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医療の質を担保するためのISO9001取得の取り組み

 医療の安全・質を担保する規格には、主に日本医療機能評価機構の病院機能評価が知られているが、すべての産業に共通した質保証の規格としてはISO9001がある。そこで、今回は実際にISO9001を取得している株式会社日立製作所水戸総合病院・病院長永井庸次氏に、ISO9001の重要性やその概要についてお話を伺った。


永井庸次氏

■ISO9001とは

 ISO9001とは、組織が提供する商品やサービスの品質が一定水準以上を満たすための、主に組織運用の体制や業務フロー等に着目した品質マネジメントシステムの認証である。永井氏は「質保障のための枠組み」と説明する。すべての業界に適合することを想定しているため、原典となるISO9001は概論的な部分までの記述しかない。主なものを抜粋すると以下のような項目を満たしているかどうかに着目している。


  • 業務フローが文書化されているか、透明化されているか、共有されているか
  • 質改善のプロセス(PDCA)が回っているか
  • 経営者の品質改善に対するコミットメントの証拠があるか
  • 品質方針が組織全体に伝達され、理解されているか
  • 内部コミュニケーションのための適切なプロセスが確立されているか
  • 改善機会の評価、品質変更の必要性の評価をマネジメントレビューとして行っているか
  • 責任・権限などが組織全体に周知されているか(例:組織図・指揮命令系統図・組織分掌規定等)
  • 質にかかわる管理責任者が任命されているか
  • 職員に必要な力量が明確化されているか、不足している場合は訓練をする、もしくは既にその力量を保持している人を雇う、外部委託する等の流れが動いているか

 「ISO9001は質担保の規格が満たされているかどうかに着目しており、実際それぞれの分野においてどうするか(HowTo)は、現場にゆだねられる。概論的な部分に止められているのは、あくまですべての業界に適合するように作られているためだ」と永井氏は語る。同時にISOはプロセス志向。製品やサービスにおける結果はあくまでプロセスの結果として受け止めているようだ。

 監査は内部監査と外部監査がある。内部監査は同じ病院のスタッフが別の部署の業務を監査する。外部監査は、日本に複数存在する監査機関に監査を依頼。監査機関は医療機関を訪問し、インタビュー等を行いながら、要求項目が満たされているかチェックする。また、認証を維持するためには、1年に1回外部監査を受け入れなければならない。外部監査には、評価を行う専門員の他に、専門技術員の一人が同伴する。専門技術員は当該分野(ここでは医療)の専門家であり、専門的な領域の説明を評価専門員に対して行う。ただし、専門技術員は評価自体には加われない。永井氏は、「評価専門員は医療の専門家ではなく、マネジメントの専門家。あくまで仕組みが上手くまわっているかどうかを見る必要がある」という。また、「ISO認証の評価専門員は、結果のみに注目して言ってはいけない」と永井氏。あくまで、現在の状態がISO9001の要求項目を満たしているかどうかを判定する。それでは、パフォーマンスを上げるためにはどうしたらよいのだろうか。ISO9001とは別に、組織におけるパフォーマンスを上げるための指針は、ISO9004として存在しているようだ。

 日本医療機能評価機構による認定病院数は、2000程度。おもに設備があるかないかといった構造面に着目したものが多く、一度認定を受けると次の監査は5年後。それに対してISO9001の認証を受けているのは現在300医療機関程度。まだまだ数が少ないのは、一年に一度外部監査があり、業務プロセス自体に着目しているため、質保証の考え方により深くアプローチした形だからだろう。


【水戸総合病院診療プロセスフロー:サンプル1】

プロセスフロー

【水戸総合病院診療プロセスフロー:サンプル2】

プロセスフロー

 ※ :ISO9001のドキュメントは著作権の関係から、本コーナーで直接的に表示できません。ご了承ください。入手をご希望の場合は、財団法人日本規格協会のホームページよりお求めください。


■ 水戸総合病院におけるISO導入まで

 永井氏が院長に就任した当時、院内業務は何がどうなっているかほぼ不明な状態であった。診療科・部署別の縄張りや独自の業務フローになっており、標準化という考え方自体が存在していなかった。この状態を永井氏は「部分最適、全体最悪」と表現する。このため、永井氏は日本医療機能評価機構の認定やISO9001の取得を、トップダウンで提案。幹部から「これ以上忙しいのは勘弁してくれ」という声もあったそうだ。

