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画像支援ナビゲーションシステムによる手術リスクの軽減

〜耳鼻咽喉科領域を中心に〜

 現在もっともよく使われている手術支援ナビゲーションシステムは、術前もしくは術中に撮影されたCTやMRIのモニター画像上に、手術器具の先端をリアルタイムで表示し、目的部位に正しく導く画像支援ナビゲーションシステムである。目下適応は一部領域に限られているが、正確性が増し、低侵襲にて、より安全に手術を行なえることが実証されつつある。この特性によって、技術と経験に頼っていた外科手術に変革を与えようとしている。わが国の耳鼻科領域においていち早くこのシステムによる手術を開始した金沢医科大学耳鼻咽喉科の友田幸一教授にお話を伺った。

友田幸一教授

ナビゲーション手術とは

 手術用ナビゲーションの概念が提唱されたのは100年も前に遡る。現在の画像支援ナビゲーションシステムの形態を持った実用機としては、1986年にわが国で脳神経外科領域の手術支援のために開発されたニューロナビゲーターがよく知られている。目標地点に車を導くカーナビになぞらえた名称だという。

 画像支援ナビゲーションシステムによる手術の対象は、その後、耳鼻咽喉・頭頸部領域にも広がり、欧米にて盛んに使われるようになった。本邦では1995年に初めて導入され、普及しつつある。2003年、友田氏らが全国の主要病院202施設の耳鼻咽喉科にアンケート調査を行なったところ98施設より回答があり、そのうち29施設が「使用したことがある」としている。

 なぜ耳鼻咽喉・頭頸部領域において手術ナビゲーションが普及しつつあるのか。その理由について友田氏は次のように言う。

 「脳神経外科領域同様、重要な神経や血管が走行しており、解剖学的に複雑で個人差もあり、副損傷のリスクが高いことが第一にあります。眼窩、頭蓋底などの危険部位が隣接していることが第二。また第三に構造的に骨組織で囲まれており、髄液流失によって起こる脳神経外科手術のブレーンシフトのような臓器変形が少ないことがあげられます。耳鼻咽喉領域では当初は副鼻腔手術で用いられることが多かったのですが、適応は拡大され、耳科・側頭骨手術、頭頸部・頭蓋底手術、顎・顔面外傷手術、そして最近では生検、手術教育、トレーニング、遠隔医療にも応用されています」

 現在、わが国で稼動している画像支援ナビゲーションシステムは、200台を越えるが、診療科別に導入台数を見ると脳神経外科がもっとも多く、整形外科、耳鼻咽喉科、歯科口腔外科と続いている。

図表1
ナビゲーションシステムの有用性
図表2
画像支援ナビゲーション手術

 システムはいくつか機種があり、手術器具・プローブ(術野で位置確認を行なうための探索棒)の位置確認方式によって光学式センサー型、機械式アーム型、磁気式センサー型の3方式に分けることができる。

 光学式センサー型は、発光ダイオードを付けた手術器具を赤外線CCDカメラで追跡して位置認識を行なう。操作性にすぐれ、普段使用している手術器具をプローブとして登録できるので、各診療科で共有できる点が強みだ。機械式アーム型は、プローブ先端とプローブに接続しているアームの起点、距離、角度を計算して位置認識を行なう。他の機種に比べて低価格であるが、操作性に劣る。磁気式センサー型は、術野に磁場をかけ、この中でセンサーを動かすことで位置認識を行なう。操作性・簡便性に優れるが、周辺の金属の影響で磁場が影響されやすいこと、アプリケーションが特別性でなければならないことが問題点だ。3つの機種とも、画像処理、位置認識、誤差補正はコンピュータ本体=ワークステーションが行なうが、事前に患者の患部の位置と画像の位置とを合わせる作業は不可欠だ。これをレジストレーションといい、次の4つの方式がある。耳鼻咽喉科を例にとって長短を説明する。


  • マーカー法 顔面の数箇所にマーカーを3点以上貼り、画像撮影をして、手術直前にこのマーカーで位置合わせをする。簡便だがプローブの当て方によって誤差が生じやすい。
  • サーフェイス法 マーカーと解剖学的なランドマーク、そして顔面表面の任意の40箇所という2つのファクターで位置合わせをする。ダブルのファクターチェックによって精度は高いがレジストレーションに要する時間がかかる。
  • オートレジストレーション法 マーカーを付けたヘッドセットを被って画像を撮り、手術時にもう一度それを被って自動的に位置合わせをする。簡便であるが鼻・副鼻腔手術専用に開発されたもので他の部位への応用はきかない。患者本人に合ったセットを用意する必要もある。
  • 画像重ね合わせ法 立体的な3D検査画像を再構築して、手術時に患者の顔面像と重ね合わせて位置合わせをする。画像構築に時間がかかるのと、3D画像と顔面像との拡大率を一致させるのが難しい。

