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No.17「スキルス胃癌死亡患者について、内視鏡検査を実施した医師が適切な再検査を行えば、延命の相当程度の可能性があったと判断。最高裁が1,2審判決を破棄」

平成16年1月15日 最高裁判所第一小法廷判決

(争点)

  1. 本件検査時点でスキルス胃癌との診断がされ、これに対する化学療法が開始されていたとすれば、患者が死亡した時点においてなお生存していた「相当程度の可能性」があったか

(事案)

患者A(昭和43年生まれの女性)は、平成11年6月30日及び同年7月17日、被上告人(開業医・以下本件医師)が開設した個人医院で本件医師の診察を受けた。そして本件医師は同年7月24日に胃内視鏡検査(本件検査)を実施した。本件検査の結果によれば、幽門部及び十二指腸には通過障害はなく、胃潰瘍、十二指腸潰瘍又は幽門部胃癌による幽門狭窄は否定されるものであったが、胃の内部には大量の食物残渣があり内部を十分確認できなかった。

本件医師は再検査を実施せず、Aの症状を慢性胃炎と診断し、内服薬を与えて経過観察を指示した。

その後Aは平成11年10月7日、他の医療機関で診察を受け、同月15日に胃透視検査、同月19日に胃CT検査、同月21日に胃内視鏡検査等の各種検査を受け、その結果、スキルス胃癌と診断された。当時のAは胃壁全体の硬化が認められ、また、腹水もあり、癌の腹膜への転移が疑われた。

Aは平成11年10月22日にB医療機関に入院し、化学療法を中心とする治療を受けたが、同年11月には骨への転移が確認され、平成12年2月4日に死亡した。

Aの遺族(上告人ら)が本件医師に対し、診療契約上の債務不履行に基づき、損害賠償を求めた。

(裁判所の判断)

原審(大阪高等裁判所)は、以下(1)(2)(3)の理由で、遺族の請求を棄却しました。
(1)
本件検査当時、本件医師にはAに対し、近い期日に厳重な禁食処置の上、再度胃内視鏡検査を行うべき診療契約上の義務があったにもかかわらず、必要な再検査を実施しなかった過失がある。
(2)
本件検査当時に、Aに対し直ちに適切な治療が行われていたとしても、Aの死亡は回避できなかったから、本件医師の過失とAの死亡との間に因果関係はない
(3)
仮に本件検査時点でスキルス胃癌との診断がされ、これに対する化学療法が行われていたとしても、Aがその死亡の時点においてなお生存していた「相当程度の可能性」があったとまではいえない。
しかし、最高裁判所は、原審の上記各判断のうち、(3)については誤りであるとしました。その理由は以下(1)(2)です。
(1)
平成12年9月22日最高裁第二小法廷判決を引用し、検査義務を怠った医師の過失と、患者の死亡との間の因果関係が証明されない場合でも、適時に適切な検査を行うことによって、病変が発見され、早期に適切な医療行為が行われていたならば、患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときには、医師は患者がこの可能性を侵害されたことによる損害を賠償すべき診療契約上の債務不履行責任を負う。
(2)
本件の場合、本件検査の時点で本件医師が適切な再検査を行っていれば、Aのスキルス胃癌を発見することが十分可能であり、これが発見されていれば、病状・医療水準に応じた化学療法が実施されることにより、Aの延命の可能性があったことが明らかである。治療の開始が早期であればあるほど良好な治療効果を得ることができるのが通常であり、スキルス胃癌の実際の治療が開始される約3ヶ月前の時点で適切な治療が開始されていれば、Aが実際に受けた治療よりも良好な効果を得られ、Aが現実に死亡した時点において、なお生存していた相当程度の可能性があったと認められる。
結論

最高裁判所は、原審の判決を破棄し、損害の点について更に審理を尽くさせるために、本件を原審に差戻しました。(裁判官全員一致)

カテゴリ: 2004年2月27日
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