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No.133「陣痛促進剤の副作用により胎児が低酸素状態になり出生後に死亡。陣痛促進剤投与後の分娩監視を怠ったとして病院側に損害賠償義務を認めた判決」

神戸地方裁判所尼崎支部平成15年9月30日 判例タイムズ1144号142頁

(争点)

  1. 胎児仮死の原因
  2. 医師らに陣痛促進剤投与後の分娩監視義務違反が認められるか

(事案)

患者X(当時29歳の初妊婦)は平成12年5月25日、妊娠37週6日目で前期破水のため、16時15分ころ、Y町村共同国保Y病院経営事務組合(Y組合)が経営するY病院で、勤務医であるY2医師の診察を受けてY病院に入院した。5月26日、Xは破水から約16時間経過した7時30分ころになっても不規則で微弱な陣痛はあっても有効陣痛の発来がなかった。Y2医師は、頸管は依然熟化していないものの、陣痛促進の適応があるものと判断し、陣痛促進と頸管熟化の双方を目的として、経口剤であるプロスタルモンE剤(本剤)を投与することにした。Xは同日8時15分ころから13時15分ころまで、約1時間ごとに本剤を合計6錠内服した。

Y病院では、陣痛誘発・促進剤による分娩誘発を行う場合であっても、必ずしも分娩監視装置を連続装着することなく、医師や助産師が時間を区切って訪室し、ドップラー胎児心拍数の確認、妊婦問診、職員による観察、分娩監視装置の装着等を織り交ぜて分娩経過を監視しているのが通常であった。

しかし、本件では、13時ころにY2医師による内診が行われた上、13時15分ころに6錠目の本剤が投与されたが、それ以後15時まで助産師がXの病室を訪室することもなく、15時ころになって分娩監視装置を装着してはじめて、胎児仮死兆候である心拍数の高度除脈を発見した。

Y2医師は、高度除脈と内診の所見から胎児仮死と診断し、急速逸娩のため15時45分から16時17分まで帝王切開手術を施行したが、胎児Aは娩出時、心拍聴取できず、自発呼吸なく、体動はなかった。蘇生措置がとられたが、16時38分死亡が確認された。

患者Xとその夫が、出生後まもなくAを死亡させたことにつき、Y組合と担当医Y2に対して、損害賠償請求訴訟を提起した。

(損害賠償請求額)

新生児の両親合計6065万1852円
(内訳:新生児の損害を相続した分(治療費5万1830円+逸失利益2385万2273円+死亡慰謝料2400万円)+父固有の損害(葬儀費用100万円+慰謝料300万円)+母固有の損害(治療費22万0445円+入院雑費1万3500円+慰謝料300万円)+弁護士費用551万3804円)

(判決による請求認容額)

新生児の両親合計3673万7368円
(内訳:新生児の損害を相続した分(治療費5万1830円+逸失利益1848万5538円+死亡慰謝料1000万円)+父固有の損害(葬儀費用80万円+慰謝料200万円)+母固有の損害(慰謝料200万円)+弁護士費用340万円)

(裁判所の判断)

胎児の仮死の原因

まず、裁判所は、本件胎児仮死の原因は、内診を経て6錠目の本剤を服用した後である13時30分以降、本剤の作用により強すぎる子宮収縮が起こり、これにより惹起された低酸素状態によると判断しました。

医師らに陣痛促進剤投与後の分娩監視義務違反が認められるか

裁判所は、まずはじめに、正常と異常が背中合わせといわれる周産期の母胎管理について、各種検査機器・装置による種々の理学的データ所見のみならず、臨床の実際に現れた具体的な種々の徴候を総合評価して遺漏なきを期すべきであると判示しました。そして、これを陣痛促進剤による分娩誘導時に焦点を当てて検討すると、本剤に関する医学的知見によれば、本剤の投与は、子宮感受性の強い産婦によっては強い陣痛により母体側では子宮破裂等、胎児側では胎児仮死を招来するおそれがあるところ、胎児仮死の徴候のうち、高度徐脈等はドップラー胎児心音検出器でも聴取することができるものの、胎児心拍と陣痛との関係を表す遅発一過性徐脈や、基線細変動のような継続監視により情報を得られる異常波は分娩監視装置でなければ把握できない点を指摘しました。その上で、薬効の有効時間内は母胎の急変を予期して、これら情報を連続的に得ることができる代替監視態勢(スタッフが産婦の傍をひとときも離れることなく心音や触診などで状況を確認するといった体制)のような高コストを回避するのが分娩監視装置であるとすると、実際問題としては分娩監視装置の連続装着しか考え得ず、少なくとも本件証拠上これと同程度と認めるに足る具体的な監視方法は見当たらないと認定しました。

そしてAは26日15時には胎児仮死に陥っていたから、それ以前には胎児仮死の徴候である遅発一過性徐脈、高度徐脈等々の異常心拍数・型を呈していたはずであり、具体的に何時ころにいかなる異常脈が発生したかは確定することはできないが、少なくとも、胎児仮死が現に発生している限り、胎児はこのような心拍の異常波をいわば救援信号として発していたことは容易に推認できるとしました。そして、Y病院におけるY2医師らの実際の分娩監視においては、6錠目の本剤を投与した13時15分以降、高度徐脈の持続という事態の急変に気付いた15時までの1時間45分の間は、分娩監視装置の装着はおろか、助産師等の分娩介助・監視職員の一人として患者Xを訪室することなく放置し、13時30分以降には、分娩監視装置を装着ないしこれに準ずる方法による監視を履行すれば当然に獲得できたはずである遅発一過性徐脈、基線細変動の消失、高度徐脈等の胎児仮死徴候データをつかめなかったのであるから、Y2医師及びY2医師と連携して分娩経過を監視すべきY病院の分娩介助・監視職員には、なすべき分娩監視義務を怠った過失があるとしました。

そして、一般に、胎児仮死の発生した場合は、子宮収縮抑制剤を投与して強い陣痛を軽減し、低酸素状態とアシドーシスの改善を図るなどして、速やかに胎児を娩出すれば救命することが可能であり、本件でも、Y2医師らが、15時より早い時点で遅発一過性徐脈や高度徐脈を発見すれば、早期に娩出して酸欠状態を除去し、メイロン等の投与により代謝性アシドーシスを改善することで、胎児Aの予後は大きく異なっていたと推認するに難くなく、死亡を確認された16時38分時点で生存していたであろうことを是認しうる高度の蓋然性があるというべきであり、Y2医師らの分娩監視義務違反と本件の結果との間に因果関係を認めました。そのうえで、Aの逸失利益やA固有の慰謝料・両親の慰謝料などの損害賠償を認めました。

カテゴリ: 2008年12月18日
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