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インフルエンザの医療安全

ほぼ終息したと見られる今年のインフルエンザ。この冬のインフルエンザは例年とはまったく異なる特徴があった。さらに型の違うインフルエンザがこの先、流行しないとも限らない。今シーズンのインフルエンザや、マスコミをにぎわす新型インフルエンザなど、最近のインフルエンザの医療安全について日本臨床内科医会インフルエンザ研究班・廣津伸夫先生にうかがった。

「今シーズンは例年になく早い時期から流行が始まり、10月末から2月末まで、山場をむかえることなく、また途絶えることなく流行は続き、ようやく第1波が収束したところです。この間、迅速診断キットで定期的に19例の培養を行ったところ、B型が1例、AH3型が1例、他はすべてAH1型でした。2月末の国立感染症研究所感染症情報センターの病原微生物検出情報では、AH1型が92.1%を占めていますので、1999〜2000年、AH1型の62.1%を凌ぐ、かつて例を見ないAH1型の流行だったと言えるでしょう」

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H1 0.3% 0.2% 62.1% 37.5% 39.5% 0.0% 0.1% 3.0% 25.4% 12.0% 92.1%
H3 97.5% 54.9% 37.7% 16.2% 37.5% 66.4% 94.1% 41.7% 64.8% 47.0% 5.8%
B 2.3% 44.9% 0.1% 46.4% 23.0% 33.6% 5.8% 55.3% 9.8% 41.0% 2.0%
表1.過去10年間と今年の国立感染症研究所感染症情報センターの病原微生物検出情報のまとめ

「おととしの夏に続き昨年5月中旬から夏にかけて沖縄でAソ連型インフルエンザが流行りました。その流れで今冬は本島でもAソ連型が流行っているものと推測できます」

夏に、しかも沖縄でインフルエンザが流行するという、以前では考えられなかったことが2年続けて起きている。

「今年のAH1型の症状は軽い印象があります。そのため、風邪と自己判断して、医療施設を受診しない人が多いように思われました。たとえば、幼児がぐったりして来院し、インフルエンザと診断したところ、兄も熱を出したが、すぐ下がったので学校に行っている。また、父親が熱を出して、2日間寝ていたが熱が下がったので、今日会社に行ってしまった。そこで、風邪と自己判断した家族の人たちに来院してもらって検査をするとインフルエンザだった、といったことが例年より多くありました。しかしながら、AH1型の臨床症状を検討してみると、最高体温の平均は約200人の平均で39.0℃、とAH3型の1,000人の平均39.1℃、B型700人の平均38.9℃と、どのインフルエンザでも変わらないし、頭痛、倦怠感の発生率も変わりません。発熱から解熱までの発熱日数を比べてみると、無治療の場合、AH3型では3.4日、B型では4.3日に比べ、AH1型では2.3日と短く、高熱がすぐに下がってしまうため、インフルエンザと自覚しない場合が多いようです。

私の調べでは、インフルエンザウイルスは発熱後も2〜3日体内に残存するので、治療しない場合はAH1型でも5〜6日感染力が持続するということになり、注意が必要です」

偽陰性の可能性もある〜インフルエンザの検査方法について

「高熱を出し、即座に解熱するような、一見軽い風邪と思われるようなインフルエンザについて述べましたが、日臨内の調べでは、発症から解熱まで38℃を超えない症例もあることも分かりました。小児では、インフルエンザAは、3〜4%、B型は3〜8%程度が38℃以下でしたが、65歳以上の場合34〜38%の人の熱が38℃以下でした。したがって、インフルエンザを疑う場合は、発熱だけでなく、全身症状の有無、地域の流行状況、過去のインフルエンザ罹患歴などを考慮して行う必要があると思います。37℃台でもインフルエンザの可能性があるからです。

また、インフルエンザを強く疑って迅速診断を行った場合でも、結果が陰性になることがあります。理由として、次の3つが考えられます。

(1)インフルエンザではなく、RSウイルス感染、アデノウイルス感染、等のインフルエンザウイルス以外のウイルス疾患の可能性がある場合。これらの疾患を診断できる迅速診断キットもあるので、治療薬はありませんが、それぞれの特徴ある臨床経過への対応が必要です。

