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選択のポイント【No.478、479】

今回は、医師が手術を行うべき義務に違反したと認定された裁判例を2件ご紹介します。

No.478の事案で、病院側は、開腹手術自体が身体に対する侵襲である以上、腹膜刺激症状があり、CTで血行障害の所見が得られた場合などでなければ、絞扼性イレウスの疑いを理由とする開腹手術の適応は生じないなどと主張しました。

しかし、裁判所は、腹膜刺激症状は、腹膜炎の所見であって、絞扼性イレウスの場合に腹膜炎が起きやすいことから単純性イレウスとの鑑別のポイントとされ、また、イレウスにより腹膜炎が発症している場合には通常手術適応が認められるから手術適応の目安とされているのであって、絞扼性イレウスを発症すると常に直ちに腹膜炎を生じるわけではないこと、腹膜刺激症状が認められない場合でも、腹痛その他の症状から絞扼性イレウスと診断されるか、その疑いが強いと判断される場合には手術適応が認められる場合もあること、腹部CT検査で血行障害が認められるのは、腸管壁や腸間膜動脈の造影効果の低下や欠如によってであり、腹部CT検査で血行障害が確認できなかった場合に絞扼性イレウスが否定される旨指摘する文献も特に見当たらないことなどからすれば、絞扼性イレウスが発症して血行障害が生じていても、それが造影効果の低下として捉えられない場合も考えられ、腹部CT検査上、血行障害が認められた場合に絞扼性イレウスを疑うのは当然としても、血行障害が確認できないからといって絞扼性イレウスでないとはいえず、患者の腹部CT検査の所見は絞扼性イレウスと矛盾するとはいえないなどと指摘して、病院側の主張を採用しませんでした。

No.479の事案では、消化器内科の医師だけでなく、患者の開腹手術を担当した消化器外科の医師についても、患者が絞扼性イレウスにより消化管が穿孔してエンドトキシンショックを生じたため、小腸壊死部を緊急に外科除去する必要があることを認識していたにもかかわらず、エンドトキシン吸着療法を先行させ、絞扼解除をいたずらに遅延させた過失の有無が争点となりました。

しかし、裁判所は、エンドトキシン吸着療法を先行させる判断を行ったのは、消化器内科の医長医師であり、その指示に基づきこれを実施したのは消化器内科の別の医師であった上、開腹手術前にエンドトキシン吸着療法を行ったこと自体に関しても、医学上、壊死腸管内に充満するエンドトキシン等が全身に流出するのを避けるために絞扼解除前に血管処理を行うことが望ましいとされ、その有用性が指摘されており、過失を構成するものとは認められないとして、消化器外科の医師の過失を否定しました。

両事案とも実務の参考になるかと存じます。

カテゴリ: 2023年5月10日
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