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心を守るモンスターペイシェント対策

悪態をつく、診療時間を無視した診療を強要する、医師の助言に納得せず執拗な質問を長時間繰り返すなど、ここ1、2年、急速にモンスターペイシェントが増えてきた実感を持つ医療関係者も多いのではないだろうか。その影響は時として大きい。診療時間が削がれたり、他の患者に迷惑がかかったり、スタッフの士気が下がり退職につながったりすることさえある。クレーム対応の専門家、株式会社エンゴシステムの援川聡(えんかわ・さとる)氏に対応策を伺った。

ケーススタディ〜ある病院にて

いわゆるモンスターペイシェントとはクレーマーを指す。ごり押しによる不当な脅迫的な行為だ。困った患者を通り越し、治療の妨げとなり、究極的には医師やスタッフをうつ状態にし、就業不可能にさせることさえある。具体的な例を挙げて対策を考えてみよう。

ある病院で、急患で深夜に飛び込んできた母子。子どもの体温は37度。ほかに所見はない。当直をしていた脳外科医に母親は食ってかかる。「何で小児科の先生がいないの!あんた脳外科?分かるの?薬出してよ!!」特に病状に問題はないこと、薬は深夜なので最小限しか出せないこと、小児科の医師の診察が希望なら診療時間内に来ることを静かに伝えるが、母親は興奮が止まらず大声を出す。「うちの子に何かあったらどうするの!訴えますよ!薬ちゃんと出しなさいよ!小児科の先生を今すぐ電話で呼んで!」と叫ぶ。その傍ら、重症のぜんそくの患者が救急車で運び込まれる。すぐにそちらの治療に当たるために、医師は中座した。その後、母親は今度は看護師にからみ始めた。看護師が静かに話しを聞いていると母親はしばらくして落ち着きを取り戻し、帰っていった。

このようなケースは、どこの病院でもよくある風景だろう。

「クレーム対応の基本は傾聴と共感です。とにかく共感しながら話をよく聴くことにつきます」クレームの裏にある不安、コンプレックス、こだわり、強い思いなどを汲み取るのだ。

傾聴と共感が第一ステップ

常識で考えればこのような母親の心情は理解しがたいが、「この母親だったらこのように考えて興奮するものだろう」と、共感しながら話を聞くことが早期解決への近道となる。

「もちろん毅然と正論を話すことは必要です。このケースでは、夜は当直医が担当するのですべての専門医はいないこと、状態に異常はないこと、心配なら小児科医が診療できる時間内に来ること、などを静かに話したことはよかったと思います。事実を論理的に伝えることに加えて母親の言い分に耳を傾けると気持ちが収まりやすいです。

急患が来ているという一刻も争う状況を優先させることは当然でしょう。しかしこのような母親に切り捨てる態度を取ると後々大きなクレームを申し立てて、多大な時間を侵食されてしまう可能性があります。後々クレームにならないようにするには、たとえ30秒でも『十分に話を聴いてもらった』と実感を持ってもらえる聴き方をすることです。目を見てうなずいて、一度は患者の言うことを受け入れることです。この『受け入れる』ということが難しいかもしれません。『なんでこんなにわがままなんだろう、早く帰ってほしい』という気持ちを抱くかもしれませんが、『子どもが心配で、診てほしいのだ。育児ノイローゼで疲れているのかもしれない』と相手の気持ちを一度は受け入れてください。初動対応で相手を受け入れて誠意を示すことにより、後々の相手の行動に差が出ます。初めにきちんとした対応をすると早期解決につながります。

それでも話を聞いて欲しいと食い下がってくるようであれば『命に関わる急患が来ていますので、失礼します。何か不明点があれば明日、事務に連絡をください』と時間と場所を変えて組織戦に持ち込むことです。後で解説しますが、組織戦で向き合うことには大きなメリットがあります。時間を置くとモンスターペイシェントは冷静になる可能性も高いです」

もし仮に病院側に落ち度や医療過誤があったとしても、初期動作がすばやく、誠意ある傾聴と共感ができれば、大事に発展する可能性が低くなるだろう。

モンスターペイシェントを鎮めるテクニック

クレーム対策は何よりも毅然とした態度で共感と傾聴が基本だが、さらに段階を踏んで言葉を変えていくテクニックもある。

「なかなか納得をしないでごねる人には段階的に言葉をきつくしていくとよいでしょう。例えば以下のように進めます。

  • (今話したことを)どうぞご理解ください。
  • 急患が来ているので、失礼します。
  • 患者を公正公平に対応しないといけないのであなただけを特別扱いはできません。
  • これ以上の対応はできません。
  • 業務に支障をきたします。
  • 業務妨害で警察に通報することになります。