(2)インフルエンザを発症しているが、診断時期が早すぎるため迅速診断キットで検出できるだけのウイルスが増殖していない場合。その時期には、迅速診断は陰性となります。380人の迅速キット(Capilia Flu A B)の診断率は、発症後6時間以内では85.1%で、小児の場合は90%程度でした。インフルエンザを強く疑いながらも迅速キットが陰性の場合、発症後間もなくであれば、私はとりあえず1日分の抗インフルエンザ薬を処方します。1日後に再度、検査を行い、陽性であれば抗インフルエンザ薬の使用を継続し、陰性であれば、薬を中止しています。しかし、発症から間もないという理由で、検査もせず、投薬もしない医師が多いと聞きますが、インフルエンザは早期に治療するのが原則ですので、臨床症状で強く疑うのであれば、まず検査をした後、対策を講じるのがよいと思います。

(3)検査法が正しくないため検体が充分採れずに陰性となる場合。最も多い間違いは、鼻腔のぬぐい方です。正しくは、スワブを2〜3cm鼻腔に挿入した後は、スワブの柄で鼻腔の入り口を持ち上げる感じで、鼻腔底に沿ってスワブを進めていき、抵抗を感じたところで止めます。大人の場合は約10cm程度挿入されることになりますが、そこでスワブから指を放し、10秒以上待った後、スワブを回転させることにより、鼻汁が先端を潤していることを確認してゆっくり抜きます。スワブは、少しの抵抗が加われば指からすべる程度に軽く持ち、無理な力を加えなければ、苦痛を与えず検体が採取できます。

インフルエンザは、すべての実地医家が診断に関わるといっても過言ではありません。正しい知識と技術がすべての臨床医に求められていると言えます」

図1-1
図1-2
図1.鼻腔のぬぐい方 : スワブの柄で鼻腔の入り口を持ち上げる感じで鼻腔底に沿ってスワブを進めていく

タミフルと異常行動の関連性

厚生労働省は10代へのタミフルを原則中止している措置を妥当、としている(「リン酸オセルタミビル(タミフル)について」、平成19年12月25日)。実際、タミフルと異常行動の因果関係はあるのだろうか。

「インフルエンザ罹患時に精神神経症状が随伴することは以前より報告されていますが、近年、インフルエンザに対する治療薬の使用が一般的となったため、若年層において治療薬、特にタミフルと異常行動との関係が注目されるようになっています。そこで、異常行動がいかなる状況において生じるかを、2006-2007シーズンにおける18歳以下のインフルエンザ罹患者を対象に観察したところ、217名のうち17.1%にあたる37名に、恐怖等の情動異常、見当識障害、悪夢等の睡眠障害、幻視等の幻覚・妄想が見られました。異常行動の症状は全般的に軽いものが多かったのですが、なかには、衝動的で、事故につながるようなものも見られました。

異常行動は、男性にやや多い傾向がありましたが、年齢による偏りはありませんでした。また、異常行動の有無と、ワクチン接種率、発症から解熱までの時間、最高体温、抗インフルエンザ治療薬(抗イ剤)の使用期間との間に関係は見られませんでした。異常言動が経過中複数回見られた症例もあり、持続時間は様々で数秒から6時間に及んでいました。異常行動の多くは高温時に見られ、のべ58例の異常行動のうち16例は38.0℃以下でも認められています。

異常行動の発現時期は、特に抗イ剤との関係をみると、12例は治療薬使用前に出現し、薬を1回使った後に16名、2回以上使った後に8名を認めました。発症から治療までの期間が比較的長い症例に治療前の異常行動が認められることが多い傾向にありました。使用薬剤別には、タミフル服用後に14.1%、リレンザ使用後に10.2%が異常行動を示しました。また、無治療例1例にも異常行動が見られました。このように、異常行動発症例の35%が無治療か治療開始前に発症している事実より、異常行動は薬剤によるものとは考えられず、インフルエンザそのものが原因の精神神経症状と思われます。

今回の観察から、未成年者がインフルエンザに罹った場合は、薬剤使用の有無に関わらず17%程度に異常行動が出現する可能性があることが分かりました。これらの異常行動は、罹患中の注意深い観察によってのみ把握されるもので、異常行動による事故発生を防ぐ為には、患児の厳重な観察が必要であると言えます」

