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〜企業・組織に必要なクライシス・マネジメント〜

「我が社は大丈夫」という思い込みを捨てよ
組織内のコンプライアンスの意識・定着は最優先課題

今や企業(官庁・自治体・病院・学校法人などすべての社会的な組織)にとって、危機管理のプログラムの導入はなくてはならないもの。多くの企業不祥事の発覚が相次ぐ中、他人事として「うちに限ってそんなことはない」「なんとかなるさ」と油断していると、取り返しのつかない事態になる。

危機管理・広報コンサルティング会社(株)エイレックス代表 江良俊郎氏に、病院にも通ずる危機管理策についてお話を伺った。

江良俊郎氏より動画メッセージを頂いています。(1分14秒:6.67MB)

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他社の失敗を生かす工夫を

次々に発覚する企業不祥事、それにともない問題が生じた時の対応の不備は、より問題を大きくします。企業は法的責任だけではなく、社会的な制裁も覚悟しなければなりません。多くの企業不祥事が発覚する中、病院や学校などは特に風当たりが強く、社会の注目が集められやすくなっています。記者会見では「うちに限ってそんなはずはない」と油断しているトップが、危機に対する準備をまったくしていなかったことで、墓穴を掘る場面が多くあります。この対象が特に病院や学校などの場合は、マスコミの風当たりは非常に厳しいものになっています。

「我が社は大丈夫」「自社に限って…」のような思い込みは捨て、他社の失敗事例をケーススタディとして、危機管理の教訓としたいものです。マニュアル通りの危機管理だけではなく、他社がどのように危機を対処したか、どのような判断ミスをしたか、生きた教訓として自己にも起こり得ることと受け止めて、学んでいく姿勢が大切です。

危機管理というと、「国家や自治体、経営者が考えればいいこと、個人ではどうしようもない、関係ない」と考えている人が多いようです。しかし、危機管理は今は個人、一人ひとりの問題です。日本の企業社会ではこれまで、少しくらい法律が守られていなくても文句を言わない(言えない)風潮があり、コンプライアンスが根付かなかったと言われています。牛肉偽装事件や食品ラベルの張り替え事件などでもそうですが、上司の命令を受け取り、会社のために行った行為が法律違反とされて起訴され、懲戒解雇されるようなケースが多く見受けられました。「違法行為を犯さないで経営していくこと」は考えてみれば当たり前のことですが、近年の企業不祥事は、改めてコンプライアンス体制の徹底を突きつけられています。

最近の判例では、経営トップに会社の「リスク管理体制構築義務」を負わせるものもあります。コンプライアンス体制を構築し、実践していなければ、「部下が勝手にした、知らなかった」ことでも責任が問われます。法令遵守はもちろんのこと、社会的な倫理に則した行動かどうかが問われています。「みんながやっているから」「知らなかった」では、すまされません。ルール違反だとわかっていながらも、言い出せずにいた場合、どの程度までなら折り合いをつけられるのか。何をすべきで、何をすべきでないのか、一人ひとりが業務を客観的に冷静に考えて、行動していくことが求められます。

グレーゾーンから犯罪行為に至るまでの危機意識の変化
グレーゾーンから犯罪行為に至るまでの危機意識の変化

リスク要因を洗い出し、把握しよう

危機管理の基本の一つは、「危機を事前に推測して、未然に防ぐこと。危機意識を高く持つこと」です。一人ひとりが危機に対する知識と意識を持ってほしいと思います。具体的には、自分が関わっている仕事の中で、どのような危機が起こりやすいのかを考えることです。そして何が違法なのかという知識を持ち、どの程度なら許されるのか、許容範囲の価値基準を自分で持つことです。

どの企業・組織にとっても、「これが発生したら、確実に(悪い意味での)注目が集まってしまう」と、事前に予想できることはあるはずです。リスクを洗い出し、想定される危機に基づいて、現実に起こり得る事態を想定してみることです。いくら予算と時間をかけて危機の予防を努力しても、事件や事故は必ず起こります。「自分は大丈夫」「我が社は安泰だ」と油断していると大けがの元になります。

緊急事態ではトップのリーダーシップが頼りですが、トップをサポートできるブレーンが強く危機管理を進言していれば、最悪の事態は避けられることがあるかもしれません。

  • (1)自社のリスク要因は何か
  • (2)リスクを回避するためには、どのような対策を講じるべきか
  • (3)万一起こった場合、被害を最小限にするためにどのように考え、どのような準備をするべきか

危機管理対策の必要性を繰り返し訴えていくことは重要です。

緊急事態にトップをサポートできるか?
緊急事態にトップをサポートできるか?

