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No.322「認可外保育施設において、うつ伏せ寝をしていた乳児が死亡。死因をSIDS(乳幼児突然死症候群)と認定して遺族の損害賠償請求を棄却した地裁判決を変更して、死因は鼻口閉塞による窒息死であり、施設側に過失があるとして、遺族への損害賠償を命じた高裁判決」

大阪高等裁判所平成27年11月25日判決 判例時報2297号58頁

(争点)

  1. 乳児の死因
  2. 保育従事者の過失の有無
  3. 本件施設の実質的経営者、本件施設の園長及び設置者の過失の有無

(事案)

X1とX2は、平成21年11月初め頃のお試し保育を経て、X1らの子であるA(当時生後4か月)とB(Aの姉)について、月極保育入会申込をして、同月10日から、A及びBを認可外保育施設「Y」(有限会社Y3が設置し、同社から営業譲渡を受けたとする株式会社Y1が設置運営していた施設、以下「本件施設」という)に預け始めた。

X2は、同月17日(以下、「本件事故日」という)午前8時30分頃、AとBを本件施設に預けた。その際、玄関で体温を測ったが、Aに熱はなく、それまでの間の健康状態にも問題はなかった。

本件事故日、本件施設で預かっていた児童数は17名(内訳は0歳児4名、1歳児5名、2歳児1名、3歳児2名、4歳児0名、5歳児4名、学童1名。以下、学童も含めて「乳幼児」と総称する。)であったのに対して、本件施設の保育従事者はY6(平成21年10月1日から本件施設で勤務する者。保育士資格は持っておらず、幼稚園教諭の免許は有したものの、前の勤務先が幼稚園であったことから、3歳以上の児童の保育の経験しか有していなかった。)及びY7(同年5月26日から本件施設で勤務する者。保育士の資格は持っておらず、Y6が入るまで最も経験の浅い保育従事者であった。)の2名のみであった。

本件施設の保育ルームとベビールームの間には、高さ約180cmの間仕切りの壁があり、そのうち、高さ112cmの白色アクリル板部分については、保育ルーム側からベビールーム内を見ることはできず、白色アクリル板の上には縦横の細かい格子状の木製柵が設置されていた。

Y6及びY7は、午前9時頃に本件施設に出勤したが、Aは夜勤担当者により既にベビールームのベビーベッドに寝かされていた。Aは、午前10時前くらいからぐずり始めたため、Y7は普段より早い時間であったが、Aにミルク200cc作って飲ませたところ、Aはこれを少し残した。

Y7は午前10時30分頃から午後0時30分頃まで調理室に入ったまま、昼食を作り、これを乳幼児に順次食べさせる作業に追われていた。

他方、Y6は、午前10時30分頃からベビールーム内でAが泣いていたことから、Aを姉Bのいる保育ルームに連れてきて、床の上に寝かせていた。また、Y6は、1人で保育ルームでの保育、ベビールームの呼吸確認等チェック、保育ルームとは壁を隔てた別室にある受付カウンターへの来訪者の応対、電話応対、掃除、布団を出すなどの昼寝の準備等を行っていた。

Y7は、午前11時50分ないし午後0時頃、Aが甲高い声で泣いていて、泣き方が異常だと感じたことから、調理室から保育ルームに行き、うつ伏せで「顔で支えてた」体位のAを、ベビールームに連れて行き、ベビーベッドに仰向けに寝かせた。

その後、Y6は、ベビーベッド上でうつ伏せ寝の体位のまま呼吸をしていないAを発見し、抱き上げて、Y7を呼び、同人とともに、Aを叩いたり、水をかけたり、人工呼吸をしたりし、Y7はAの「鼻水みたいな鼻血みたいな」ものを拭き取るなどした。

Y7は、Y5(本件施設の園長)に電話をして指示を仰ぎ、午後1時03分に119番通報をした。

Aは、午後2時13分、搬送先の病院で死亡した。

Aの両親であるX1及びX2は、Aが本件施設のベビーベッド上にうつ伏せ寝の体位で放置された結果、鼻口部が閉塞して窒息死したとして、本件施設の設置運営会社のY1、同社代表取締役のY2、Y1と実質的には同一法人であるY3、Y3の取締役であり、本件施設の実質的経営者であるY4、本件施設の園長であるY5、本件施設の事故日の保育従事者であるY6及びY7、さらに本件施設の指導監督を行う立場にあるY市に対して、損害賠償請求訴訟を提起した。

一審の大阪地方裁判所は、Aの死因はSIDSと認めるのが相当であって、鼻口閉塞等による窒息死と認めることができないから外因による窒息死を前提とするYらの責任を認めることができないとして、Xらの請求をいずれも棄却した。

これに対し、Xらは控訴した。

(損害賠償請求)

乳児の遺族(父母)の請求額:合計6476万3259円
(内訳:死亡逸失利益2638万3259円+死亡慰謝料2500万円+葬儀関連費用150万円+遺族固有の慰謝料父母合計600万円+弁護士費用588万円)

(裁判所の認容額)

一審(大阪地方裁判所)の認容額:0円

控訴審(大阪高等裁判所)の認容額:5004万9380円
(内訳:死亡逸失利益1999万9380円+死亡慰謝料2000万円+葬儀関連費用150万円+遺族固有の慰謝料父母合計400万円+弁護士費用455万円)

(裁判所の判断)

