医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.440、441】

今回は、患者の容態が急変して死亡した事例において、医師の過失が認められた裁判例を2件ご紹介します。

No.440の事案では、患者遺族は患者を救急センターに搬送する前に、開業医の医師自ら気管内挿管による気道確保の措置をとるべきであったとも主張し、証人も遺族の主張に沿う供述をしました。

この点につき、裁判所は、「気管内挿管による気道確保の絶対適応は患者が意識のない状態に陥った場合であり、挿管は患者に意識がある状態下で行われることもあるが、それは上気道の閉塞がなく、かつ、設備の整っている手術場で熟練した麻酔医によって麻酔を使用したうえで行われるのが一般的であるところ、救急センターへの搬送前は患者に意識があり、また、患者には喉頭浮腫という上気道の障害があったから、内科ないし整形外科の一般開業医に、救急センターへの搬送前に患者に対し気管内挿管の措置を施すことを要求することは困難であった」と判断して、遺族の主張に沿う証人の供述を採用しませんでした。

No.441の事案では、医師は、脳動脈瘤が破裂した場合の死亡率は50%であるから、医師がくも膜下出血と診断できず、患者を転医させなかったことと、患者の死亡との間の因果関係は否定されると主張しました。

これに対し、裁判所は、初回出血後、早期に脳動脈瘤のクリッピング術を実施しておれば、再出血を防ぐことができる可能性が高いことなどを指摘し、患者の初回出血の翌日であった初診時にくも膜下出血との診断がなされていれば、再出血が起こった時点よりも前にクリッピング術を実施し、再出血を予防できたものと認められると判示し、医師がくも膜下出血を否定する診断をせず、CT撮影の可能な医療機関への転医をしていれば、直ちにクリッピング術が実施されることにより患者が再出血を発症することはなく、死亡することもなかったとの高度の蓋然性が肯定されるというべきであると判断して、医師の主張を採用しませんでした。

両事案とも実務の参考になるかと存じます。

カテゴリ: 2021年10月 8日
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