情報の風通しの良い組織に

企業の管理職は、成果や実績だけでなく、危機に際してのリーダーシップや問題解決能力も強く求められます。これは病院でも同じと言えるのではないでしょうか。「臭いものに蓋をする」のではなく、正しいことを正しいと言える職場の環境づくりが必要です。管理職の重要な役割の一つは、時代の価値基準の変化を読み取ること。そして、変化に対応できる組織の価値基準づくりを参加することです。

企業不祥事の多くは、組織内部からの告発により発覚しています。内部告発のきっかけは、直属上司への不満、不信感、恨みからくることが多いのも事実です。もう一度、反社会的行為や組織のルールを逸脱しているような行為がないか、自分自身の行動やチームの仕事の進め方などを点検してみましょう。一方、組織はコンプライアンスの取り組みの中で、内部告発に関する考え方を社員に説明すべきです。「会社が定める規範に反する行為については、これを発見した場合または不注意により自ら行った場合を問わず、速やかに担当者またはコンプライアンス担当顧問弁護士のいずれかに、報告・相談すること」「報告者が報告や相談をしたことで、不利益を被らないようにすること」といった具合です。

組織内でのコンプライアンスの意識の定着は優先課題です。その中で、スピークアップシステムで不祥事を未然に防いでいくことが大切です。ただ、残念ながら実際には、確実に実践できている組織が少ないのが実情です。

今後は保護される内部告発者
今後は保護される内部告発者

危機センサーの感度をアップさせるために

一般に日本の経営トップは危機に弱いといわれます。

原因は大きく捉えれば、これまでの日本の国民性と、それによって形成されている企業組織の風土にあると思います。責任回避の風土が根強く残っているゆえ、緊急事態での危機対応力の乏しさが際立ちます。

弊社では記者会見に臨む前に、「お詫び会見の練習」をサポートをしています。正確にはクライシス・シュミレーション・トレーニングというもので、企業防衛のためのトレーニングです。

企業の危機対応能力向上のために、危機対応の羅針盤を下記に説明します。

1.危機へのアンテナを高く持つ

危機管理はトップマターであり、経営トップの危機意識の高さが危機を回避し、ミニマイズすることを心に刻むこと

2.幅広い見識を持つ

トップを含め幹部社員・管理職は幅広い見識を身につけ、世の中の風潮や流れに敏感になること

3.人間性や倫理観を養う

同時に、人間性や倫理観を大切にし、繁忙や利益追求のあまり、これらを見失わないようにすること

4.ネガティブ情報に感謝する

情報開示とコミュニケーションを大切にし、会社や仕事を思っての率直な発言は闊達に表明し合うことを奨励する社内風土をつくること。特に悪い情報は、絶対に必要部署に早く届くようにすること。

トレーニングが明暗を分ける

どの企業にとっても、事前に予測できるリスクは複数あるはずです。弊社では、想定される危機に基づき、現実に起こり得る仮想シナリオをクライアントにヒアリングしながら、危機シナリオを策定します。シナリオと似たような事件、事故が起こった場合、社会やメディアはどのような観点から突いてくるかを現実に即した想定をしてトレーニングを行います。気づきによって組織の弱点を克服し、また、最悪の事態を想定して、危機対策を準備することの重要さをお伝えすることにより、危機を上手に乗り越えていただく手助けになれば幸いです。

―クライシス・コミュニケーション・トレーニングの概要―
1.危機シナリオの策定

想定される危機を洗い出したうえで、詳細なシナリオを策定

2.想定質問の作成

シナリオをもとに、現実に即したマスコミからの質問を作成

3.模擬会見・インタビュー

コンサルタントが「記者役」となり、本番さながらの会見・インタビューを実施

4.ビデオ・クリティーク

録画テープを見ながら、取材対応者とコンサルタントが問題点を指摘

プロフィール
  • 江良俊郎(えらとしろう)氏
  • 1962年、大分県生まれ。神奈川大学法学部卒。
  • 大手広報会社2社を経て、2001年(株)エイレックス設立。
  • 自動車、金融、IT、医薬、化学、外資系企業など多くの企業の事件・事故、企業不祥事などを担当。危機管理・広報の第一人者。
  • (社)日本パブリック・リレーションズ協会理事
  • 日本広報学会、日本IR協議会会員
  • 【著書/参考文献】
    ビジネスマンのための危機管理術 江良俊郎/著 実業之日本社 他

(企画・取材:石田 和歌子)