『警察』という単語で我に返り、冷静になるケースはよくあります。逆に警察という言葉を聞いて逆上興奮する人もいます。冷静かつ毅然とした通知が重要です」

さらに相手の気持ちを鎮めるテクニックとして”謝罪”が有効だ。

「件の母親の場合、病院側には落ち度は一切ありませんが、興奮させ、不快感を与えてしまった事実に対しては謝罪します。病院や医師の対応を詫びるのではなく、母親に不快感を与えた一点に対してお詫びするのです。例えば『こちらも精一杯やっているのですが、(不快感を与えてしまって)すみません』とひと言謝罪があるとモンスターペイシェントの感情は鎮まりやすいです」

落ち度がないのに謝れば、病院側に落ち度があったと誤解して付け上がりそうな気もするが、興奮している事実への謝罪は意外に効果があるそうだ。対策テクニックとして知っておいて損はない。

怒りをエスカレートさせる行為

話を聴くことと謝罪が気持ちを鎮めることであれば、反対に患者を増長させる行為はなんだろうか。

「一つは相手の土俵に上がり、同じようにいきり立ってしまうことです。相手が大きな声を出すとつられてこちらも大きな声になりがちですが、こちら側はあくまでも冷静に、呼吸を整えたままで話してください。

二つ目は相手の話を中断し、伝えたい気持ちを満たせない状況を作ることです。先ほどの例にも出てきましたが傾聴と共感は何よりも大事です。話を遮られると誰でも気分のいいものではありません。興奮しているときに遮ると火に油をそそぐような事態になりかねません。三つ目は責任転嫁をすること。『私のせいではない』などの言い訳はハードクレームに発展させる危険性があります」

日ごろから対応策を院内で話し合って共通認識にしておくといいだろう。そして組織で協力しあい一丸となって対応する必要がある。

組織戦の重要さ

「モンスターペイシェントは『スタッフがばらばらでまとまりがない』というところをついてきます。なんとなく医師と看護師のチームワークが悪そうなクリニック、事務スタッフの一人ひとりが孤立しているような雰囲気だとクレームが通りやすいと思われてしまいます。スタッフ同士の意思の疎通が図れていて数人対一人の構図となるとやりにくいのです。スタッフの一人が攻撃されたにも関わらず援軍がいないと強気で押されます。

スタッフにとって、自分一人でモンスターペイシェントに対応することはかなり気が重いことです。クレーム対応という病院の評判に関わるような重大な任務を独りで背負う不安感は、度を越すと神経が参ってしまいます。

したがってある”一線”を越えた場合には二人以上で対応します。例えば、クレームを聞くときは必ず二人で対応し、一人が聞き役となり、もう一人がそれを記録するといいでしょう。刑事が容疑者を取り調べるときも必ず同僚の刑事が記録係となります。記録として残す立証措置の必要性がありますし、同席する同僚がいることにより何よりも『味方がいる。独りではないんだ』という安心感がもたらされます。スタッフの心を守ることにつながります。

そのある“一線”の基準をどこに置くかなど、日ごろから院内で話し合い、簡単なマニュアルを作成するといいでしょう。日ごろから、ロールプレー研修などでイメージトレーニングを行うこともお勧めします。

初期対応や組織戦で解決できる患者がほとんどだと思いますが、中には精神病を患った方や、明らかに補償金目当ての悪質な恐喝のケースもあります。精神病患者には先方にも組織で対応してもらえるようにご家族の協力を求めることから始まります。恐喝のケースは、決して金銭を渡さずに警察へ通報してください。

最後には院長や理事長、経営者が対応することになると思います。そのような立場の方も、弁護士やコンサルタントなどとこまめにやりとりをし、日ごろから相談できる体制を整えておくとよいでしょう。私は不安な社会情勢の中で、有機的な連携を援護し、元気な現場職員を支えていくことが使命と感じています」

心を守る呼吸法

モンスターペイシェントの大きな弊害はスタッフの心身が参ってしまうことだろう。

「医師もコメディカルも心が折れるようなことのないように自分自身を守っていただきたいです。毅然とした態度で接するコツとしては、呼吸法の訓練が役に立つと思います。丹田(臍下5センチのところ)に意識が定まっていることを意識確認するだけでだいぶ違うと思います。日ごろから丹田を意識した呼吸法で精神的にタフに体を作っておくことも対策の一つでしょう。呼吸法は松坂大輔選手ほかプロのスポーツ選手も取り入れているので、心を強くする効果は大きいと思います。呼吸法の書籍なども多く出版されているので参考にしてみてはいかがでしょうか」

援川聡氏より動画メッセージを頂いています。(1分9秒:4.16MB)


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  • 【著書】
    『クレーム処理のプロが教える断る技術』 (幻冬舎2004年12月)
    『困ったクレーマーを5分で黙らせる技術』(幻冬舎2007年10月)
    『知識ゼロからのクレーム処理入門』 (幻冬舎2008年6月 弘兼憲史 共著)
    『クレーマーの急所はここだ!』 (大和出版2008年7月)

2009年10月7日(企画・取材:阿部純子)