医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.338、339】

今回は、手術後の看視や合併症発症の予防に関する医師の注意義務違反が認められ、病院側に損害賠償が命じられた事案を2件ご紹介します。

No.338の事案では、病院側は、本件が小児の浮遊肘の症例であって、その医学的治療方法が現在でも確立していないことから、治療に当たりいかなる措置を講じるかは、経過観察をすることを含めて、医師の裁量により決定されるべきと主張しました。しかし、裁判所は、阻血性拘縮(フォルクマン拘縮)は、上肢機能の喪失に至るおそれがある重篤な合併症であるから、その治療は骨折治療に優先して行われるべきであり、このことは上腕骨顆上骨折を伴う浮遊肘(複合骨折)の症例であっても同様であることや、橈骨遠位端骨折に起因して阻血徴候と紛らわしい症状を呈することがあるとしても、少しでも阻血徴候の疑いがある場合に、ギプスを除去するなどして直接、右前腕部を視診、触診したり、各種検査方法を利用することにより、浮遊肘の症例においても、阻血徴候を看視することは可能であると認められるとして、浮遊肘であることを理由として、その治療に当たり、いかなる措置を講じるかは医師の裁量により決定されるとの病院側の主張につき、「到底採用することができない」と判示しました。

No.339の事案では、医師らの説明義務違反の有無も争点の一つでした。裁判所は、担当医師が、静脈血栓塞栓症発症のリスクレベル、これに対応する予防措置とその合併症、そして予防措置を講じてもこれを完全に防止できないことなどについて何ら説明をせず、病院において患者に交付することとされていた「静脈血栓塞栓症の予防に関する説明書」を交付することも、静脈血栓塞栓症発症の予防措置を講ずることについて患者の同意を得ることもしていないのであって、担当医師には説明義務違反があると認定しましたが、患者が自らの判断で手術を受けたこと、担当医師は、血栓症等の予防のために積極的に運動するよう指導するなど、血栓症について一応の説明をしていることなどからすると、担当医師に説明義務違反がなければ患者が本件手術を受けなかったという高度の蓋然性があるとは認められないし、このことにつき相当程度の可能性があるとも認められないとして、説明義務違反に基づく損害賠償については否定しました。

両事案とも実務の参考になるかと存じます。

カテゴリ: 2017年7月 7日
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