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選択の視点【No.330、331】

今回は、医師の誤診や、手術の適応に関する医師の過失が認められた事案をご紹介いたします。

No.330の事案では、病院側は、「初診時のCT画像は一般外科医において一義的に肝嚢胞(実際は水腎症でした)と考えてもやむを得ないものであり、このように考えると以後見解を修正することはできないから、担当医師は無過失である」旨主張しました。

しかし、裁判所は、「当初の考えが先入観となって後に見解の修正が困難になることは、特に医療に限ったことではなく、医療水準の問題を離れて一般的に起こりうる問題である。医師は、人の生命及び健康を管理するべき業務に従事する専門職であり、高度の注意義務を負う者なのであるから、当初の先入観により後に見解の修正が困難になることが一般的にあり得るのであれば、逆に常に種々の検査結果等によって当初の見解を検証して、適切な診断を下すべく注意を払う義務があるというべきであり、本件の場合、仮に最初のCT画像が肝嚢胞と考えるのが相当でも、認定諸事実によれば一般的外科医であったとしても各種検査結果等によって常に自己の当初の見解を検証するべく注意を払っていれば、患者が水腎症であると見解を修正することは可能であった」として、病院側の主張を採用しませんでした。

No.331の事案では、紹介にあたり掲載誌(判例タイムズ)の解説も参考にしました。

本事案で、被告病院側は、「上矢状静脈洞の前方三分の一に流れ込む架橋静脈については、これを切断しても静脈環流障害等の後遺症は何ら起こらない」旨主張し、担当医師も、架橋静脈切断について、「本件手術当時、架橋静脈、特に上矢状静脈洞の前方三分の一にあるものを切断しても、術後に何らかの症状を起こすことはないと認識していた」旨供述しました。

しかし、裁判所は、「医学文献にできるだけ架橋静脈を温存する必要がある旨の指摘や、未破裂脳動脈瘤については、発見されれば即手術という考え方が一般的になった時期もあったが、実際の手術成績を見ると、患者の高齢化に伴う手術合併症は決して少なくないとして、安直な手術適応は厳に戒めるべきである旨の指摘がされている」ことや、「鑑定人の鑑定書で、架橋静脈とシルビウス静脈を同時に切断していることは、静脈環流を考えると少し気になる点であり、鑑定人であればどうにか残して手術をするであろうが、教科書的には架橋静脈を切断しても可能といわれており、一般的には切断することもやむを得ないと思う旨指摘している」ことを挙げ、これらに加えて、「被告病院が我が国でも有数の大学病院であり、最先端の医療水準を期待されていることにかんがみれば、被告病院及びその医師には患者のシルビウス静脈の発達の程度や切断が予想される架橋静脈の状況等の具体的事情によっては、当該架橋静脈の切断がその周辺の静脈環流系に影響を及ぼす危険性があるとの医学的知見をも踏まえて手術に当たるべきことが求められていた」と判示しました。

両事案とも実務の参考になろうかと存じます。

カテゴリ: 2017年3月15日
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