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No.5 「膝関節手術後の点滴過剰投与で患者が死亡、医師に有罪(執行猶予付禁錮刑)判決」

平成15年3月28日新潟地方裁判所判決

(争点)

  1. 整形外科医が手術後に点滴剤を過剰に投与して患者を死亡させた、業務上過失致死事案における注意義務(過失)の内容
  2. 量刑(禁錮1年、執行猶予3年)とその理由

(事案)

被告人(病院勤務;整形外科医)が、当時85歳の心臓疾患(拡張型心筋症)がある女性患者の主治医として、左膝関節全置換手術を実施したが、同手術後の患者の心機能低下防止のため、急性循環不全改善剤である塩酸ドパミンを含む点滴剤(プレドパ注200)の点滴をした。

患者の収縮期血圧は約200ミリメートルHgと高く、体重は50キログラムであった。点滴剤の説明書には、体重50キログラムの患者に対する点滴量は1時間当たり9ないし60ミリリットルであると記載されていた。

医師は、看護師らに上記点滴剤を1時間当たり540ミリリットル点滴するよう指示し、手術当日の午後10時頃から翌日午後1時頃までの間、1時間当たり約540ミリリットルの点滴がされ続け、手術翌日の午後4時35分頃、患者は過量点滴による急性肺水腫により死亡した。

(裁判所の判断)

注意義務の内容

医師としては、点滴剤の説明書の記載に留意することはもちろん、患者の血圧状態等に応じて、適正な量を点滴すべき業務上の注意義務があるのに、被告人はこれを怠り、心機能低下防止に気をとられ、看護師らに指示して1時間当たり約540ミリリットルの点滴をさせ続けたことは過失であると認定。

量刑とその理由

量刑 禁錮1年、執行猶予3年

量刑理由
(1)
本件に至る経緯
被告人の被害者(患者)に対する手術実施計画、とりわけ術後の管理計画が適切かつ綿密になされていないことに起因するものであり、酌量の余地は乏しい。
(2)
業務上過失の程度、態様
多量の点滴剤を長時間にわたり使用する必要性に疑問がある上、看護婦や薬剤師から使用量が多すぎるのではないかとの指摘を再三受けながら無視して、通常使用量の約9倍も大量の点滴を続行した業務上過失の程度は高く、その態様も悪質。
(3)
被害者側の事情・結果の重大さ
被害者は被告人の言葉を信用し、その専門知識と技量を信頼して本件手術を受け、せっかく手術自体には成功しながら、予期せぬ被告人の過失により死亡に至ったものであり、被害者には全く落ち度がなく、よもや苦しみながら生命を落とすことなど夢想だにせず、むしろ手術後には、手術前より快適な老後の人生を送れることを楽しみにしていたであろうその心情を思うと哀れであり、本件の結果は誠に重大。
(4)
被害感情
医療過誤で母を奪われた遺族の悲しみと衝撃が極めて大きいことは容易に推察できる。遺族の被告人に対する被害感情が極めて厳しいのは当然。
(5)
被告人のために酌むべき情状
1.被害者の異変に気づくや、救命のための医療措置を講じた。
2.犯行後の遺族への対応には問題があったが、公判では事実を認め、遺族に謝罪し、本件を深く反省していること。
3.本件後、民事判決に従って1800万円余りの損害賠償金を遺族に支払ったこと。
4.被告人は、新聞報道、勤務先での減俸処分などの社会的制裁を受け、今後医道審議会による行政処分を受ける予定であること。
5.被告人には前科、前歴がなく、初めて公判請求されて事案の重大性を自覚し、今後の更生を誓い、勤務先病院の理事長をしている兄がその更生に協力することを誓っていること。
カテゴリ: 2003年10月31日
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