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No.75「コンタクトレンズの購入・使用後、左眼に角膜混濁・矯正視力低下の後遺障害。販売、処方に関し、販売会社や眼科医師の過失が認められた判決」

大阪地方裁判所堺支部平成14年7月10日判決(判例タイムズ1145号177頁)

(争点)

  1. コンタクトレンズの販売、処方に際して、医師や販売会社に告知、説明義務違反があったか
  2. 医師に治療義務違反があったか

(事案)

患者K(当時22歳の女性)は、平成11年4月8日、A株式会社が経営するコンタクトレンズ販売店(以下、A店という)に赴き、コンタクトレンズを購入したい旨申し出たところ、検眼するように指示され、A店に隣接するB眼科において、機械を使った視力検査等の検眼を受けた。同眼科の開設者(管理者)はB医師であった。

Kは、同日、1年間に片眼につき12枚自由に新しいレンズにリフレッシュできる「甲」という名称のカラーソフトコンタクトレンズ(以下度数の異なるものを含め、同名称のものを全て「本件コンタクトレンズ」という。)を試着の上、A店において、洗浄液その他の付属品を含め、総額3万0195円で購入した。その際、B医師及びA店従業員は、Kに対し、蛋白質除去の必要性につき、告知をしなかった。

Kは、同年6月7日、B眼科において第1回目の定期検診を受けたところ、左右両眼の視力が低下していたことから、より度数の強い本件コンタクトレンズに変更するように指示され、新たなコンタクトレンズを受け取った。

Kは、同年8月2日、B眼科において診察を受け、本件コンタクトレンズの装用により眼の痛みがあることを訴えた。そこで、B医師は、Kに対し、1日使い捨てのコンタクトレンズを装用し、最後のコンタクトレンズになった時に、再度、検診に来るように指示した。Kは、同月9日も、B眼科において、診察を受けた。

その後、Kは他の眼科を受診したが、左眼の角膜混濁が認められるとともに、視力低下が進行し、視力障害が後遺した。

Kは、B医師及びA株式会社に対して、不法行為に基づく損害賠償を求める訴訟を提起した。

(損害賠償請求額)

患者の請求額  802万1517円
(内訳:コンタクトレンズ購入代金3万0195円+後遺傷害慰謝料139万円+逸失利益587万2322円+弁護士費用72万9000円)

(判決による請求認容額)

裁判所の認容額 425万7746円
(内訳:コンタクトレンズ購入代金3万0195円+後遺傷害慰謝料120万円+逸失利益252万7551円+弁護士費用50万円)

(裁判所の判断)

コンタクトレンズの販売、処方に際して、医師や販売店に告知、説明義務違反があったか

裁判所は、「特にソフトコンタクトレンズは、一般に含水性であって蛋白質等の汚れが付着しやすく、使用するにつれて性能も低下しやすい欠点があり」、そうなると「眼への損傷の危険性が大きく、角膜の混濁、潰瘍等の重大な結果をも招来するおそれがある」として、「したがって、ソフトコンタクトレンズを医師が処方し、又は販売店が販売するにおいては、上記危険性を回避し、目の損傷、これによる重大な結果を招かないために、ソフトコンタクトレンズを使用する者に対し、正しい使用方法や、使用に伴い発生するべき眼への刺激、レンズの汚れなどの欠点、これらによる眼の損傷などの危険性、さらには、使用により眼の異常が生じた場合の対処方法等について、使用者が十分理解し、誤りなく対処しうるよう、わかりやすく告知、説明しなければならない。」と判示しました。その上で、「本件コンタクトレンズは、いわゆる従来型のソフトコンタクトレンズであり、1週間に1回程度、蛋白質の除去を行うべき必要があり、それを怠った場合には、レンズに汚れが付着して角膜等に損傷を生じさせるおそれがあるものであった」が、Kに渡された説明書や、A社従業員・B医師の説明は「一見使い捨てコンタクトレンズに類似し、蛋白質除去等の面倒な手入れは不要であるかのように受け取れるものであり、しかも、B医師自身、平成11年4月8日の本件コンタクトレンズの処方、販売に際しては、本件コンタクトレンズにコールド洗浄液を付けて、これによる洗浄のみで良いように説明したから、従前、従来型のソフトコンタクトレンズを使用し、蛋白質除去の処置を行っていたKにおいてすら、本件コンタクトレンズについて、1か月くらいで新しいレンズに交換するのであれば、蛋白質除去の必要性はないものと受け取る可能性は大きかったと認められるから、これを処方したB医師には、蛋白質除去の必要性について、これを確実に認識させることができるように、告知、説明すべき義務があった」と判示しました。

更に、裁判所は、「本件コンタクトレンズの使用中に、眼に炎症による痛みなどの異常が生じた際には、レンズに汚れが付着し、眼に機械的刺激等の悪影響を与えているものと考えられるから、そのまま漫然と使用を継続すれば悪化を招くおそれが大きいこと、炎症がある場合には、仮に新しい本件コンタクトレンズに交換したとしても、さらに悪化するおそれもあり、コンタクトレンズ装用自体を中止するべきであったこと、その他眼の異常の程度、内容により、事後にコンタクトレンズ装用の可否、可としても選択するべきコンタクトレンズの種類、その他の対処方法が異なることが認められるから、B医師としては、本件コンタクトレンズ処方に際し、Kに対し、眼に異常が生じた場合には、新しい本件コンタクトレンズに交換するのではなく、直ちに本件コンタクトレンズの使用を中止し、眼科医の診察を受ける必要があったと言うべきである」と判示した上で、B医師が、「少なくとも平成11年6月7日の度を強めた本件コンタクトレンズ処方の際には何ら告知も説明もしなかったことが認められ、他方、これより前の同年4月8日の処方の際についても、B医師が、異常を感じたら受診するように指示したと認められないのであるから、この点についても前記告知、説明義務に違反した過失がある」と認定してB医師につき、蛋白質除去の必要性及び眼に異常が生じた場合の対処についての告知、説明義務違反を認めました。

また、A社についても、「蛋白質除去の必要性につき確実に認識させることができる方法で、告知、説明すべき義務があったと言うべきであり、また、眼に異常が生じた場合には、直ちに本件コンタクトレンズについて、新しい本件コンタクトレンズと交換することなく、使用を中止し、眼科医の診療を受けるべきことを告知、説明すべき義務があった」と判示した上で、蛋白質除去の必要性の点について、A社従業員が、その必要性はない旨誤った告知をしていると認定して、告知、説明義務違反があることは明らかであると判断しました。更に、眼に異常を感じた場合の対処に関して「取扱説明書の交付だけではなく、その従業員をして、口頭でも、直ちに装用を中止し、眼科医の診察を受けるべき旨の説明をさせるべきであった」として、A社従業員による告知、説明義務違反の過失を認定しました。

医師に治療義務違反があったか

この点につき、裁判所は、「平成11年8月2日に、Kは眼の痛みを訴え、Kの左眼には炎症から来る角膜混濁があり、その炎症が終息していなかったと見られるのであるから、このような場合、前述のとおり、コンタクトレンズの装用自体を中止するべきであり、検診に当たったB医師としても、適切な治療をなす義務として、当然そのように指示するべき義務があったと言うべきである」と判示した上で、「しかし、同日、B医師は、コンタクトレンズの装用を中止させず、1日使い捨てコンタクトレンズを処方したから、上記義務に違反した過失があったと言うべきである」と認定しました。

カテゴリ: 2006年7月21日
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