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No.37「人間ドックの健康診断で癌の可能性説明せず。病院の過失を認める地裁判決」

平成15年3月13日東京地方裁判所判決 損害賠償請求事件

(争点)

  1. 病院が人間ドックに関する契約上の義務(癌の可能性についての説明等)を果たしたか
  2. 患者の死亡とF病院の債務不履行との間に因果関係があるか
  3. 損害額

(事案)

患者G(当時74歳の男性。27歳ころ肺結核を患い、片肺を手術により切除していたこともあって、その肺機能が落ちていた)は、平成10年9月21日、被告が開設するF病院において人間ドックによる健康診断を受診した。

同年10月3日ころ、その結果が記載された「人間ドック健康診断報告書」がG宛に送付された。同報告書には、呼吸器系検査の結果として、「円形陰影像については、CT検査等で詳細を確認して下さい。」と、上部消化管検査の結果として、「内視鏡検査にて詳細の確認をして下さい。」と記載されていた。

Gは、上記報告書の記載に従って、平成10年10月7日に胸部CT検査等を、同月9日に胃の内視鏡検査等を受けた。CT検査の結果について、検査担当のIは、本件検査記録に、「肉芽腫が考えられる。多発性肺のう胞については胸レントゲンではないので、精査必要・肺癌除外→癌細胞診、気管支鏡 生検」と記載した。

Gは、平成10年10月12日にF病院で説明担当のJから検査結果の説明を受けた。

Gはその後平成11年1月5日、体調の不調を訴えてH病院を受診し、同月6日に入院し、同月17日に肺癌により死亡した。

Gの相続人である原告ら(妻と子2名)は、F病院の医師が、癌の可能性等についての説明を行わず、気管支鏡検査や生検等の精密検査を勧めなかったことが債務不履行に当たると主張して、被告に対し債務不履行に基づく損害賠償を請求した。

(損害賠償請求額)

2790万4367円(内訳:慰謝料金1000万円+逸失利益金1432万9366円+弁護士費用金357万5000円 合計2790万4366円。妻が2分の1、子2名が各4分の1相続。請求合計額は端数処理の関係で1円多くなっている)

(判決による請求認容額)

440万円(内訳:慰謝料金400万円+弁護士費用40万円)

(裁判所の判断)

病院が人間ドックに関する契約上の義務(癌の可能性についての説明等)を果たしたか

この点につき、原告と被告との間で説明の内容・有無についての主張が対立していました。

裁判所は、証拠上JがGに対して癌の可能性について説明したとは認定できない旨判示しました。

そのうえで裁判所は、人間ドックに基づく健康診断は、医療機関と人間ドック受診者との間で締結される診療契約であって、当該医療機関は、検査の結果に基づいて受診者の健康状態を把握し、その状況を説明するとともに、適切な健康管理上の助言を行うべき債務を負うと判示し、F病院は、癌の可能性についての説明をせず、自らの健康状況に関して癌の可能性があるという正確な情報を認識していないGに対し、気管支鏡検査の危険性と必要性に乏しい面を強調する説明を行い、結果として、Gが癌の危険性と気管支鏡検査の危険性等を正確に認識した上で受検の当否を決定することができる機会を失わしめたと認定しました。

そして、このようなF病院の行為は、人間ドックにおける診療契約上の債務を十分に履行したとは言えないものであり、F病院は、Gに対し、債務不履行の責任を負うべきであると判断しました。

患者の死亡とF病院の債務不履行との間に因果関係があるか

裁判所は、Gの身体状況が必ずしも十分なものではなく、気管支鏡検査等の検査の身体に対する負担が十分に考えられたこと、及び、肺癌の進行が予想できないほどあまりにも急速であったことを考慮すると、仮に気管支鏡等の検査が行われたとしても、検査がどの時点で実施できたか、検査が無事に終了して肺癌が発見された場合に、肺癌に対する有効な治療が可能であったのか、治療が実施された場合に当該治療が奏功してGの延命が図れたかどうかについては、相当程度の疑問が残ると判断しました。

更に、被告(F病院)の債務不履行とGの死亡との因果関係を認定するためには、肺癌の発見がどの時点で可能となったのか、その時点で具体的にどのような治療方法があったのか、適切な治療法がとられればどの程度の延命が可能であったのかを、原告らにおいて具体的に立証する必要があるというべきところ、本件においては、そのような立証がなされているとはいい難いと判示しました。

そして、被告(F病院)の債務不履行とGの死亡との因果関係を否定しました。

損害額

裁判所は、F病院の債務不履行により、Gは、自らの生死に直接関係する気管支鏡検査等の精密検査を受検するかどうかの自己決定の機会を失い、自らの死期が近いことを知ることができず、人生の最後の段階の過ごし方を考える機会をもつことができなかったと認定し、自らの健康状況を把握するために健康診断を受けたGの意図を全く無にしたものというべく、それに対する慰謝料は金400万円をもって相当と判断しました。

死亡との因果関係を否定したことから、逸失利益は認めず、弁護士費用は40万円を相当と認定しました。

カテゴリ: 2004年12月14日
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