医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.342、343】

今回は、高齢者の転倒事故に関する地裁判決を2件ご紹介します。

医療機関での事故ではありませんが、高齢者の転倒は医療機関でも発生する事故ですので、訴訟に至った場合の判断につき、医療従事者にも有意義な事例と思われます。

紹介にあたっては、平成15年当時のNo.342の判決文中で「痴呆」とある箇所は「認知症」に変えました。

No.342の事案では、介護サービス施設の従業員が、(来客対応のため)玄関に行く前に施設利用者(その後転倒)の様子を見たところ、まだ眠っていた旨供述したことにつき、裁判所は、当該従業員が来客への対応に行ってから、施設内の静養室で(施設利用者の転倒による)音がするまでは15秒ないし20秒しか経っていなかったのであり、施設利用者の年齢(95歳)、身体的能力(両膝関節に変形性関節症を有し、歩行に困難を来している)、訴訟前に施設側から利用者代理人に送付された事故当時の記録が書き換えられたものであったことに鑑みると、従業員の上記証言は採用できないと判断しました。

また、同事案では、利用者は、限定的ではあるが、自力で移動する能力があり、施設を利用するようになってからは、活動性を増しており、そうした中で本件事故が発生したものであること、利用者の活動能力が回復してきたことなどに鑑みれば、利用者が昼寝の最中に尿意を催すなどして、起き上がり、移動することは予見可能であったとの判示がなされています。

医療機関においても、治療により患者の症状が当初よりも改善し、活動能力が回復する中での転倒は予見可能かと思われます。

No.343の事案では、 介護施設の管理者であった職員は、もう一人の介助担当職員であった看護師が、転倒事故の後、利用者を病院に連れて行くようにとの指示をしなかったことを証言しましたが、裁判所は、当該看護師は介護施設運営会社側内部の人物であり、同人がその判断を誤ったことが、介護施設運営会社の責任を免ずべき理由とならないことは明らかであるとし、さらに、利用者又は利用者の息子(後に利用者の後見人に就任)が、利用者を病院に連れて行くように要望しなかったとしても、利用者の息子は直接に利用者の状態を確認できる立場にはなかったものであるし、自らの健康状態を適切に判断できる能力があったことに疑問がある利用者の言動によって、介護施設運営会社の義務(介護提供中に利用者の病状の急変が生じた場合には、速やかに主治の医師に連絡を取る等の必要な措置を講ずべき義務)が解除されるものでもないと判示しました。

両事案とも実務の参考になろうかと存じます。

カテゴリ: 2017年9月 8日
ページの先頭へ