医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.88、89】

今回は、人間ドック検査における医師の過失について、損害賠償請求が認容された判決を2件ご紹介いたします。

人間ドック検査などの健康診断に関する訴訟では、医師の診断上の過失がなければ、患者の死を避けられたはずだというところまでの因果関係は立証が難しいため、過失と死亡との因果関係が認められることは非常に少ないです。その代わり、今回ご紹介する判例がそうであるように、適時に適切な診療・治療を受けるという期待権の侵害、または適時に適切な診療・治療を受けていれば患者は少なくとも一定期間は延命はできたであろうという延命利益の侵害を理由として、その限度での慰謝料の損害賠償について認められる傾向にあります。

No.88は、人間ドック検査における医師の過失の有無と適切な治療をした場合の患者の延命可能性の有無が争点となった事案で、人間ドック検査によって、医師が癌の兆候を発見したにもかかわらず、これを失念し患者に告知や精密検査をせず、その後患者が癌で死亡した場合に、医師の責任が認められた事案です。

No.89は、人間ドックの便潜血検査で連続して陽性反応ワンプラス(+)が認められたにもかかわらず、病院の独自の基準により、患者に再検査等を促さず、その後患者が癌で死亡した場合に、病院側に責任が認められた事案です。この判決では、「人間ドックはいわゆる集団検診と異なり健康管理に高い関心を有する者が自発的に受診するものであり、受診者は少しでも異常を疑わせる兆候が存在する場合には、その告知を受け、精密検査を受診することを希望しているのが通常である(それが癌の存在を疑わせる兆候であればなおさらである。)から、実施医療機関は異常を疑わせる兆候があればこれをすべて被検者に告知し、診断が確定できない場合には精密検査あるいは再検査を受けて診断を確定するよう促す高度の注意義務を有する」と判示している点が注目されます。

カテゴリ: 2007年2月 6日
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