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No.111「飲酒中に気分が悪くなった大学生が、国立病院での診療を受けた後、帰宅時には心拍が停止しており、その後の処置でも回復せず急性呼吸不全のため死亡。国立病院側の損害賠償責任を認めた判決」

高松高等裁判所平成18年9月15日判決 判例時報1981号40頁

(争点)

  1. Y医師がAを帰宅させる際に再度の診察を行わなかったことに診察上の注意義務違反が認められるか

(事案)

平成10年11月21日夜、大学4年生であった患者A(当時22歳)は、友人らと酒を飲んで気分が悪くなり、友人に連れられて国立Y病院に赴き、同日午後10時50分ころに勤務医であるY医師の診察を受けた。

Y医師は、患者Aが多量の飲酒により血を吐き自力歩行ができずに救急患者として友人に連れられ救急治療を受けたこと、患者Aの頭部等に外傷がないこと、湿性ラ音がないこと、心雑音がないことを診察した。更にY医師は、看護師Bの測定した血圧、脈拍等が正常範囲であること、Y医師の問いかけに言語がやや不明瞭であるが「Aです」「B学院の学生です」などと答え、また若干よろけながらであるもののベッドにも座るなどしたことなどから運動失調のある軽度(中等度寄り)のアルコール中毒と診断してランテックG(500ml)の点滴注射を看護師Bに指示し、看護師Bはこれを実施した。

また、午後11時40分頃の2回目の診察では、患者Aを隣に並んだ別のベッドに一人で移動させた際、患者Aがコーヒー残渣様の血液を嘔吐したことから、Y医師はヴィーンD(500ml)の輸液に止血剤等を投入した。

その後、Y医師は、患者Aの診察を行わないまま、B看護師に患者Aを帰宅させるように指示した。同月22日午前0時45分ないし50分ころ、患者Aの両親が、患者Aが血を吐き、しんどいと訴え、自力歩行もできないといった状態のため、再度診察をもとめたにもかかわらず、患者Aを帰宅させた。

患者Aが自宅に到着した後、心停止に陥っていることが判明し、両親は救急車を要請し午前2時過ぎに救急車でM病院に搬送され、心肺蘇生処置を受けたが、同日午前3時1分に死亡した。

患者Aの両親がY医師と、Y医師の使用者である国(後に独立行政法人国立病院機構が訴訟を承継)に対して損害賠償請求訴訟を提起した。

(損害賠償請求額)

患者遺族(両親)の一審での請求額:両名合計9045万1000円
(内訳:逸失利益6125万1000円+慰謝料2000万円+葬儀費用120万円+弁護士費用800万円)

(判決による請求認容額)

一審の認容額:両名合計8845万1000円
(内訳:逸失利益6125万1000円+慰謝料1800万円+葬儀費用120万円+弁護士費用800万円)

控訴審の認容額:金額・内訳とも一審と同額

(裁判所の判断)

Y医師が患者Aを帰宅させる際に再度の診察を行わなかったことに診察上の注意義務違反が認められるか

まず、裁判所は、患者Aは急性アルコール中毒に起因して、アルコール心筋症、低体温による心機能低下、アシドーシスの存在、それらの上に比較的早い輸液などが原因となって、急性心不全となり、それによって、直接死因である肺水腫を発症し、急性呼吸不全により死亡したと認定しました。

次に、裁判所は、急性アルコール中毒の救急患者に限らず、救急患者の治療が終了した後に患者を帰宅させる場合には、帰宅前には必ず患者の様子を確認する必要がある。通常の急性アルコール中毒では時間と共に(数時間ないし半日で)、意識、運動能力ともに改善していくのであるから、その改善ぶりを確認する必要があると判示しました。

その上で、患者Aが1回目の診察から約50分経過後の2回目の診察においても意識や運動能力の回復が遅く、治療終了後さらに約1時間を経過しても血を吐き、しんどいと訴え、自力歩行もできないといった状態であって急性アルコール中毒症状の改善がなく、また両親からも再度診察を求められたのであるから、救急患者であるAの治療が終了して帰宅させる際、アルコール性心筋症等の発症を疑い、再度患者Aを診察すべき義務があるのにこれを怠った過失があると認定しました。

そして、患者Aの治療終了後に診察がされていれば、患者AをY病院内で経過観察して患者Aの状態に応じた治療がなされ、アルコール性心筋症等の発症を防止することができたか、あるいはこれらが発症したとしても、急性肺水腫の発症までには至らなかった蓋然性があるとして、Y医師に注意義務違反を認め、Y医師及び独立行政法人国立病院機構に一審と同様の損害賠償義務を認めました。

カテゴリ: 2008年1月22日
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