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国立国際医療センター 転倒・転落事故防止対策

入院患者の転倒・転落インシデント防止は医療機関、とりわけ看護部門にとって永遠のテーマである。転倒・転落インシデントは外傷や骨折につながり、患者のQOLに大きな影響を及ぼす。しかし、医療機関の取り組みにもかかわらず、転倒・転落インシデント事例は増加傾向にあるのが現状だ。ここでは、わが国における国際医療の中核を担うセンターとして1993年に設立され、わが国唯一の国立の総合病院として先駆的医療法の開発とその実践を通じて高度総合医療を推進する役割を担っている国立国際医療センターにおける転倒・転落アセスメントスコアシート導入の取り組みを紹介する。

盛 真知子さん
盛 真知子さん

転倒・転落ゼロ作戦プロジェクトを立ち上げ

同センターは2005年2月、看護部長の命により、当時専従の医療安全管理者だった看護師長の盛真知子さんや副看護師長を中心に「転倒・転落ゼロプロジェクト」を立ち上げた。30病棟に訪問調査を行い、2004年度の転倒・転落インシデントレポート392件を分析し、センターにおける傾向を分析して対策を立案した。その結果、病棟ごとに異なっていたアセスメントスコアシートに改善を加え、活用手順を統一して使用することとした。改善したアセスメントスコアシートを用いて1年間運用し、スコアシートの評価項目が同センターの実情に合っているものかどうか、スコアに適したケアプランが実施されているかどうかを追跡調査した。

平成14年からの入院患者さんの実際の転倒転落状況
平成14年からの入院患者さんの実際の転倒転落状況
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平成18年8月から9月の転倒転落報告状況
平成18年8月から9月の転倒転落報告状況
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平成18年8月から9月の転倒転落が起きた場所
平成18年8月から9月の転倒転落が起きた場所
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平成18年8月から9月の転倒転落時の年齢
平成18年8月から9月の転倒転落時の年齢
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転倒転落防止アセスメントスコアでの転倒転落した患者さんの状況
転倒転落防止アセスメントスコアでの転倒転落した患者さんの状況
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同センターでは、入院患者の高齢化率が非常に高いことが特徴である。2001年度から2005年度までの高齢者占有率は、70歳以上では10.6%から13.6%へ3ポイント増加、85歳以上では4.6%から6.1%と1.5ポイントもの上昇がみられる。

盛さんによると、「住民の高齢化が進んでいるためではないか」という。近隣の都営戸山団地は1955年の建築であり、開発されてからかなりの年月が経っている環境であることは間違いない。勢い住民の高齢化も進んでおり、入院患者の高齢化率が上昇する一因にもなっている。

同センターの「転倒・転落ゼロプロジェクトがまとめたところによると、2004年度1年間の転倒・転落事故は571件だった。毎月にならすと50件前後の発生件数ということになるが、入院患者の高齢化率の上昇と歩調を合わせるかのように、徐々に増加傾向にあることが気になるところだ。重篤な例では、転倒による脳出血、大腿骨や頚部骨折などがあり、目が離せない。

転倒・転落事例の多くがトイレ関連

盛さんによると、「ベッドから落ちた」「歩行中に転んだ」などのインシデントは「移動」しようとして起きる事例が多い。また移動の目的では圧倒的にトイレ関連である。「トイレに行こうとした」、あるいは「トイレから戻る途中」というわけだ。このトイレ関連による事故は全体の3割を占めている。高齢患者が多いだけに「転んだことが認識できない」人もいる。入院患者にとってベッド回りは療養の場であるとともに、「生活の場」でもある。看護師にとっても目が離せない状況ではあるが、マンパワーの問題もあり、かかりきりというわけにはいかないのが現状だ。

また、「トイレは自分の問題なのでできるだけ自分で対処しようとする人が多い」こともある。「人間は、物心がついた時から1人でトイレをすることが習慣になっていますから、自分だけでしようとする人が多いのです」と盛さん。

