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患者と向き合うためのコミュニケーションの基本

患者との意思疎通が上手くいかないために、苦情やトラブルにつながることがある。東海大学医学部(神奈川県伊勢原市)では、9月から学生向けにコミュニケーショントレーニングを開始した。「話す力」と「聞く力」を身につける講座内容は、医師の卵だけでなく、医療現場にも役立ちそうだ。

「医学教育には話し方や聞き方を学ぶ講座はなかった。自分の言ったことが患者にきちんと伝わり、患者の話しを理解できるような、コミュニケーションの技術を学んでもらいたい」と、講座を企画した東海大学医学部医学教育・情報学教授の灰田宗孝さんは言う。

東海大学医学部医学教育・情報学教授の灰田宗孝さん

東海大学医学部医学教育・情報学教授の灰田宗孝さん

講座の対象は、医学部1年生の約90人。2クラスに分かれて、1回3時間、合計5回のトレーニングを受ける。講師はNHK放送研修センターのアナウンサーで、実技を中心とした指導が行われる。

第1回目は、自分の話し言葉の点検と、相手に伝わりやすい話し方がテーマ。生徒らはそれぞれが関心を持っている話題を人前で1分以内に話す。それらはテープに録音され、後で再生されたものを聞き、感想を述べ合う。

「喋り方の癖は他人に言われないとわからないが、テープを聞くことで気づくことが出来た」「これまで相手にどんな風に伝わっているかを考えて話したことがなかった。どう話せば相手に伝わるかがわかり、役立つ」と、生徒らの講座に対する評価は上々のようだ。

コミュニケーショントレーニング講座を受ける医学部の学生達。

コミュニケーショントレーニング講座を受ける医学部の学生達。
「実技が中心の講義は、緊張するがおもしろい」という。

講師を務めた岡留政嗣さんによると、相手に伝わる話し方のポイントは、(1)結論から先に話す、(2)項目を明確にして話す、(3)具体的に話す、(4)短いセンテンスで話すというもの。反対に要領を得ない話し方は、「だらだらと長くて切れ目がない」「独り言のようで、内容がよく聞こえない」「抽象的な話しばかりで、具体性がない」などだ。

相手にわかりやすく伝えなければ、情報伝達にはならない。それには話し方、声の大小やトーン、内容の組み立て方にも留意することが必要だという。

第3回目のテーマは、どう聞くか。生徒は2人1組になって、相手の話しを聞きながら、その要点を整理し、関連した質問をする。

2人1組になって、相手の話しを聞く訓練をする。

2人1組になって、相手の話しを聞く訓練をする。
右側が講師を務めるNHK放送研修センターの
エグゼクティブ・アナウンサーの半谷進彦さん。

「聞くというのは、実はとても積極的な行為なのです。集中力を必要とし、相手の話していることの要点を理解する力が問われるからです。人はそもそも自分のことを話すのが好きですから、相手の話しを自分が話すためのきっかけにしてしまうことが多い。その結果、相手が話したいと思っていたことと、異なる方向に話しがそれてしまうのです」と、講師の半谷進彦さんは説明する。

大事なのは、相手がどういう思いでその話しをしているのかを、話し手の立場に立って考えることだともいう。そのために、うなずきやあいづち、相手の話しの反復、視線、質問、メモをとることも効果があるようだ。

「コミュニケーションは相手が主役。情報は相手が持っています。まずは、それを受け止めることが大事なのです。正確に相手の話しや意図していることを聞かなかったために、事故につながることもあるのですから」(半谷さん)

講座では、この他にも敬語の使い方を学ぶ。最終日には、筆記やスピーチの試験が行われる。

「医師がインフォームド・コンセントをしたつもりになっていても、患者には十分に伝わっていないというケースは多い。それがきっかけで訴訟に至る場合もある。講座を通して、 患者とのコミュニケーションをはじめ、病院内の職員との情報交換などにも役立てて欲しい」と、灰田さんは生徒らの将来に期待している。

(参考)東海大学 医学部生のためのコミュニケーショントレーニングプログラム

テーマ 項目
(1) ことばは伝わっているか オリエンテーション(この講座の目指すもの+スケジュール)
話しことば点検
「パブリックスピーキング」
話しことばの特徴(聞き手が主役)
組み立てる(結論が先)
項目分け
(2) わかりやすく話す 的確に伝える
情報の整理
具体的に話す
適切なことば選び(専門語、漢語、外来語)
事実と意見を区別して
(3) どう「きく」か 聴き取り、訊き出す
意味をきく(要点をきく)
意図をきく(言っていることより、言いたいことをきく)
掘り下げる(疑問点をきく)
実践:相手の言いたいことをきく
(4) 敬語を身につける 仕事の場にふさわしいことばで話す
「敬語の決り」と「心配りのことば」
尊敬・謙譲・丁寧
間違いやすい第三者敬語
  敬意表現
瞬発力をつける(ロールプレイ)
(5) 実践"わかりやすく話そう" 筆記試験
解説・採点
1分半スピーチ(テスト)
(録音再生・点検)
カテゴリ: 2003年10月14日
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