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第7回:「診療所における感染性廃棄物について」

〜在宅医療を行う立場から〜

(株)エムイーネット 代表取締役 中村哲生氏


 今回のスペシャリストは、平成14年10月現在7つの診療所のアウトソーシング事業を行っている螢┘爛ぁ璽優奪箸涼翅偲生氏。サポートしている各診療所では在宅医療を行っており、在宅医療で発生した廃棄物の処理への問題点について積極的に取り組んでいる。在宅医療を行っている診療所の立場から、感染性廃棄物処理における、現在の問題点、診療所の取組み、今後の課題についてお話を伺った。


現状の問題点】

(曖昧な基準)
 在宅医療における感染性廃棄物の扱いは、医療従事者と患者、双方の安全性に関わってきます。しかし、廃棄物の定義自体が曖昧であり、同じものでも、扱う市区町村で処理に関する基準が異なったり、排出された場所で処理のされ方が異なってしまうということが問題だと思います。又、統一の動きもありません。在宅医療で発生した廃棄物の処理に関してのマニュアルを見ている人はほとんどいないでしょうし、実際、医療機関としてもどうしていいかわからないでいるところが多いと思われます。対応も医療機関ごとにまちまちでしょう。

(例1:注射針)
 東京都では針のような鋭利なものは全て医療機関で持ち帰ること、それ以外は一般ゴミとして捨ててよいとしています。
 一方荒川区では、針にもリキャップさえすれば一般ゴミとして捨ててよいとしています。
 このように東京都と市区町村でも統一されていません。
 

表1.鋭利なものの取扱い例
東京都 荒川区
針のような鋭利なもの 全て医療機関で持ち帰る リキャップをすれば一般ゴミとして捨ててよい
それ以外 一般ゴミ 一般ゴミ

(例2:紙おむつ)
 紙おむつの取扱いをとっても、本来対象物ごとに統一されているべきであるのに、排出された場所で取扱いが違う。どれも病気を持った患者が使った紙おむつであっても、病院から出されれば「感染性廃棄物」、老人ホームから出されれば「産業廃棄物」、在宅であれば「一般廃棄物」となるのです。感染性廃棄物は1kg当たり300〜400円で引き取ってもらいます。産業廃棄物は有料シールを貼って出せば良いことになっています。一般廃棄物は無料でそのままゴミの日に出せます。このように同じ対象物であってもかかるコストが異なってくるのです。しかし、本来なら法律の中で「こういうものはこういう処理」と統一されるべきです。

表2.紙おむつの廃棄物としての取扱い例(東京都内)
排出元 扱い方 処理コスト
病院 感染性廃棄物 300〜400円/kg
老人ホーム 産業廃棄物 有料シール
患者宅 一般ゴミ 無料

  • 東京都では紙おむつについた汚物をトイレで流したあと、紙おむつだけを一般ゴミとして捨てて下さいとしています。
  • 紙おむつは水分が多く、なかなか燃えないものです。普通のものは350〜400度で焼却できるのですが、紙おむつは水分が多いため600度以上の高温で、蒸し焼きにする必要があります。また焼却炉も一般の焼却炉では炉の底面は温度が上がらないので中が回転しているロータリー機能のものが最適です。

 講演先で、在宅医療現場の人からいろいろなケースの質問を受けるのですが、どれについても「現状として答えは無い」としか言いようがありません。なにしろ、国で定めた基準が無いし、市区町村でも基準が異なります。おそらく市区町村に聞いても明確な答えは出ないでしょう。皆どうしていいかわからないでいる、という印象が強いです。訪問看護ステーションの方からは「処理費用はどこからも出ないのです。だから患者さんの方で捨て下さいとお願いしています。」といった話も聞きます。