ナビゲーション手術の適応例

 友田氏らが全国の主用耳鼻咽喉科を対象に行なった前述の2003年の調査で、どのような疾患に対してナビゲーション手術を行なったか、29施設から回答が寄せられている。それによると、耳科では鼓室形成術、真珠腫性中耳炎、聴神経腫瘍手術の順になっている。具体的な使用法としては、乳突蜂巣の発育の悪い例での骨削開、内耳・内耳道の確認などだが、顔面神経の同定は難しいとの意見もあった。鼻科では慢性副鼻腔炎、嚢胞疾患が圧倒的に多かった。特に再手術例や危険部位の確認、奇形症例、多発嚢胞の取り残しの確認、手術適応の拡大に有用との意見が目立った。頭頸部・頭蓋底の部位では、下垂体手術、頭蓋底手術、上顎腫瘍、鼻腔腫瘍の順となっている。具体的には手術器具と頭蓋底の距離確認、骨きりラインの設定、マージンの確認、大血管や硬膜の位置確認に有用との意見が多かった。

 全体の症例数は29施設の合算で1264例(1997年〜2003年)。年間使用症例数は、50例以上が4施設、11〜49例が10施設、1〜10例が14施設であった。


図表3 ナビゲーション手術症例
耳科領域 179例 鼻科領域 904例 頭頸部・頭蓋底領域 181例
鼓室形成術94例 慢性副鼻腔炎420例 下垂体手術102例
真珠腫性中耳炎32例 嚢胞疾患256例 頭蓋底手術24例
聴神経腫瘍17例 鼻腔内腫瘍48例 上顎腫瘍6例
奇形手術7例 アレルギー性鼻炎11例 鼻腔腫瘍6例
人工内耳7例 後鼻孔閉鎖症2例 側頭下窩手術5例
側頭骨内腫瘍7例 涙嚢解放術1例 耳下腺腫瘍4例
アブミ骨手術3例 眼窩壁骨折1例 頭頸部腫瘍4例
内リンパ嚢開放術1例 急性副鼻腔炎1例 髄液漏3例
顔面神経鞘腫1例 副鼻腔真菌症1例 翼口蓋窩手術3例
顔面神経減荷術1例 線維性骨異形成1例 副咽頭間隙腫瘍3例
その他 9例 その他 162例 頬粘膜腫瘍 3例
        血管腫 2例
        眼窩腫瘍2例
      三叉神経鞘腫1例
      顎関節腫瘍1例
      環椎腫瘍1例
      異常茎状突起1例
      生検1例
      その他9例

図表4 どのような手術に使用されているか
図表5 ナビゲーション手術適応

 各領域で共通する適応は、解剖学的ランドマークの欠如した拡大手術後の再手術、一解剖領域外へ進展した病変や副鼻腔の多発性嚢胞などの高度な多発病変の手術、機能低下や切除創を可能な限り少なくするための低侵襲手術の3つをあげることができます」(友田氏)

アンケートのまとめと評価

 画像支援ナビゲーションシステムを使用した感想として、アンケートの主要項目では以下のようになっている。

 メリットは、「自信が持てた」85%、「成績向上」43%。デメリットは、「手術時間の延長」(15〜20分)71%、「レジストレーションの時間が要ること」(10〜20分)46%。「ナビゲーションシステム使用による合併症」は0件であった。「精度1〜3mm」90%、「再手術の適応」70%、「進展した病変・腫瘍の適応」40〜50%。「将来も続けて使いたい」86%であった。

 ナビゲーションシステムのトラブルについての回答では、ワークステーションのフリーズが3施設であった。対応は再起動であるが、回復した例もあれば、使用不能になった例もあった。磁気式を使用しているある施設では手術器具による磁場への影響が原因で、一時的に機器が停止した。その他、ヘッドセットのずれ、プローブの認識不能、電気メス使用時の機器停止などの報告があった。

