医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.456、457】

今回は、医療事故に関連して、カルテ・診療録の改ざんを行った医師・病院に対して、慰謝料の支払いが命じられた裁判例を2件ご紹介します。

No.456の判決紹介に当たっては、別冊ジュリスト183号「医事法判例百選」34頁「16 診療録の改ざん」も参考にしました。

No.456の裁判例では、原告(患者遺族)側は、医師の改ざん行為等が証明妨害行為に当たるので、原告らの主張する事実(患者死亡に対する医師の過失を裏付けることとなる、DICの兆候となる大量出血の事実)を真実と認めるべきであると主張しました。

これに対し、裁判所は、「証明妨害行為があった場合、裁判所は、要証事実の内容、妨害された証拠の内容や形態、他の証拠の確保の難易性、当該事案における妨害された証拠の重要性、経験則などを総合考慮して、事案に応じ、証明妨害の効果を決すべきである」と判示した上で、「本件において改ざんされた診療録等の重要性はいうまでもないが、他の証拠及び弁論の全趣旨から認められる診療経過、原告らの主張する被告の過失の内容と診療録等の記載の関連性の程度、被告が、当初、診療録等を改ざんすることを決意したのは、看護師が記載すべき部分に不十分な点があり、自分の行った処置で記入されていないものがあると感じたことがあったことなども総合考慮すると、被告の証明妨害行為から直ちに原告らの主張する被告の過失を基礎づける事実が認定されることになるものではなく、その他の証拠に基づいて認められる事実を前提として、原告らの主張する被告の過失を認めることができるか否かを判断すべきである。また、同様に、被告本人尋問における供述についても、同人の供述のすべてについて証拠能力を否定すべきではなく、その他の証拠と照らして信用することができるかどうかを吟味する必要があるというべきである」旨判示し、原告らの主張を採用しませんでした。

No.457の裁判例では、カルテの改ざんによる慰謝料について、裁判所は、次のように判示しました。

「各カルテの改ざんは、説明義務違反とは別個に不法行為を構成するところ、その態様は、主として本件説明事項に係る改ざんであり、この改ざんの事実が発覚しなければ、被告の医師の責任(説明義務違反)が否定されることにつながり得る悪質なものであることや、改ざん箇所が多数に及んでいることなど本件に現れた一切の事情を考慮すると、これにより原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は100万円と認めるのが相当である。」 

両事案とも実務の参考になろうかと存じます。

カテゴリ: 2022年6月10日
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