(リサイクルのむずかしさ)
 廃棄物問題ではリサイクルへの取組みも重要になってきます。在宅医療からは離れますが、医療機関の中で唯一リサイクルできていたのはレントゲンのフィルムでした。以前は、レントゲンのフィルムには銀が含まれているので、それを抽出・加工できるということで、廃棄物処理業者とは別の業者ですが、業者側が買い取り、リサイクルされていました。しかし、技術の進歩によりフィルムの銀含有量が減ってしまい、抽出するほどの価値がなくなってきました。現在では買い取る業者は無くなり、逆に1kgあたり100円程度を排出側が支払うようになっています。
 レントゲンフィルムは病院で5年間保存しておかなければならないため、患者ごとに氏名を記入した紙袋に入れて保管されています。今でもフィルムを無料で引き取ってくれる業者はあるのですが、引き取ってもらうためには、医療機関側で紙袋の中からフィルムだけをとりだして、分けて提出するという手間がかかります。尚、紙袋の方は産業廃棄物になります。

(医療機関内での処理)
 以前厚生省は、「廃棄物処理法に基づき、医療機関においては、汚物処理施設として最小限の焼却炉は設置すべき」としていました。しかし、ダイオキシン問題が起きてからは、医療機関内での焼却は禁止になりました。ダイオキシンは400度位まで上昇した時や、600度位から下がってきた時など、つまり焼き始めと焼き終わりに発生しやすい。1000度位で24時間焼き続けていれば発生しません。しかし、病院が現実的に購入可能な1000万〜2000万円レベルの焼却炉ではそういう処理はできません。そこで処理業者に委託する必要性がでてきました。その委託業者の選定基準についても、明確な目安がなく、問題となっています。


【診療所の取組み例】

(回収方法)
 私たちのエムイーネットが運営サポートしている、ある診療所の患者さんは約250人です。当初は、在宅で発生した廃棄物をどうしていいか分からずに、大きな紙袋に全部入れて持ち帰ってきていましたが「危ないなぁ」という思いがありました。又、末期がんの方ですと継続的に医療による廃棄物が出ます。そこで患者さん側で、点滴に使ったビニールや管は紙袋に入れて、針は専用の容器やコーヒーの空き瓶などを利用してというように、別々に保管しておいてもらうようにしました。
 通常、医療機関では、二次感染防止の観点から注射針の「リキャップ」は禁止されています。しかし針刺し事故防止の観点から、在宅で使用した注射針には「リキャップ」をしてもらって回収しています。それでも看護師の話では、仕分けの際に、患者の家族の方がした注射針のリキャップが甘く、針を刺しそうになり、ヒヤッとしたことがあるようです。

(コスト)
 針は図のような40リットルサイズのペール缶に入れています。当診療所では、1年間にこの缶が3〜4缶、感染性廃棄物として出され、処理費用は約3万5千円です。ビニールの方は産業廃棄物として出され、年間約9万円の処理費用がかかっています。
 もし仕分けをせずにビニールもすべて感染性廃棄物として出したら、コストはもっと多くなります。仕分けをすることで経費削減が可能になるのです。
 経営者の立場としては、従事者には、廃棄物の危険性に対する意識とともにコスト意識も高めてほしいと思います。従事者がきちんと仕分けをしてくれれば処理コストは下がるのですから。

図1.シャープセーフ
(大きさに関係なくほぼ300〜400円/個。最近は各種メーカーから販売されている)


図2.ペール缶の使い方 
(出典:「在宅医療の新たな潮流」大塚クリニック)


(病理廃棄物の扱い)
 患者さんの病態によって出てくるゴミの内容も異なります。例えば病理廃棄物(糖尿病の方が壊疽を起こしたものなど)。今まで7年の間にわずか2例ですが、ありました。このようなものはそもそも在宅医療では発生しないと思われているのでしょう。取扱いの定義が全くありません。しかし、実際そのような廃棄物を出す可能性のある方が、病院から退院して在宅にいるのです。褥瘡による病理廃棄物(デブリードマン)が発生するケースも在宅療養患者には多いと思われます。このようなものは悪臭が強いため、臭いがでないように完全に密封して持ち帰ります。そしてペール缶がいっぱいでなくても、処理業者にすぐに引き取りにきてもらっています。


