医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.320、321】

今回は、患者が死亡した事案で、診察時の医師の診断に過失が認められた裁判例を2件ご紹介します。

No.320の事案では、患者遺族は、転院先の医師についても、投与した輸液及び膵酵素阻害剤が不十分であった点、特に持続的動注治療法及び腹腔内投与法の処置をとらなかった点で過失があると主張しました。しかし、裁判所は、患者は転院時既に多臓器不全で敗血症ショックの状態にあり、このような病態の患者に対し、医師は転院時から約3時間の間に電解質液約700ml、メイロン250ml、プラズマネートカッター250ml 2本、20%アルブミン液3本等を投与し、他の薬剤(抗生剤、利尿剤、心循環係補助薬、ステロイドホルモン、蛋白分解酵素阻害剤等)も投与し、病状の推移(治療効果)を観察したのであり、患者の病態と上記治療行為とを全体的にみれば、輸液、膵酵素阻害剤の投与の量から、転院先の医師の診療に不適切な点があったとはいえず、抗生剤の量も不十分であったとはいえないと判示しました。さらに膵酵素阻害剤の持続的動注療法及び腹腔内投与法は、平成6年当時は先端的な大学病院や救命救急センターで行われていたもので、転院先病院程度の規模の病院では、一般的な治療方法として認識されていなかったものと認められるから、転院先の医師がこれらを施行しなかったことをもって、過失であるとは言えないと判断し、患者遺族の主張を採用しませんでした。

No.321の事案では、病院側は、一般内科医が、本件X線写真から消化管穿孔の典型的所見である小腸拡張及び遊離ガス像を読み取ることは困難であると主張しましたが、本件において読み取りが可能との意見を示した鑑定人は消化器内科医、証人は消化器内科および消化器外科を専門とする医師であるため、専門的知識・経験を前提に鑑定や証言をしており、これらの鑑定意見や証言を一般内科医の読影能力を判断する資料とすることには疑問があると争いました。

しかし、裁判所は、ア.鑑定人は消化器外科医であるが、大学病院の准教授職として、下級医師の指導にも当たっている者であり、消化器を専門にしない一般内科医の水準をも踏まえて回答していること、イ.鑑定人及び証人の意見には合理性があること、ウ.一般内科医である診察にあたった医師が、怠っていた腹部触診をしていれば、読影可能性がより高まっていたといえること、エ.鑑定人及び証人の意見は、本件X線写真画像における遊離ガス像は明らかであり、読影可能性の程度が高い旨を指摘したものであること、オ.病院側からは、一般内科医においては遊離ガス像の読影は困難であるとの主張が医学的合理性を有するものであることを裏付ける証拠が何も提出されていないこと等に照らし、病院側の主張を採用しませんでした。

両事案とも実務の参考になろうかと存じます。

カテゴリ: 2016年10月 5日
ページの先頭へ