1. 乳児の死因

この点について、裁判所は、

ア.
Aはベビールームに運ばれた後、仰向けに寝かされたが、寝返りによりうつ伏せになった。その後、Aに対する呼吸確認等チェックはなされていなかったこと、
イ.
Aの発見時の体位はうつ伏せであること、
ウ.
Aが寝ていたベビーベッドに敷かれていたマットレスは、Aの頭部・顔面の重さに匹敵する重量約2.4kgのバーベル用プレートを置くと、約2.5cmの凹みが生じるものであったこと、
エ.
Aは、肺水腫により気道から出た血液混じりの分泌物等を鼻や口から出しており、三重構造で厚さ6cmのマットレスにおいて、一層目の綿製カバー表面の約6cm×約5.5cmの血痕様の染みが、二層目の防水シートを突き抜けて、三層目のマットレス表面にまで染み込み、三層目の染みも約4cm×約2cmの大きさに及んでいる。この点につき、鑑定を行ったK医師は、上記分泌物等は、4か月の乳児から出た分量としては多いと考えられ、一部吐物も混ざっている可能性があって、さらさらの液体ではなく粘性度がある程度あることからすれば、上からぐっと押し付けたと考えた方が、このような分泌物等が下まで染み込んだ状況を説明しやすく、どちらかといえば、フェイスダウン(柔らかな寝具の上にうつ伏せで顔面を真下にした状態)の状態であったと考えられると証言していること、
オ.
Aは、本件事故当時、生後4か月で、月齢6か月以下であり未熟であったから、うつ伏せ寝の体位により鼻口部が閉塞されて低酸素状態になるまでの間に、顔面を横にするなどの危険回避行動を取ることができるほどの学習能力がなかったこと

を考え併せると、Aは鼻口閉塞により窒息死に至ったものと推認することができると判示しました。

2. 保育従事者の過失の有無

この点について、裁判所は、Y6について、Aがよくうつ伏せ寝の体位で寝ることを認識しており、Y7について、Aがよく寝返りを打つこと、うつ伏せ寝の体位になることと、顔を真下に向けて泣くこと、自力では仰向けになることができないことを認識していたとそれぞれ認定しました。

その上で、裁判所は、Y6及びY7は、保育ルームからベビールームに連れて行く前に生後4か月のAがうつ伏せ寝の体位で激しく泣いていたことを認識していたにもかかわらず、ベビールームに運んで仰向けに寝かせた後も、Aの呼吸確認等チェックをすることなく放置し、仰向けに戻さなくても大丈夫であると軽信し、これによりAを鼻口閉塞により窒息死させたものと認められるところ、乳幼児は、うつ伏せ寝の体位により窒息死する危険があるから、保育従事者は、就寝中の乳幼児をうつ伏せ寝の体位のまま放置することなく、常に監視し、うつ伏せ寝の体位であることを発見したときは仰向けに戻さなければならない注意義務があるのに、Aをうつ伏せ寝の体位のまま放置し、鼻口閉塞により窒息死させたとして、Y6及びY7の注意義務違反を認定しました。

3. 本件施設の実質的経営者、本件施設の園長及び設置者の過失の有無

この点について、裁判所は、本件施設の実質的経営者であるY4につき、

ア.
自らの入院が本件事故の数日前であったが、本件事故日に、何ら代替要員を手配することもなく、勤務開始から1か月余りの経験しかない無資格者Y6、同様に5か月余の経験しかない無資格者Y7の2名のみに合計17名の乳幼児の保育を担当させた、
イ.
本件施設では保育ルーム側からベビールーム内を見渡すことができず、仕切り壁に、顔を近づけて中を見なければベビールーム内の詳しい様子は分からないところ、乳児を寝かせているベビーベッドは、ベッド用マットレスを載せる台が床から2cmの高さに設置され、乳児を床の上に寝かせているに等しい状態となっており、厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知(平成13年3月29日雇児発第177号)に係る「認可外保育施設に対する指導監督の実施について」別添の「認可外保育施設指導監督基準」中の「睡眠中の児童の顔色や呼吸の状態をきめ細かく観察すること」が困難となっていたが、この状態を放置した、
ウ.
保育従事者に対して、うつ伏せ寝を仰向けにしないことすら容認していた

と判示しました。

そして、裁判所は、以上によれば、Y4には、本件施設において、乳幼児の睡眠確認を十分に行うために必要な人員体制及び物的設備を備える注意義務があり、本件施設の保育従事者であるY6、Y7に対して、うつ伏せ寝の禁止を徹底する注意義務があるのにこれに違反したと認定しました。

また、裁判所は、園長であるY5、本件施設の現在の設置者であるY1の代表者であるY2も、本件施設の保育状況について配慮及び監督・指導等をすべき立場にあったとして、Y4と同様の注意義務違反を認定しました。

以上のことから、裁判所は、Y6、Y7、Y4、Y5及びY2については共同不法行為に基づく損害賠償責任を、Y1及びY3については、Y6、Y7、Y5の使用者として、民法715条に基づく損害賠償責任を認め、Y1~Y7に対して連帯して上記裁判所認定額の賠償をするように命じました。

Y市については、本件施設設置者に対し、改善勧告を行わなかったなどの規制権限の不行使が違法とまでは評価できないとして、Y市に対する請求は棄却しました。

その後、判決は確定しました。

カテゴリ: 2016年11月10日
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