙しいと言われます。しかし、10〜20秒の手洗いが本当にできないのでしょうか。

(手洗いの場をたくさん設置する)
 将来的には、医療施設には手を洗える所をたくさん作ることが大切です。手を洗う場所がないのに手を洗えと言っても無理です。また、水がはねないような形を考えること、そこに必ずペーパータオルの設備をつけること、そばに手袋が置いてあることも大切です。ペーパータオルの紙は上等なものでなくても構いません。エアタオルはなかなか乾かず時間がかかるので、医療現場にはあまりふさわしくないでしょう。

(見られることの効果)
 手洗いの徹底には、本当に手を洗えているかという何らかの観察が必要だと思います。
 以前、MRSAが発生し、荒れるほど手を洗っているという医療機関がありました。職員の手荒れがひどいというので、手荒れのしない方法を考えたいと思い、伺ってみました。確かに見ていると、一生懸命に手を洗っていました。しかし、観察に行った途端にMRSAが出なくなったのです。出なくなってしまったので、検討の余地がなくなってしまいました。このように、他から見られているだけで、職員の意識が変わり感染防止の行動がとれていることがあります。

 また、ある学生が卒論研究でホーソン効果(監視効果)の調査をしたいというので、ICUの手洗い調査をしてみてはと提案したことがあります。ICUではMRSAが多いと言われているからです。そうして観察してもらうと、何とそのICUではMRSAが出なくなったのです。やはり見てあげるということが大切かもしれません。

 私は「監視」という表現は好きではありませんし、指をさしてあそこはよくない、ここはだめだと言って回るのも嫌いです。大人はけなされたり、欠点を見つけられたりするのはいやなものです。見に伺うのはその人が必要としているときに、需要があるタイミングを狙うことが大切だと思います。人に見られるのは大切ですし、そういうときに習慣がつきます。また、「皆さんの努力でMRSAが全く出なくなりました。すごいですね」とほめてあげることも大切です。


■医療現場へのアドバイス

(サーベイランスで発生の有無を把握する)
 まず、医療関連感染が本当に病院の中で起きているのか起きていないのかを把握するのが手始めだと思います。それにはサーベイランスという方法があります。
 対患者のサーベイランスとしては、ある疾患定義に基づいて患者を観察し、それが病院の中で起きた感染かどうかということを判断していきます。例えば、中心静脈カテーテルを入れている人の中で血流感染が起きている割合、尿路カテーテルから感染が起きている割合、などを把握します。
 また、対医療従事者のサーベイランスとしては、針刺しが本当にあるのかないのか、どうやったら減るのかを把握します。感染防止は注意すればよいと精神論で片付けられてしまうことが多いのですが、注意のレベルでは出来ないことがたくさんあります。針刺しはどういう行動が一番危ないのか、どのように針を捨てたら安全なのか、そういうことがたくさん研究されていますので、それらを自らの施設で実施し、本当に針刺しが減ったかどうかを検証していくことも大切です。

 例えば、EPINet(Exposure Prevention Information Network ;エピネット)システムがあります。これは、2種類の報告書(針刺し・切創報告書、血液・体液汚染報告書)と、それぞれの報告書のデータを入力・解析できるソフト(日本版は職業感染制御研究会が開発)によって構成されています。こういうものを使って、実態を正確に把握し、原因調査を行うことが重要です。

(基本はスタンダード・プレコーション)
 例えば、SARSの患者は額に「S」と印をつけてくるわけではありません。救急センターに呼吸困難で入ってきます。その方への挿管方法を間違えると感染してしまいます。しかしスタンダード・プレコーションとして、手袋をしてマスクをきちんとして挿管すれば、うつる確率は低くなります。「SARSだから大変」といいますが、そうではありません。感染とわかる前からしておくべきこと、予防に重点を置くことが大切です。
 自分を守り、患者も守る。これが感染管理の究極の目的です。これに経済的効果を加えて考えると、やはりスタンダード・プレコーションが大切だと思います。

 下図は米国疾病管理予防センター(CDC=Center for Disease Control and Prevention)が作成したポスターを改変したものです。こういうことを一般の人に広めるのが効果的だと思います。SARSや鳥インフルエンザが出てきて以来いろいろと言われるようになりましたが、まず、どうやって広がっていくのかを考えていくことが先決です。このポスターは、咳をするときのエチケットは昔からあったはずだという発想から作られたものです。
(標準から最良の方法を考える)
 以前、JICA(国際協力機構)がある国の感染防止マニュアルを作るときにお手伝いをしたことがありますが、やはりその国の環境を知らないと作れないものです。物を燃やすことの出来ない場所であれば埋めるとか、その環境にあった対策をたてるために智恵を出し合いました。南米の廃棄物処理に対して一緒に考えたときも、国の特色がありました。
 アメリカの方法がどこでも使えるわけではありません。感染防止は、基本となる標準策があって、それをどう使っていくかがポイントです。
 病院と在宅では環境が違います。在宅は他に病人がいませんから、その方だけの問題として考えるなら、全てのものを滅菌しなくても使えます。しかし、病院ではそうはいきません。日本の病院は病室も狭く、感染防止には不便なところが多いのです。その中で一番良い方法は何かを考えることです。
 病院だけをみても環境は同じではありません。組織のしくみも違います。病室ごとに手袋を置ける環境にあるかどうか、手袋を今まで使ったことがある人たちかどうか、など様々な状況にあわせて、アプローチの方法を変えなければなりません。そこが、感染管理者のアイディア、腕の見せ所です。

【参考文献】医療関連感染の防止対策
出版社:医学芸術社
監 修:柴田 清
ジャンル:臨床看護一般
判 型:B5
発行年:2004年
ISBN:4-87054-196-3
頁 数:125
税込価格:2,520円



 看護師である柴田先生が感染管理にかかわるようになったのは、現在の聖路加国際病院の建築の前に、たまたま計画が遅れていた中央滅菌室を担当するように言われたのがきっかけだという。しかし、当時の日本には中央滅菌室の仕事内容やデザインに関する資料が無く、図書館で調べているうちに偶然みつけたのがアメリカの文献だったそうだ。その後、アメリカでの研修、大会などへ参加するチャンスに恵まれ、現在の感染に関わるポジションに至る。「よく言われるような、やる気があっても希望のポジションを与えられないとか、あなたの仕事じゃないと言って切られることが一切ありませんでした。こうしたいと言えばやらせてもらえたし、ドクターなど周囲の方にとても恵まれてきました」と語る。何がきっかけで視野が広がるかわからないものである。
 不幸な例ではあるが、今回のウイルス性食中毒(ノロウイルス)のアウトブレイクは、高齢者施設における感染対策の大切さを知るきっかけになった。しかし、感染の危険があるのは食中毒だけではない。感染全体に視野を広げた対策をとらなければ、また同じようなことが繰り返されるだろう。亡くなられた方の命を無駄にしてはならない。