アセスメントスコアシートを統一

さて、同センターが2005年12月から導入した統一項目による転倒・転落アセスメントスコアシート。従来、各病棟でバラバラのスコアシートであったために、統一的な対策がとり難いきらいがあった。そこで、同センターのオリジナルではなく、横浜市立病院のスコアシートを紹介してもらい、このスタイルを踏襲して国立国際医療センターのスコアシートを作成した。統一したスコアシートの特徴は、転倒・転落に、原因や重要度に応じて1~3までの点数をつけていたのを、全て1点としたこと。また、看護師の"勘"を重視してスコアに入れたことだ。特に後者に関しては、「自分だけの感じ方かも知れない」と1人で悩んでいる看護師が多いことを考慮したものだ。

転倒・転落の危険防止対策

☆シフトが替わるごとに担当者は以下のチェックをする

  危険度 I 危険度 II 危険度 III
患者の観察
  1. アセスメントスコアの項目に従い、活動、認識力の状態を把握しアセスメントする
  2. 薬剤(鎮痛剤、睡眠安定剤など)の服用後はその影響を把握しアセスメントする
  3. 排泄の頻度、時間などのパターンの状態を把握しアセスメントする
危険度 I に加えて
  1. 病状、手術、検査などによる全身状態の変化を予測しアセスメントする
  2. 患者の状態に合わせて、巡視をする
  3. 患者の状態に合わせて、病室の選択、ドアの開閉などを検討する
危険度 II と同様
環境整備
  1. ベッドの高さは患者の膝が 90度になる位置にする
  2. ベッド、オーバーテーブル、床頭台ストッパーが固定していることを確認する
  3. ベッドの周囲に障害物がないようにする
  4. ナースコール、点滴台などが適切な位置にあるか確認する
    ポータブルトイレは使用時以外室内に置かない
  5. ルート類の整理をする(ラインは長すぎないようにする)
  6. ベッド棚は2点使用する
危険度 I に加えて
  1. ベッドの高さは一番低くする
  2. 洗面台やフットランプなど安全を確保できるような照明を工夫する
  3. 患者の身の回りや床頭台には○○がある、と確認し整理する
  4. 安全ベルト着用の検討
  5. 転倒、転落防止対策センターの検討をする
  6. ベッド棚は2点以上の使用を検討する
危険度 II に加えて
  1. ナースステーションの近い目が行き届く部屋に移動する
  2. 頻回にトイレ歩行する患者は夜間のみポータブルトイレを使用するか、トイレに近い部屋に移動する
  3. ナースコールを押さない患者には、転倒・転落防止対策センサーを使用する
  4. ベッド棚を3点以上使用する
    (ただし棚を乗り越える危険性がある場合は4点にはしない)
指導 ・ 援助
  1. 排泄パターンに基づいた誘導
  2. 適切な衣類、履物の選択の指導
  3. ベッド周辺の、器具、装置、ナースコールなどの使用方法の説明
  4. 患者、家族、チームメンバーと事故の危険性を共有し、理解を得る
危険度 I に加えて
  1. ナースコールにすばやく対応する
  2. 患者に理解できるよう相手のペースに合わせた充分な説明を行う
  3. 患者歩行時の歩き方などの指導と見守り
  4. 正しい技術でトランスファー介助を行う
  5. 日中の離床を促し、昼夜のリズムをつける
  6. 車椅子乗車中は、看護師の目の届く範囲に移動し見守る
  7. 排泄介助の場合には終了まで目を離さない
危険度 II と同様

☆ 介護用品(タッチガード、ベスト型抑制帯)、転倒・転落防止対策センサー使用時は、
医師の指示のもと患者、家族に同意を得ること。また、使用開始を終了時を記録に残す。