 同院におけるISOの専任のスタッフは1人。「200床前後の病院であれば、専任スタッフは1人で回る」と永井氏。また、東京大学の飯塚研究室や早稲田大学の棟近研究室の修士・博士過程の学生5、6名が月に数回来院。質マネジメントの研究を行っている。

 「ただ、他の医療機関がISOを導入していくには、それを手助けする機関、ファシリテート(促進)する機関などをどこかで作る必要があるでしょう」

 また永井氏は、質改善のプロセス(PDCA)について、「マイPDCAを1つくらいもて」と職員にはっぱをかける。PDCAは計画(Plan)を計画通り実施(Do)し、点検・評価(Check)し、処置・改善 (Act)することを一つのサイクルとしている。このサイクルを回転させることによって改善していくというマネジメント上の一つの考え方である。

 「ISO認証取得に向けて準備している最中に、こんなにも文書化できていなかったと、はじめてわかった」と永井氏。認証取得前は、診療科別のローカル運営になっていたが、その弊害はほとんどなくなったという。内部監査等も行っていることから、スタッフが他の診療科を理解することの手助けにもなっているようだ。ISOはその認証の取得に大変な労力がかかると想像しがちである。しかし、永井氏は「認証取得後の方が大変」と語る。取得後は、業務改善のエッセンスがある程度わかりはじめ、その改善のための活動に労力がかかるという。

 「医療の質の保証には『マネジメントシステム』という仕組みが必要であるということにつきる。可視化できていないし、共有化できていない。その人が一人休む・辞めるともうわからないではだめだ」と永井氏。ただ、残念なことに、クオリティマネジメントを導入する必要性は理解されないことが多いという。「医療が個別化、多様化しているから標準化できないという意見もある。しかしだからこそ、標準化して、可視化して、共有化する必要がある。これだけリソースが少なく、医師がどんどん辞めていく時代の中で、医療の質マネジメントは非常に重要。医療崩壊といわれる時代だからこそ、質保証のための活動を行う必要がある」と熱く語る。


■ 試金石としてのIT

 永井氏によると電子カルテ等のIT導入は、業務が標準化されているかどうかの試金石になるという。

 「ワークフローを作るなど業務を標準化する。標準化されていればソフトウェアパッケージを導入しても十分機能するはず。しかしこれが動かない場合が多い。ITは実装されている機能以上のことはできないため、この時はじめて標準化されていない業務がわかったりする」という。

 「このため、業務が高いレベルで標準化されているかどうかのチェックとしてITは活用できたりもする。クオリティマネジメントの検証の意味でITは逆説的な意味でいいのではないか」と永井氏は語る。

 「このようなIT機能だが、電子カルテをきちんと運用して成功している病院はほとんど聞かない。電子カルテは、大学病院などでは診療科別にカスタマイズする費用としてあれだけ高くなっている。そのカスタマイズに億単位のお金がかかる。パッケージとしてどこでもつかえる電子カルテがあれば安くなるはず。業務フローは病院で少しずつ違うでしょうが、基本的には同じはず。その中で多少違う部分は運用面でカバーできるようになっていれば、もう少しITは安く導入できるのではないでしょうか。特に電子カルテの導入コストが高い理由は、医療機関側の業務が標準化されていないことも起因していると考えられる。そういう意味において、医療機関側にもその責任があるのではないか」と疑問を呈する。

 業務の標準化は単に質保証だけに留まらず、トータルなコスト低下という利点も同時に持っているのかもしれない。


■ 動画メッセージ

永井氏に、動画メッセージ(29秒:2.71MB)を頂いています。

【動画クリップ】

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※ 正常に閲覧できない場合は事務局までご連絡ください。

<取材を終えて>

 ISO9001は、すべての業界に共通するマネジメントシステムの規格。実際に認証取得する予定がなくても、その概要を一読してはどうだろうか。自らの組織を省みる一つのいい材料になるのではないかと思う。ISO9001の認証を受けている医療機関は300とまだ少ない。水戸総合病院には、そのモデル的な存在として今後の活躍を期待したい。


(取材・企画:田北陽一)