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No.475「自転車の転倒事故で右足関節を脱臼骨折した患者に、骨折手術後に右足関節の用を廃する等の後遺障害が残存。医師に骨折手術後の創部感染に対する早期の診断及び治療を怠った過失を認めた地裁判決」

名古屋地方裁判所 平成27年9月16日判決 医療判例解説61号 88頁

(争点)

  1. 骨折手術後の創部感染に対する早期の診断及び治療を怠った過失の有無
  2. 因果関係

*以下、原告を◇、被告を△と表記する。

(事案)

◇(事故当時45歳のT国籍男性・料理店経営)は、平成20年9月30日(以下、特段の断りのない限り同年のこととする。)、自転車で走行中に転倒し、△医療法人の開設する病院(以下、「△病院」という。)に救急搬送され、右足関節(脛腓骨)脱臼骨折と診断され、整復固定術を受け、△病院に入院した。

10月2日、◇は、△病院の医師により、右脛腓骨脱臼骨折に対する観血的手術を受け、手術後は大腿から足先までキャスト(ギプス)固定がされた。

10月15日、△病院の医師は、◇を診察し、右下肢に巻かれたキャストを取り外し、縫合部を全抜糸の上、キャストを膝下から足先まで巻き直した。キャスト巻き直しに際して、◇の右下肢縫合部周辺に水疱が観察されたが、△病院の医師は開窓措置をとらなかった。同日、△病院の医師は、◇に対し、2週間後に再受診するよう指示して、退院を許可し、◇は△病院を退院した。

10月29日、◇は、△病院を外来受診したところ、拇趾側創部付近に皮膚壊死欠損が認められた。◇は、同日から11月6日まで、外来により薬浴、創部の消毒、薬剤の塗布等を受け、同日には壊死した皮膚について外科的除去を受けた。

◇は、11月8日以降、2日に1回程度の頻度で、△病院を外来受診し、薬浴、薬剤の塗布等を受けた。◇は、平成21年2月4日、△病院に入院し、同月5日に、腐骨摘出術(抜釘及びデブリードマン)を受け、同月10日、△病院を退院した。

◇は、退院後平成21年5月26日まで、△病院を外来受診し、薬浴、薬剤の塗布等を受けた。

◇は、平成21年4月16日、同年5月7日及び同月14日、W大病院形成外科を、同日、同月15日及び同月21日に、W大病院整形外科を受診した。W大病院整形外科の医師は、同日、◇に対し、下腿切断、断端形成を勧めた。

◇は、平成21年6月3日から平成22年12月17日まで、V市民病院整形外科を受診した。

平成22年12月30日、◇は、V市民病院整形外科からの紹介により、高圧酸素療法を受ける目的でU会クリニックを外来受診した。◇は、平成23年1月5日、高圧酸素療法を受けるためにU会病院に入院し、同月28日、経過良好として退院した。

◇は、平成22年3月26日付けで、V市民病院整形外科の医師から、骨髄炎により右足関節可動域10度の可動域制限を認めるとして、症状固定の診断をされ、その旨等が記載された身体障害者診断書・意見書(肢体不自由障害用)の作成を受けた。

そこで、◇は、右足関節の用を廃する等の後遺障害が残存したのは、△病院の医師に骨折手術後の創部感染に対する早期の診断及び治療を怠った過失があるとして、△に対して、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償請求をした。

(損害賠償請求)

請求額:
7126万9734円
(内訳:治療費50万6746円+通院交通費14万1880円+休業損害119万2641円+付添看護料6万2000円+入院雑費4万9600円+入通院慰謝料250万円+逸失利益5081万6867円+慰謝料1100万円+弁護士費用500万円)

(裁判所の認容額)

認容額:
2610万9195円
(内訳:治療費50万6746円+通院交通費7万0940円+休業損害6万2280円+入院雑費4万6500円+入通院慰謝料170万円+逸失利益1382万2729円+後遺障害慰謝料750万円+弁護士費用240万円)

(裁判所の判断)

1 骨折手術後の創部感染に対する早期の診断及び治療を怠った過失の有無

この点について、裁判所は、以下の鑑定意見を高い証拠価値があると認めました。

「10月15日の△病院の医師の措置について、◇の骨折の具体的態様、手術による侵襲等を踏まえ、軟部組織の著しい腫脹を反映する水疱形成が存在している場合に、開窓処置等を行わないでギプス包帯処置を行えば、その後に皮膚壊死が発生する可能性が大きいのは当然であり、△病院の医師がキャストの除去又は開窓をしないで、キャストを固定したことは不適切であり、また、入院を継続し、患肢の安静挙上を図り、局所の注意深い観察を行うことは極めて重要であって、△病院の医師が10月15日に水疱形成が認められた時点で◇につき退院措置をとったことは不適切である。」

そして、△病院の医師には、10月15日時点において、原告について入院措置を継続の上、キャストについては開窓措置をとるべき注意義務があったと認められるから、同医師が、これをせず、開窓措置をとらないでキャストを巻き直し、その直後に退院させたことについて、不法行為法上の過失があると判断しました。

2 因果関係

この点につき、裁判所は、△病院の医師がキャストの除去又は開窓措置をとらなかったことが一因となって◇の皮膚壊死を来たし、皮膚壊死のために内固定材料や骨折部が露出し、露出部分で細菌が繁殖して感染、骨髄炎を惹起し、その増悪によって骨癒合不全や骨関節及び軟骨の破壊性変化が惹起した結果、◇の右足関節に重度の機能障害を生ぜしめたものと認められると判示しました。

そして、△病院の医師が10月15日時点において◇について入院措置を継続の上、キャストについては開窓措置をとるべき注意義務を怠ったという過失と原告の右足関節の重度機能障害の残存という結果との間には因果関係が認められると判断しました。

以上から、裁判所は、上記(裁判所の認容額)の範囲で◇の請求を認め、その後、判決は確定しました。

カテゴリ: 2023年3月10日
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