 全国29施設からの回答とは別に、北海道大学、慈恵医科大学、東京医科大学、金沢医科大学4施設の耳鼻咽喉科に対する「ナビゲーションシステムの必要性」のアンケート調査の結果は、以下の表の通りである。対象疾患・病変は表にある通りで、耳科、鼻科、頭頸部・頭蓋底の3領域とも、「絶対必要」「あった方が良い」の合計は過半数を超えている。特に頭頸部・頭蓋底の下垂体・頭蓋底の手術で「絶対必要」が64%に達しているのが印象的である。


図表6 アンケート調査結果のまとめ、評価
図表7 アンケート調査結果
(ナビゲーションシステムの必要性)

手術のトレーニングと鼻科手術教育への応用

 画像支援ナビゲーションシステムの有用性について、友田氏らは以下のような検証も行っている。術者がどれほど正確に術中の解剖位置を認識しているか、画像支援ナビゲーションシステムと比較した。方法は内視鏡下鼻内手術(ESS)のVTRを被験者に見てもらい、プローブを色々なランドマークに当て、その位置をCTフィルム上で正しいと思われる位置として示してもらった。被験者は経験3年内の初級者、経験5〜6年の中級者、経験10年以上の上級者に分けた。すると初級者は4〜5mm、中級者は2〜3mm、上級者は1〜2mmの誤差のあることがわかった。

 「同じ条件下で行なったナビゲーションシステム自身の誤差は0.6mmでした。知識差・経験差によって異なる術者の手術精度は、これまで客観的に評価するのは困難でしたが、ナビを利用することで簡単に行なえることがわかりました。鼻科領域においては低侵襲性の特性から内視鏡下副鼻腔手術の頻度は拡大する一方ですが、狭い視野で、多くの器具を操作する高度な技術が要求されるようになっています。そのための新しい手術教育、評価法が必要となっていますが、画像支援ナビゲーションシステムを使うことで、術者一人でも自己点検や自己評価が可能になり、トレーニングに用いることができるようになりました」(友田氏)

 また、友田氏らは産業技術総合研究所によって開発された精密ヒト鼻腔モデルと画像支援ナビゲーションシステムをドッキングさせ、イメージガイド下に行なう内視鏡下鼻内トレーニングシステムを考案した。これを用いて、(1)内視鏡や鉗子の手技、モデルにかかる加重、モデルの削開範囲などを検討した。その結果、研修医レベルでは、必要な方向への加重、必要最小限の範囲を超える削開などが顕著であることが明らかになった。(2)2次元的なCT画像と3次元的な鼻腔形態の解剖構造を、頭の中でどこまで確実に評価できるかを検討した。その結果、解剖部位によっては、熟練度の違いで3つのパターンがあることがわかった。実際の手術を行なっている部位が危険部位からより遠くに感じている、すなわち大胆に開放をしてしまうパターン。その逆で、危険部位をより近くに感じている、すなわち慎重ではあるが病変を残存させてしまう可能性のあるパターン。実際の位置と認識位置が一致し た理想的なパターン。この3つである。

 「解剖部位や術野の見え方でその感覚は異なること。具体的には後上方で実際の部位との誤差が大きくなることが明らかになりました。この検証を手法化すれば、手術学習の過程を科学的かつ行動工学的に分析し、術者個人の特性と能力を客観的に評価することができ、熟練医との違いを認識させ、指導に役立てることが可能と考えられます」と友田氏は言う。

<取材を終えて>

 画像支援ナビゲーションシステムは、あくまでも手術支援装置であり、術者の未熟性をカバーするものではない。また装置を過信して手術の適応を拡大するものでもない。一方で、機器は年々改良されていき、今後は用途によって二極化していく、と友田氏は予想する。すなわち大学病院レベルの高度な手術に対応する高性能機種。機能を簡略化し、操作性にも優れ、外来・診療所レベルでも使える普及機種である。それとは別に、どの領域でも手術術式が多岐になり専門化していくなかで、手術教育やトレーニング機器としての有用性が、飛躍的に増すものと思われる。なおシステムのメーカーは、以前は国内にも存在したが、規模の違う海外のメーカーに駆逐されてしまった。このシステムに限らず、評価の高い必要かつ有望な医療機器については、何らかの育成策が講じられて然るべきだと思った。


動画メッセージ

友田氏に動画メッセージを頂いています。(47秒:2.45MB)

【動画クリップ】



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(取材・企画:黒木要)