図2
図2.異常行動と抗インフルエンザ薬服用との時間的関係 : ID列に赤字で示したID37は無治療。他の12例は比較的治療開始が遅く、抗インフルエンザ薬の服用前に異常行動を生じた。

抗インフルエンザ薬にはタミフル、リレンザ、シンメトレルがある。シンメトレルは安価であり、1960年代に開発され、1998年からは抗インフルエンザ薬として長きにわたって使用されている。しかしA型インフルエンザにしか有効でなく、耐性ウイルスが出現しやすい。培養下では1回継代しただけで耐性ウイルスが検出された。臨床においてもシンメトレル治療を受けた患者の約30%から耐性ウイルスが検出されている。(Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci356:1877-1884,2001, J Infect Dis 188:57-61,2003)。またシンメトレルで治療中の患者に耐性ウイルスが増殖し、他人へ感染することも知られている。

一方、タミフルは、培養下でも多数継代しなければ耐性ウイルスが検出されない。しかしタミフル耐性ウイルスが感受性ウイルスに比べて病原性が強いことはない。したがってシンメトレルは現在インフルエンザの治療薬としては一般的ではない。

新型インフルエンザについて

「新型インフルエンザがパンデミックを起こすか否かは、誰にも予測できません。しかし、起きることを前提として対策を立てるべきだと思います。トリに対して高い病原性を持つH5N1がそのまま高病原性を保ちながらヒトインフルエンザとなるのか、また、比較的病原性の低いH5N1以外の亜型由来のインフルエンザによるパンデミックもあるでしょう。

鳥インフルエンザが人に感染してから10年経ち、驚異的な致死率を保ちながらも現在も散発にとどまり、この間パンデミックに至っていないという理由から、この後もパンデミックは起こらないといった説も聞かれます。また、反対に、もうどんな対策を講じても間に合わないと言った半ば諦めのムードを醸し出す意見もあります。しかし、このような風説によって、新型インフルエンザ対策がおろそかにされることは避けるべきだと思います。

パンデミック対策として、世界中でワクチン製造の試行錯誤が行われ、抗インフルエンザ薬の備蓄が進められ、また新型インフルエンザに対抗できる新薬が開発されています(現在日本では2剤の治験が進行中)。備蓄に関しては、残念ながら日本は他国に遅れを取っているとも言われ、耳にするのは、「足りない、足りない」の言葉です。そういった中でも、今現在、毎年冬になれば、抗インフルエンザ薬は、世界に注目されるほど使用され続けています。私は、高病原性を持ちうる可能性のある新型インフルエンザに対する抗イ剤の備蓄を考えるならば、現在の抗イ剤の使用も条件をつけて制約し、備蓄にまわすことも必要ではないかと思っています。方法としては、たとえば、インフルエンザに罹った人に個人的な備蓄とすることを勧める、と言ったことも考えられます。これには、いろいろな問題が含まれると思いますので、このようなことも、新型インフルエンザ対策のひとつとして公の場で議論されて然るべきと考えます。

従来、私は、今現在の季節性のインフルエンザの流行を食い止められない状況では、新型インフルエンザのパンデミックは避けられないのではないかと思っています。今使うべき抗イ剤を備蓄にまわすという先ほどの案と矛盾するようですが、薬剤を使わなくても感染を広げないための対策も必要だと思います。たとえば、家庭内または学校といった集団の中での感染をいかに少なくするかといった、現実の問題をさらに突き詰める必要があると思います。

国家レベルや、自治体レベルの対策も徐々に充実したものとなっていますが、さらに現在のインフルエンザの流行を制圧することを基本とした上での対策が望まれます。また、私たち臨床医は、新型インフルエンザが発生した際には今以上に期待されることを念頭に入れて、現在のインフルエンザ診療に携わる必要があると思っています。」

2月26日には国立感染症研究所が今冬のインフルエンザの流行は終息局面に入ったと発表があった。しかしインフルエンザは毎年異なる様相を見せる。3月にB型インフルエンザが流行ることもある。4〜5月、夏になっても可能性を考えて診断していくことが重要だ。


廣津伸夫氏より動画メッセージを頂いています。(1分42秒:6.51MB)


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(企画・取材/阿部純子)