転倒・転落ゼロプロジェクト 2005.3

国立国際医療センター 転倒・転落アセスメントスコア

病棟     患者氏名          科    歳  男 ・ 女

  入院日 翌日      
項目  
年齢 70歳以上          
既往歴 評価日より一ヶ月以内に転倒・転落をした          
感覚 眼鏡やコンタクトレンズを使用しないと日常生活に支障がある          
大きな声を出さないと聞き取りにくい          
機能障害 麻痺がある          
しびれがある          
骨、関節に変形・痛みがある          
活動
足、腰の弱りがある          
立位、歩行時にふらつく          
歩行、移動時、車椅子、杖、歩行器を使用する          
車椅子、ポータブルトイレに移動時に介助を必要とする          
ルート類・各種ドレーン類が挿入されている          
認識力 認知力の低下がある          
必要時ナースコールを押せない(押さない)          
一度話した内容を忘れてしまう          
混乱 不穏行動・せん妄がある          
薬剤
鎮痛剤を使用している          
麻薬を使用している          
睡眠安定剤を使用している          
向精神病薬を使用している          
抗パーキンソン剤を使用している          
降圧利尿剤を使用している          
排泄
尿便失禁がある          
夜間3回以上トイレに行く          
尿器、ポータブルトイレを使用している
ベッドサイドで排泄をしている
         
生活 一人暮らし等、他者に依存しないで生活している          
その他 転びそうだなぁ~と思う看護師(私)の勘          
合計          
危険度          
サイン          
アセスメントスコアの使用方法
  • 入院日、翌日、入院一週間後、転入翌日、転倒・転落のリスクが高いと感じた時、転倒・転落日に判定する
  • スコアシートのチェックにより危険度を判定し、転倒・転落の危険防止対策に沿って医療チームで予防策を検討する
  • 危険度 II 以上の患者に対しては、看護計画を立案する
  • 看護計画の評価日にはアセスメントスコアを見直す
採点
危険度 I

スコア0~7点
転倒・転落を起こす危険がある

危険度 II

スコア8~11点
転倒・転落を起こしやすい

危険度 III

スコア12点以上
転倒・転落を起こす危険性がかなり高い
入院後、転倒・転落あり
(ただし病状から自力で動くことが出来ず、転倒・転落の恐れがないと判断した場合は危険度 I とする。)

転倒・転落ゼロプロジェクト 2005.3

次に、スコアシートの活用状況と看護ケアプランの実施状況を調査した。具体的には看護師と患者の双方にアンケート調査を行った。調査の内容は、スコアシートに基づいた看護ケアプランができているかどうか。患者にはキチンと説明できているか、転倒・転落防止対策を活用しているか―などである。

調査の結果、『危険度II』に該当する患者については「看護プランを作成している」が80%を占めるなど、概ね活用されている状況が明らかになった。しかし、入院患者への『入院患者へのしおり』というパンフを使った『お知らせ』については50%にとどまった。この点について盛さんは、「患者の意識レベルが低下してしまったり、緊急入院の場合にお知らせできなくなったことがあるようだ」と話す。また、防止対策についても活用事例は50%だった。防止対策では、医薬品に絡む内容もある。睡眠導入剤のレンドルミンには、めまいやふらつきなどの副作用が発現することがあるが、こうした医薬品を処方した患者に対するケアの必要性を医薬品情報に掲載して注意を喚起するなどである。

盛さんによると、インシデントレポートの報告件数は2004年から2005年にかけて1000件以上増加しているが、同院の高齢者の占有率が高くなっているにもかかわらず、さほど増えていない。盛さんは医療安全対策委員会活動で、

  1. アセスメント実施の意義を教育し、アセスメントシートの活用を推進したことで、アセスメントの実施率が向上した
  2. 標準化した転倒防止チェックリストを作成したことで、個々の看護師の判断で行う転倒防止対策が減少した
  3. アセスメント、患者・家族への説明、転倒防止対策の実施、などの実施率が向上した結果、転倒指数が減少した

と評価している。

このほか、看護師長会では看護師を対象に「転倒・転落防止」をテーマにした報告会で転倒のシーンなどを演じて注意を喚起する活動を行っている。昨年は3回実施した。今後の課題について盛さんは、「アセスメントスコアシートのインシデント事例の分布を分析してよりグレードアップしたものにしたい」と語る。

取材・企画:藤田 道男

カテゴリ: 2007年8月24日
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