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No.47「小児喘息患者が容態急変して死亡。治療効果の見極めを怠った医師の過失を認めた判決」

富山地方裁判所高岡支部 平成13年2月28日判決(判例時報1761号107頁)

(争点)

  1. 診察を担当した医師の過失の有無

(事案)

患者A(平成4年6月生まれの男子)は、平成7年1月24日ころ発熱し、26日早朝に息苦しさを訴え、同日午前7時50分ころ救急車でTクリニックに運ばれた。Tクリニックの医師はAを診察後、紹介状を書き、Aの両親に対し、AをYが経営するY病院に連れていくよう指示した。両親は、直ちにY病院の小児科を訪れ、AはN医師の診察を受け、入院となり、同日午前10時10分ころ病室に入った。

翌27日午前7時20分ないし午前7時25分ころ、Aに付き添っていた母親が、ナースステーションの看護師に対し、Aの顔色が悪いことを伝えた。そのとき既にAにはチアノーゼがあった。これを受けて看護師が、同日午前7時30分ころAを処置室に搬送して、医師の指示を受けないまま酸素吸入を行ったが、同日午前7時40分ころAは呼吸停止となり、同日午前7時55分ころ、S医師が看護師から連絡を受けて来院して処置を行い、午前9時30分ころにはAをICU(集中治療室)に移して更に処置を施したものの、同人の意識は回復しなかった。

Aはその後意識を回復することなく、平成7年10月26日午前8時50分Y病院において呼吸停止による低酸素性脳症により死亡した。

Aの両親が、N医師及びY病院を被告として、損害賠償請求を求めて訴訟を提起した。

(損害賠償請求額)

遺族(両親)の請求額
1億5450万0274円(内訳:治療費48万1124円+看護料191万1000円+入院雑費35万4900円+逸失利益67658250円+本人の慰謝料2270万円+葬儀費用150万円+両親固有の慰謝料600万円+弁護士費用484万5000円)

(判決による請求認容額)

6935万1600円(内訳:治療費48万1124円+看護料191万1000円+入院雑費35万4900円+逸失利益3425万9576円+慰謝料2200万円+葬儀費用150万円+慰謝料400万円+弁護士費用484万5000円)

(裁判所の判断)

診察を担当した医師の過失の有無

裁判所は、Aが肺炎にかかり、また、気管支喘息にもかかっていたと認定しました。そして、平成5年6月26日付『アレルギー疾患治療ガイドライン』(以下、「ガイドライン」という。)の記載は、小児気管支喘息の診断、治療の一般的な指針として認められるものであり、小児気管支喘息に対処する医師は、基本的にガイドラインの記載に沿った治療を行うべきであると判示しました。

裁判所は更に、一般に小児喘息の患者は、軽度の発作の場合であっても、急激な気道閉塞等により、突然症状が悪化し、数分から10分程度の間に死亡する例もある。したがって、およそ小児患者に対して気管支喘息との診断がつけば、常に呼吸停止を念頭に置き、少なくとも中発作以上の症状で気管支拡張剤を使っても十分な効果が認められないときには、呼吸停止があった場合に備えて3分ないし4分以内に気道確保できる準備をしておかなければならない。そして、ガイドラインに沿った治療を行いつつ、患者の状態を直接観察することはもちろんのこと経皮動脈血酸素飽和度測定等も実施するなどして、右治療の効果を慎重に見極め、効果がなければ、ガイドラインに沿って治療のグレードアップを図らなければならないと判示しました。

そのうえで、裁判所は以下のとおり、N医師の過失を認定しました。

(1)26日当日、医師同士の話し合いで決まって外来の診療に当たり、Aを診察して気管支喘息及び肺炎であると強く疑われる旨の診断を下し、それに沿った投薬の指示を行ったN医師は、小児科の他の医師に比し格段の差をもってAの病態を把握していたことになり、Aの治療について第一に責任を負うべきものである。これは主治医制が採られていなかったことを考慮しても変わりはない。

(2)午後5時以降の夜間は担当医が輪番制で決められ、26日午後5時以降はS医師がそれに当たっていたとはいえ、中発作ないし大発作の程度から次第に大発作へと悪化しつつあった当時のAの容態に鑑みれば、午後5時以降の夜間においてもN医師はAの治療について第一に責任を負い、自らAの症状を観察しあるいは看護師に報告を指示するか、少なくとも夜間の担当医であったS医師との間で事前に綿密に打合せを行い、以降の治療に遺漏のないようにしておくべきであった。

(3)N医師は、ほぼガイドラインに沿った一連の措置を採ったものの、Aの病室を訪れて直接同人を診察することを一度もせず、右措置の効果を慎重に見極めることをしていない。また、26日午後5時過ぎころ帰宅の途につく際、看護師に報告を指示したり、S医師と綿密に打合せすることもしていない。

その結果、イソプレテノールの持続吸入を経て気管内挿管による人工呼吸といった措置を採るべき機会を逸し、Aにつき27日朝の容態急変を招いて死亡させた。

カテゴリ: 2005年5月24日
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