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手作りのプロモーションビデオで医療事故を防止

自治医科大学附属大宮医療センター(埼玉県さいたま市、408床)では、職員の安全に対する意識を高めてもらおうと、プロモーションビデオを製作中だ。完成は5月末を予定している。今回は、撮影現場に同行させてもらい、その状況について報告する。

役者も撮影も全て職員が行うビデオ撮影現場

3月末。同センターのナースステーションにおいて、プロモーションビデオの撮影が行われた。

場面設定は深夜だ。看護師Aは翌朝患者に投与する点滴を準備しようと、コンピュータから出力された指示書を確認する。翌朝分の点滴の準備は、当日の深夜勤務の看護師が行うことになっている。看護師Aが患者Bさんの指示書を確認すると、そこにはKCl(塩化カリウム)を投与するよう、医師による手書きの指示が記載されていた。

通常ならば、患者1人ひとりの薬剤は、医師の処方に基づいて薬剤部からナースステーションに届けられることになっている。看護師はこの薬剤部から届いた薬剤と、指示書を突合せて点滴などを準備する。しかし、患者Bさんの場合は、薬剤部が稼動していない22時以降に医師が追加で処方を行ったため、この時点で薬剤部からKClが届いていなかった。そこで、看護師Aはナースステーションに常備されている薬剤庫からKClを取り出して、患者Bさんの点滴を準備した。

場面は、翌朝の設定に変わる。ナースステーションに薬剤部から患者BさんのKClが届いた。昨夜、医師が時間外の追加処方を行った分が、今頃になって届いたのだ。

看護師Cが患者Bさんの指示書を確認すると、そこには確かにKClを投与するように医師の指示が記載されている。看護師Cは、深夜勤務の看護師Aが点滴の準備をし忘れたと思い込み、患者Bさんの点滴を準備する。いざ患者Bさんの病室に行き、点滴を投与しようとしてハッとする。そこにはすでにKClが準備されていたのだった。

これは同センターが収集している「インシデント・アクシデントレポート」の中から抽出した事例だ。薬剤部が稼動していない時間外の追加処方が招いたインシデントである。

このケースの場合はインシデントで済んだが、もし看護師Cが気づかないまま患者Bさんに点滴を行えば倍量処方になってしまう。そうなれば重大な事故にもつながりかねない。

「このインシデントを教訓として、点滴を準備した看護師はその旨を必ず指示書に記載するように徹底しました。また、KClは緊急性の高い薬剤ではないため、医師に相談してナースステーションの常備分から外してもらうことにしました」と、同センターの医療安全管理者である百瀬ひろこさんは言う。

この後もプロモーションビデオの撮影はさらに続いた。撮影場面は、透析室や栄養相談室、MRI室、外来受付などにも及んだ。役者は看護師など全て現場の職員。撮影は原稿と絵コンテに基づきながら、ビデオ撮影が得意な系列病院の職員が担当。演出は百瀬さんが現場の職員と相談しながら行う。まさに何から何まで手作りのプロモーションビデオだ。

病棟のナースステーションでの撮影場面
病棟のナースステーションでの撮影場面。

プロモーションビデオに期待する効果

同センターがプロモーションビデオの製作に取りかかったのは、昨年5月から。院内に「プロモーションビデオ作成小委員会」が設置され、医師や看護師、ソーシャルワーカーなどで構成される7人のメンバーが集まって、ビデオの内容について検討してきた。

この小委員会による活動は、同センターのリスクマネジメント活動の特徴である。プロモーションビデオ以外にも、「マニュアル改訂小委員会」「輸血に関する小委員会」「薬剤に関する小委員会」など、合計7つの小委員会が現在活動中だ。各部署から選出された39人のリスクマネジャーがいずれかの小委員会に所属して、それぞれが具体的な安全対策を計画立案している。それらは上部組織である「医療安全管理委員会」に諮られ、決議されたものが実行されることになっている。

「プロモーションビデオ作成小委員会」は、これまでに8回の会議を開催。ビデオに織り込む内容を討議してきた。その結果、冒頭のインシデント事例の他にも、安全管理のための組織体制や、インシデントレポートを提出する意義や目的、その対応策などがビデオに盛り込まれる予定となっている。

「各部署の映像をなるべく入れて、興味を持って見てもらえるようにしたいと考えました。また、職員から提出されるインシデント・アクシデントレポートが具体的にどのような対策に結びついたのかを、動きのある映像で理解してもらおうと努めました」と、百瀬さんはいう。

栄養相談室での撮影場面
栄養相談室での撮影場面。栄養士が患者に栄養指導を行っている。
MRI室の撮影場面
MRI室の撮影場面。
薬局における撮影場面
薬局における撮影場面。

同センターにおけるインシデント・アクシデントレポートの提出数は、2003年3月実績で600件に上った。「以前は200~300件だった」(百瀬さん)と言うから、確実に職員の安全に対する意識は高まっているようだ。

自治医科大学附属大宮医療センターの専任の医療安全管理者である百瀬ひろこさん
自治医科大学附属大宮医療センターの専任の医療安全管理者である百瀬ひろこさん

「とはいえ、まだまだ職員や部署によって温度差があります。ですから、プロモーションビデオの撮影やそれを見てもらうことを通じて、職員の安全に対する意識が高まるのを期待しています。また、インシデント・アクシデントレポートが具体的な改善策につながっていることをアピールすることで、一層の提出を促していきたいと思っています」と、百瀬さんはプロモーションビデオに期待を込める。ビデオは新人職員教育にも活用する予定だという。

カテゴリ: 2003年4月30日
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