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選択の視点【No.18、19】

今回は、最高裁判所のホームページに紹介された高等裁判所判決の中から、一審(地方裁判所)での患者側敗訴判決が変更されて、 患者側の請求が一部認められたものを選びました。

このうち、No.19の札幌高等裁判所の判決は、ニュースなどでも話題になりましたが、この判決の中で、「除斥期間」という普段馴染みのない概念・用語が使われていますので、簡単にご説明します。

一定の期間が経過すると、当然に権利が消滅してしまうという期間のことを「除斥期間(じょせききかん)」といいます。  「除斥期間」であることを明確に定めた法文はないのですが、法理論・判例上認められています。似たような制度に「時効」があります。時効は、「中断」がありますが、除斥期間は固定しています。

「一定期間経過後は請求できない」という内容の法文があったときに、その法的性質が時効なのか、除斥期間なのかについて解釈が分かれることがあります。

民法724条は、「不法行為ニ因ル損害賠償ノ請求権ハ被害者又ハ其法定代理人カ損害及ヒ加害者ヲ知リタル時ヨリ三年間之ヲ行ハサルトキハ時効ニ因リテ消滅ス不法行為ノ時ヨリ二十年ヲ経過シタルトキ亦同シ」と規定しています。このうち後段部分、つまり不法行為の時より20年経過したときに不法行為請求権が消滅するということの法的性質が問題になります。

なぜなら、法的性質が「時効」であれば、一定の事由によって、時効の進行が中断することが認められていますし、時効の効果が発生するためには、当事者が時効の援用をする必要があります。更に、加害者が時効を主張することは信義則違反・権利濫用で許されないという抗弁を被害者が主張することもできます。

これに対して、法的性質が「除斥期間」の場合には、「中断」が認められませんし、当事者が援用しなくても裁判所は期間が経過すれば権利が消滅しているとして裁判をしなければなりません。

この論点について平成元年12月21日の最高裁判所判決は、民法724条後段に規定する20年間は、被害者側の認識いかんを問わず一定の時の経過によって法律関係を確定させるため、請求権の存続期間を画一的に定めたものと解するのが相当であるとして、法的性質が除斥期間であるとの判断を示しました。そして、除斥期間の場合には、信義則違反又は権利濫用の抗弁は採用しないとも判示しました。

No.19の判決は、上記最高裁判所判決を引用して、最後の予防接種から20年を経過した後に訴訟を提起した感染者については、予防接種と肝炎との因果関係を認めながらも、損害賠償請求権が消滅しているという判断をしました。なお、No.19は双方から上告があり、まだ確定していないとのことです。

カテゴリ: 2004年3月30日
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