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事故を防止するためのベッドの活用方法

以前このコーナーで「高齢者の転倒防止策」を取り上げた。その記事の中で、「1998年から2000年にかけて、全国社会福祉協議会が特別養護老人ホームに対して行った調査によると、事故やヒヤリ・ハット体験の中で転倒が最も多い」ことが報告されている。

その転倒が起こる背景の一つとしてベッドの不備があり、転倒防止の介助10ヶ条の中にも「ベッドの高さは35~40cm」とある。

また、同じくこのコーナーで取り上げた「介護事故の実態把握が始まっている」の記事の中では骨折の事故の多さが報告されている。そして骨折事故の内容を見ると、「入浴後、ベッドへの移動介助の際」「ベッドから歩き出す際」「トイレに行く際、あるいはトイレから戻る際にベッドから転倒転落」とベッド周りが原因になっているケースが見られた。

そこで今回は、転倒事故防止のためにメーカーの側がどのような対策をとっているのか、ベッドメーカーの藤原康人氏に話を聞いた。

Q.ベッドに関連した転倒・転落事故にはどのようなものがあるのでしょうか?

全国老人保健施設協会の報告書(2000年3月)によると、ベッドに関連した転倒や転落には、

  1. 移乗・移動時にベッドから転落
  2. ベッドサイドに座った状態からずり落ちる
  3. ベッドからの転落

の3種類があります。なかでも3番のベッドからの転落には、患者さんがベッド柵を乗り越えたり、ベッド柵のすき間やベッド柵のない部分から転落する例が多いと言われています。

Q.たとえ柵を付けても、安心は出来ない訳ですね。

柵はそもそも、転落やリネン類が落下するのを防いだりします。しかし、柵にもさまざまな種類があります。ベッドの片側をすき間なく埋めるものから、部分的に取り付けるものまで多様です。ですから、患者さんの状態によってベッド柵を選んだり、どの部分に取り付けるかを考えなくてはなりません。

ただ、その際に注意しなければならない事があります。介護保険制度では身体拘束廃止が義務付けられていますが、4本柵でベッドを取り囲むことは身体拘束にあたると言われています。自分で柵を取り外す事が出来ない患者さんにとっては、行動の自由が妨げられるからです。その結果、ベッド柵を乗り越えようとする場合もあるのです。

Q.では、どうしたら良いのでしょうか。

転落を事前に防げるのが一番ですが、それはなかなか難しい。ならば、たとえ転落しても衝撃が少なくて済むように、超低床ベッドや衝撃緩和マットの利用を勧めます。

従来、ベッドの高さはマットレスも含めて42センチが主流でしたが、最新のベッドでは33センチ(マットレスを除くと25センチ)まで低くすることが出来ました。これによって従来品よりも約2割(当社比)、落下時の衝撃を緩和することが可能になりました。さらに、ベッドの下に衝撃緩和マットを敷けば、衝撃は約9割(当社比)緩和されます。

床高25センチ(マットレスを含むと33センチ)を実現した超低床ベッド「カリストシリーズ」と衝撃緩和マット「テストール」
床高25センチ(マットレスを含むと33センチ)を実現した
超低床ベッド「カリストシリーズ」と衝撃緩和マット「テストール」。

また、柵の代わりに「サイドサポート」を使うことも出来ます。これは柵と同じ役割を果たしますが、見た目は柵のような圧迫感がありません。むしろベッド幅が広くなったように感じるものです。

転落を防止する「サイドサポート」
転落を防止する「サイドサポート」。柵のような拘束感がない。

Q.ベッドサイドに座った状態からずり落ちるのを防ぐ手段はありますか?

60歳以上の日本人の約9割は、端座位(ベッドの端に足を垂らして腰をかける姿勢)の姿勢をとった時のかかとから座面までの高さが33センチ以上、というデータがあります。つまり、これまでのベッドの高さ(42センチ)では安定した端座位がとれていなかったということです。しかし、超低床ベッドならばそれが可能になります。

Q.転倒・転落以外の事故で、気をつける事はありますか?

ベッド柵や介助バーのすき間に身体の一部が挟まったり、背上げや膝上げしたベッドの下に手足等が入り込んで挟まれたりする事例もあります。最近は電動式ベッドが普及していますが、これら身体が挟まった状態で背上げ等の操作がなされると非常に危険です。

当社(パラマウントベッド)では、ベッド柵や介助バーのすき間を埋めるスペーサーを無償で配布しております。

昨年12月に、「医療・介護ベッド安全普及協議会」が設立されました。これは当社をはじめとする、ベッドメーカー数社が会員となって、製品の一層の安全性向上に取り組むとともに、正しい使い方について周知徹底を図る事を目的にしています。今年はベッドの安全な使い方についてのマニュアル等を作成する予定ですが、ユーザーである医療機関や介護保険施設等の皆さんからの情報が不可欠です。なかでもベッド柵関連は優先課題にしていますので、ぜひ情報をお寄せ頂きたいと思っています。

こうしたベッドメーカーの対応とともに、「日本医師会 医療安全推進者養成講座」で「医療施設管理論」を担当している佐藤文保講師にも、ベッドに関するコメントを頂いた。

「ベッドの役割は、患者さんが寝た状態で十分な看護が受けやすくするものだと思います。転倒転落を根本的に考えるのならば、畳に敷布団が古き良き選択ではないかと思います。

古いタイプのベッドでは床面マットなしで500mmというのもありました。これらのベッドを改造して低床タイプにすることも出来ないわけではありませんが、鉄鋸や電動グラインダーでカットするのは素人では大変ですし危険でもあります。 また、改造しますとその安全責任をメーカーは負いません。そんな手間をかける価値はないように思います。脚部のフックの位置を変えることで高さを2段階に変えられるタイプもありました。でもこのタイプですら、患者さんの状態により、高さを変えることはあまり行われなかったと思います。

電動式ベッドでギャッヂアップを3段階で出来て、ハイロー操作(高さ調節)が出来て、125mmの大型キャスターで移動もスムーズというモデルもあります。1台のベットに様々な機能を持たせるとどうしても高価な物にならざるを得ません。

古いベッドを更新するときの新機種の選び方は施設によって様々とは思いますが、その患者さんに最も最適と思われる機種がその都度サプライセンターから供給されるようなシステムが理想的ではないでしょうか。急性期病院と療養型病床では自ずと選択は変わってくると思います。

患者さんの状態に合わせ、安全で使いやすく、看護の側にも安全で使いやすいものを開発するために各メーカーが日夜しのぎを削っていることは頼もしい限りです。

ただ、多くの病院で、ベットまわりが依然狭いことも大きな障害です。廊下には手すりがあるのに、病室にはなぜないのでしょう。単純な疑問を解決することも、必要ではないでしょうか。」

カテゴリ: 2003年3月11日
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