【今後の課題】

(法的整備)
 まず一番進めてもらいたいのは法的な整備です。ルールが出来れば皆その通り従うでしょう。ルールがないから、不法投棄などの問題が起こっているのです。医療機関の経営状態は決していいとは言えません。少しでも安い処理業者に頼むのはやむを得ないことです。

(処理業者の選定方法)
 排出者責任は厳しくなっています。個人に対する罰金の上限は10万円から1000万円へ上昇しました(法人の場合最高1億円)。しかし、処理業者を選ぶ立場からすると、どこが良い業者でどこが悪い業者か皆目見当がつきません。今、目安になるのは値段だけです。かといって、その値段できちんと処理されているという保証は無い。しかしマニフェスト(管理票)を出してくれたら、きちんと処理されているものだと思うでしょう。
 普通は処理するのにゴミ1kg当たり人件費が100円、運賃100円、焼却費100円必要だと言われています。つまり最低でも300円/kgかかるわけです。ですから、もし150円/kgで処理するという業者があればその処理状況には疑問を抱かざるを得ません。
 大多数の院長先生は医療廃棄物にかかる費用の適正価格はご存知ないと思います。見積もりが出てきたら、コスト面から安い業者を選ぶ、それが通常でしょう。ですから、今後は安全な業者の一覧表などが出来てくればよいと思います。

(患者・家族にわかりやすいマニュアル)
 厚生労働省は在宅医療を推進しているのですから、一般の人が見てわかるようなマニュアルを作ってほしいと思います。
  • こういうものはこういう処理をして下さい
  • こういう場合は医療機関に相談してください
  • これは捨ててもいいです
  • こういうことをしてはいけません
  • こういうことをするとこのようなペナルティがあります

などです。こうしたことがわかるようなマニュアルを市区町村が作成して医療機関に配布し、医療機関から在宅医療を始めた患者へ持っていけるようなシステムを作ってほしいと思います。
 廃棄物に関して、現在あるマニュアルは、大体、ゴミ全般に関する取扱いが書かれているもので、途中に2ページぐらい在宅医療に関する記載がある程度です。そのような形ではなく、2〜3ページのものでいいので「これから在宅医療を受ける方へ」といった単体の手引書があればいいと思います。こうしたものを医療機関ではなく各市区町村が、自分たちのゴミ処理の方向性として、示してほしいと思います。これによって医療従事者の方も留意するようになるでしょう。

(医療従事者の安全性)
―バイオハザードマークの色の意味
 感染性廃棄物の運搬容器には関係者が識別できるようにバイオハザードマークを付けることが推奨されています。また、性状に応じてマークの色を分けることが望ましいとされています。
赤色:液状又は泥状のもの(血液等)
橙色:固形状のもの(血液等が付着したガーゼ等)
黄色:鋭利なもの(注射針等)

 このようなことをはじめ、適正な処理金額、適正な処理方法などは、医療従事者のほとんどの方が知らないのではないでしょうか?というより、勉強する機会すら与えられていないのが現状でしょう。
 廃棄物に関する知識の試験を定期的に行うのも良いでしょう。今は廃棄物を処理する人が任意で講習を受けているというのが現状ですが、義務付けが必要だと思います。



 本ネットワーク事務局で、新宿区が一般に公開している「医療廃棄物の取扱い」をホームページで閲覧してみた。すると、「在宅医療で使用した注射針、鋭利なものを排出する場合、主治医にご相談の上、処理してください」となっている。また、「医師が在宅医療で使用した注射針等鋭利なものは、医師が持ち帰り、医療機関から排出」とある。
 同じ東京都であっても、今回紹介していただいた荒川区と比較しても、基準が異なるというのは、安全を目指す方向として如何なものだろうか。患者同士で情報交換の際など、混乱したりしないだろうか。
 感染性廃棄物の取扱いについて、関係機関・団体が相互協力して、早急に明確な対応策を作成すべき時期に来ているのではないだろうか。