医療法人橘会 東住吉森本病院
医療安全管理室 室長 石津真由美氏
施設規模の大小や立地の違い、標榜科目などに関わらず、医療機関の職員に対する患者のカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)が近年、大きな社会問題となっている。こうしたなか、医療法人橘会 東住吉森本病院は組織的な対応を打ち出すことでカスハラ事案を減らし、職員の心理的安全性を高めることに成功した。従来、各部署や各部門で行われていたクレーム対応を標準化し、警察OBやメディエーターを含む専門チームが対処するようにしたことが功を奏したものだ。取り組みの概要は2025年11月に開かれた『第20回医療の質・安全学会学術集会』で報告された。「カスタマーハラスメント対応マニュアルの作成と実践」と題して講演した同院医療安全管理室 室長・石津真由美氏の発表内容を紹介する。
カスハラ対応の「標準化」に挑む
カスハラは職員の心理的負担を増し、業務に悪影響を及ぼす重大な社会的課題です。当院では2021年以前、寄せられるクレームに関しては各部署で対応していました。しかし、それは対応のばらつきや職員の精神的負荷を増やすばかりでなく、長時間の拘束や業務中断などの問題を引き起こしていました。
そこで、カスハラへの組織的な対応体制を構築し、再発防止と職員の心理的安全性を確保することを目的に動き出しました。
取り組みの第一歩として、カスハラ対応を標準化するため、具体的な対応手順を「患者サポートチーム」で作成しました。患者サポートチームのメンバーは、警察OBや警備員を含む「安全管理室」、メディエーターを含む「医療安全管理委員会」、「MSW(医療ソーシャルワーカー)」です。
実際の事案を想定した対応マニュアルと対応フローはサポートチーム全体で作成し、委員長、副委員長、管理部長らでつくる運営会議で承認後、医療安全管理委員会が院内研修や啓発ポスターの掲示などを進めました。
マニュアルには『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』(厚生労働省、令和4年)を参考に「カスハラに相当する行為」として13項目を明記し、定義づけました。
13項目には「大声による罵倒、暴言またはにらみつける、立ちはだかるなどの威圧的な言動等により、他の病院利用者や病院職員に迷惑を及ぼすこと(尊厳や人格を傷つけるような行為)」「一方的な主張等で長時間(20分以上)話し続ける、明らかに不要な複数回の架電により、病院業務に支障を与えること」「その他、医療に支障をきたす迷惑行為」などが含まれています。
クレームの長時間を「20分以上」と定義
部署で対応する際のクレームについて、厚労省の資料に書かれていた「長時間」が解釈しづらく、曖昧であったため、私たちは「20分以上」と定義しました。医療保険制度におけるリハビリの一単位が20分であることに準じたものです。
カスハラに相当する言動で多かったのは「誠意を見せろ」「院長を出せ」「当事者を出せ」「SNSで拡散する」「謝って済むことじゃない」「出るとこ出ていいのか」などです。
対応マニュアルに沿った具体的な流れを見ていきましょう。院内で暴力、暴言、迷惑行為や20分以上のクレームが発生した場合、当該部署は患者サポートチームに連絡します。
患者サポートチームは内容によって警察OB、警備、メディエーター、MSWに連絡します。緊急を要する暴力行為は直接、警察OBか警備に通報します。警察OBは警察介入か退去を命じます。その際は2名以上で対応することを原則としました。
メディエーター、MSWは面談日程を立てます。即時対応か後日に改めるかは状況によります。こちらも2名以上での対応を原則としています。
管理サポートチームは介入後、報告書、面談記録を運営会議に提出します。医療安全管理委員会は情報を運営会議と共有します。
運営会議では、報告書を確認し、当該患者が「情報共有のみ」「外来診察のみ可」「救急独歩診察のみ可」「診察・入院不可」のいずれにあたるかを判断し、警察OBにフィードバックします。
警察OBはその結果をカルテに記載し、必要時には当該患者へ通達します。
医療安全管理委員会は対応状況共有やマニュアル改定、研修・マニュアルの周知などを行います。
サポートチームへの報告は3年間で49件
こうした取り組みの結果、2022年4月から2025年3月までの3年間で、患者サポートチームへの報告は49件、うちチーム介入事例は13件でした。
未介入の36件は「部署対応のみで終わった」「連絡が取れない」「本人、家族による謝罪あり」「自己都合退院」などです。
この取り組みを導入したことで、これまで対応していた各部署の負担は軽減しました。また、体制構築後、カスハラ事案は大幅に減少しています。
ちなみに、患者サポートチームを立ち上げる前の2016年4月から2022年3月までの6年間で、現場対応後、病院側が把握しているのは計106件です。
グラフで明らかなように、カスハラ対応は2017年が最も多く、34件ありました。2021年以降は年間4、5件と低減しています。
対応の見直しを検討した2021年10月より前は現在のようなルールを定めていなかったため、グラフに表れている数字は医事課と警察OBが把握している件数です。これらにはメディエーターやMSWへの相談件数は含まれていません。
参考までに、2020年と21年カスハラではなく、新型コロナウイルス感染症蔓延に伴う対策として行った面会制限や院内感染に対するクレームが件数を把握できないほど急増しました。
「病院として対応させていただく」
この取り組みにより、職員から「守られていると感じる」「冷静に対応できるようになった」などの声が聞かれるようになりました。それらは心理的安全性が向上したことを表していると考えます。
現在、初期対応はそれぞれの現場ですが、カスハラになると判断した場合には「病院として対応させていただく」という明確な意思を文言で伝えるように周知しています。それは対応する管理者の心理的・身体的負担の軽減につながっています。
カスハラやクレームに対し、メディエーターが介入した事例では複数の要因があり、対話不足も原因であることも分かりました。今後の課題でもあります。
一連の取り組みを通じて、カスハラ対応のマニュアル化と専門チームの介入により、カスハラの再発防止と職員の安心感を得ることができました。患者や職員を守る仕組みは不可欠です。そのためには今後も継続的な改善と教育、課題への取り組みが求められると感じました。
企画・取材:伊藤公一














